「死者の国」
「やっと見つけた」
僕はやっと彼女を見つけることができた。
ここは死者の国。死んだ者が必ず訪れる場所だ。死んだ者はここから天国か地獄へと旅立つ。
その前に、彼女を生き返らせないといけない。
僕は出会った魔女から彼女を取り返す方法を教えてもらい、こうして彼女の元へとやってきた。
死者を生き返らせるためには三つの条件があった。
ひとつ、死者を連れ出したときには、「死者の門」まで決して振り返ってはいけない。
ひとつ、「死者の門」にたどり着くまで、連れ出す死者の顔を見てはいけない。
ひとつ、上記二つの条件を守れなかった場合、連れ出そうとした者も死者となってしまう。
僕は彼女と一緒に暗闇の中を進む。
ごつごつとした暗い洞窟。
二人とも裸足だった。
痛さにかまってなどいられない。
「待って、足が痛いわ!」
彼女が痛々しい声で叫んだ。
僕も思わず立ち止まる。
「もう歩けない。お願い私を助けて!」
頭の中に三つの条件が浮かんだ。ここで、彼女の方を見てはいけない。
「お願いよ。それともあなたは私を助けてくれないの」
彼女の言葉が心に深く突き刺さった。
これは死神の罠だ。魔女もそう言っていた。
どんなことがあっても心を鬼にしなければならない、彼女を救うために。
「もういい、こんなに辛いなら、死んだままでいい」
「そんなことを言ってはいけない。君は生きなければいけないんだ。今ならまだ間に合う」
僕は思わず叫んでしまった。
「ふふふ、ひっかかりましたね」
死神が僕の前に現れた。ガイコツの顔、黒いフードをかぶりその手には大きな鎌を持っている。
魔女から聞いていた死神だった。
「あなた振り返りましたね」
「いいや、振り返っていないよ」
「あなたは今、彼女に向かって叫んだじゃないですか」
「そんなことはないよ。だって、彼女は僕の前を歩いていたんだから、振り返ったことにはならないよ」
そうなのだ。彼女はずっと僕の前を歩いていたのだ。だから振り返ったことにはならない。
「……それもそうですね」
妙に納得してしまう死神。
「しかし、しかしですよ。あなたは目の前にいるならなおさら、彼女の顔を見ましたね」
勝ち誇ったように死神。
「そんなことないよ。僕は彼女の足元しか見ていないよ」
「足元しか見ていない?」
「だって、僕は……犬だもん」
そうなのだ。僕は犬なのだ。僕は死んでしまったご主人様に生き返って欲しくて、魔女に彼女を生き返らせる方法を聞きここまで来たのだ。
犬だから、ご主人様に引かれるままその後ろを歩いていたし、足元しか見ていない。
だから、僕は条件を破っていない。
「ええ、うるさいうるさいうるさい!今月の私は大変不機嫌なのです!ノルマ達成していないのです!」
死神にもノルマってあるんだ。
妙なことに感心してしまった。
「だから、あなたには条件を破ったことにしてしまって、死んでもらいます!」
もう死神の言うことは無茶苦茶だった。
でも…それも無理なんだなあ。
「それは無理だよ」
死神さんかわいそう。
そう思いながら、僕は言った。
「だって、僕はもう死んでいるもん」
「なんだってぇ!」
死神は目玉が飛び出さんばかりに驚いた。(目玉はないけど)
そうなのだ。僕はご主人様と一緒に散歩をしていて車にはねられてしまったのだ。
僕も死んでしまったけど、ご主人様にだけは生き返って欲しくて霊界にいた魔女にお願いしたのだ。
「ええい、何たる不運!死神をだますとは!お前たちいつかきっと地獄行きだぞ!」
死神の言葉を聞きながら、僕とご主人様は空を見上げた。真っ暗な空から一筋の光が降りてくる。
それは僕たちを照らすと、すいと空に僕たちを吸い込んでいた。
これでまた、ご主人様と散歩ができる。




