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鋼鉄のハンマーにでも殴られた感触が顔の半分に残り視界も半分消える。口の中は鉄の味が広がりすぐ血だとわかる。一撃で下半身の力は抜かれ心まで挫かれそうになりソウジは仰向けに倒れた。


目の前には地面の砂が広がり耳には村人が虐殺される声が響く。オルガの言った通りに村の英雄にでもなりたったのか、そんな考えが頭に浮かぶと唇を噛み締め立ち上がろうとするが膝から下が動かない。



「親父」



幼き頃ソウジは父親にわけのわからない格闘技を叩き込まれていた。打撃の打ち方、組技、コンビネーションと聞こえはいいがどれも競技ではなく実戦を想定した物だと気付くまで時間はかからなかった。


しかしその技術は生きていく上で役に立たなかった。10代の頃徹底的に体を作り込まれ毎日父親と組み手をした。そんな父親に母親も嫌気がさして出ていった。



「なぁ親父……あんたこんな状況を想定してあんなふざけた事教えてたのかよ」



父親曰く何代にもわたって受け継がれた技術らしいがソウジは信じられない。いい大人がこんな危険な技術を何十年も続けて生まれた子供に教えて込むなんて正気ではないと思う。



「トラックに跳ねられこんな所にきて今度は化物女か。本当に地獄にきたんだな」



父親は死ぬ間際までこの技術を子供に伝えてくれと言ったが教える前に嫁と子供に逃げられそこで途絶えたと思っていた。そこまで興味はなく気にもしなかったが、オルガの前に立ち初めて役に立つ。



「あら爺さんまだやるのかい」



片目は大きく腫れて見えなく頭の中で脳が暴れ回り視界が安定しない。それでも立ち上がり拳を上げ歩を進めていく。



「やめなよ。あんた強いし、どうせなら魔王軍に入らないかい」



正義を語る気はないが楽しさで人の命を奪う連中が許せなかった。オルガと戦い体では負けているが技術は上だと核心して笑う。あんな毎日父親と共に学んだ技術が役に立つ日がくるとはと笑みを浮かべ近づく。



「う、うるへぇ」



呂律がまともに回らない。オルガが構え肩が動いた瞬間にはっきりと見える、矢のように鋭く大きな拳が――…しかしそこでソウジの意識は消える。



「根性は認めるが、歳を考えなよ爺さん」



ボロボロの体で避けられるわけもなくソウジは再び顔に直撃を受けて倒れた。老人と2メートルの化物が殴り合えば当たり前の事が起こり、最後に見た光景がオルガの分厚い背中と倒れていく村人。



「なんだってんだよ。ふざけんな……」



痛みはなく逆に快楽からくる睡魔に勝てず意識を断ち切ると体が揺れる感触に気付く。上下に揺らされ何事かと思い目蓋を開けた瞬間に激痛が走り悲鳴を上げた瞬間に担がれていたソウジは下ろされる。



「気付いたな爺さん」



担いでた男を見上げると少し前に見た傭兵達と大差ないスキンヘッドの大男が手を差し伸べてきた。



「息のあるのあんただけだったんで連れてきたが、あの村で何が起こったんだ」



周辺を見ると同じ傭兵達が囲んでいていよいよ最後の時がきたかと覚悟した瞬間にくる。傭兵達の海を一直線に割るように一人の少女が現れると目を疑う。


褐色の肌は銀髪によく似合い真っ赤な瞳は炎のように燃え上がり着ていた甲冑装備とも合わさり、有名な芸術家が描いた一枚の絵画にさえ見えた。



「お爺さんあの村で何が起こったの、覚えてる」



少女の言葉を聞くと胸糞悪い光景が蘇り口を動かす。



「魔王軍とかいう奴らがきて皆殺しにされた。生きてるの俺だけだったのか」



少女や沈黙で理解したソウジは理解し肩を落とす。



「私はシゼル。こいつらを纏めてる偉い人なんだよ!! よろしく」



可愛らしい笑顔をくれたシゼルに答えるべくソウジも笑顔を作るとそれだけで痛い。



「そうだ!! 魔王ってなんだよ!!」



思い付いた疑問をぶつけるとシゼルは笑顔を消して答えていく。



「ただの快楽主義者の馬鹿野郎だよ。見たでしょ? 魔王は世界中であんな事を繰り返し楽しんでるだけだよ」



「おいおいそんな事して何の得があるんだよ」



「力を持った人間の特徴だよ。自分の力を使わずにはいられないだけ、そこにたいした理由なんてないよ」



まるで新しく手に入れた玩具で遊ぶ子供だった。魔王はとてつくなく馬鹿だが力があるだけ始末が悪い。



「近くの村まで送ってあげるよお爺さん」



「有難いが行く所のない文無しだ」



「え!! いや家族とかいるんでしょ」



よろよろと立ち上がり皮肉めいた笑みを作りソウジは言う。



「嫁も子供も10年以上も前に逃げられてな、ただの浮浪者みたいなもんだよ」



「どうするよシゼル」



傭兵の一人が話しかけるとシゼルも困った様子になりなんとなく自分がお荷物と気付いた。



「こんなご老体を一人にしたら盗賊に絶対襲われるしなぁ~う~ん」



外見の割りに頭を抱えコミカルな動きをしているシゼルを見ていたソウジはこれからの展開で今後が決まるとわかり緊張していた。



「おい爺さん何か特技あるか」



傭兵が話かけると過去の自分を思い出す。誘導くらいで後はわけのわからない格闘技しかない。



「打撃からタックルして寝技に持ち込むのが得意だ」



シゼルと傭兵達は一瞬何をいっているんだと顔をしたが、シゼルだけが気付き拳を突き出す。



「それって素手でも戦えるって事だよね!!」



「あぁでもオルガとかいう女に挑んで返り討ちにあったから自慢は出来ないが」



オルガの名前を聞いた瞬間にシゼルの顔が歪み驚きに変わっていく。



「凄いよお爺さん!! あのオルガに素手で挑んでしかも生きてるなんて!!」



会話をしながら歩いていくとテントが何個もある野営地につき傭兵達が武器を構えながら出迎える。



「お爺さんとりあえず今日は寝なさい。外傷は酷いけど腫れはすぐ引くと思うから」



テント内に案内されると大きく息をつき横になる。死んだと思ったら小屋で目覚め村を発見したらオルガに出会い倒され次はシゼルとかいう少女に出会いと長い一日だったと思う。



「……本当にろくでない人生だな」



先の事を考えると不安しかないので眠気に身を任せるとソウジの長い一日が終わる。

 

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