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「三〇秒」

 ぼくには、超能力がある。

 それも未来予知(プレコグニション)というものだ。

 でも、それは人に自慢できるようなものではない。

 三〇秒。

 それがぼくの予知の限界。

 これがぼくが天から与えられた能力だ。

 三〇秒先の未来が分かったところで、将来が大きく変わるわけではない。

 ちょっと勘が働く。そんな感じだ。

 それに、未来予知には一つの法則があった。

 それは、未来予知した事柄は絶対に覆されないということだ。

 たとえば、ぼくが転ぶことを予知し、それを回避したとしても、いずれぼくは転ぶ。転ぶという事象を回避したとしてもその因果を断ち切ることはできない。ということだった。


 そんな能力でも、たまには役に立つことがある。

 ぼくには好きな人がいた。

 同じ部活の先輩で、告白する前から「OK」の返事を予知できたから。勇気を持って告白することができた。

 その時ばかりは、自分の能力にものすごく感謝した。

 そして、彼女との初デートのその日。

 彼女は事故にあった。

 いや、事故にあうことを予知してしまった。

 ぼくたちの歩いているこのに車が突っ込んでくる。

 ぼくは死ぬ、そしておそらくは彼女も。二人とも死ぬ。

 そのことをぼくは知ってしまった。


「どうしたの?」


 心配そうにぼくの顔を覗き込む彼女の瞳。

 ぼくは決意した。


 三〇秒。先の未来が分かっていたとしても、たとえ結末が決まっていたとしても、ぼくは抵抗してみせる。

 因果なんて知ったものか。

 

 ぼくは彼女の手を引いて走り出した。

 ぼくの背後で車が壁に激突する音が響く。

 次に、耳を覆わんばかりにコンクリートを砕く破砕音。

 振り返ると建築資材が歩道に突き刺さっていた。

 

「なんかすごいことになってる!」


 彼女の声が背中から聞こえてくるが、とりあえず無視して走った。今ここで立ち止まれば、何が襲い掛かってくるかわからない。


 それからどれだけの月日が流れただろう。

 ぼくは襲い掛かる運命から必死になって逃げた。

 チンピラやギャングが襲い掛かってくるのはまだ良い方で、強盗犯に間違われて全国指名手配されたり、飛行機や衛星がぼくたち目がけて落ちてきたりもした。


そして、ぼくたちはついに崖っぷちにまで追い詰められてしまった。


「今までありがとう、あなたのおかげで今まで生きてこれたわ」


 周りに群がる武器を持った群衆を前に彼女は微笑んだ。


「君のおかげで、ぼくも充実した日々を送れたよ」


 ぼくは彼女を抱きしめる。

 心の底からそう思えた。

 もう何も思い残すことはない。


 死を覚悟して、彼女を決して離さないと誓ったその瞬間。

 頭の中に声が響いた。


『あなたに与えられた超能力は現時点をもって終了とさせていただきます。ご利用ありがとうございました』


 今までぼくたちを取り巻いていた群衆たちが夢から覚めたかのように正気になり、ぼくたちを残して散り散りになっていく。

 おそらくは全世界に通達されている指名手配も解除になっているだろう。


 おいおい。本当に天から与えられた能力だったのか。

 それにしても、未来が分からないのってなんだか不安だなあ。


 ぼくがそう彼女に告げると。


「そんなことないよ」


 そう言われてからのファーストキス。


 さすがに、この未来は予測できなかった。

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