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「トンネル」

「このトンネルはどこまで続いているんだ」


 ハンドルを握りしめながら俺は毒づいた。

 もうかなりの時間走り続けている。


 片側一車線。対向車はない。

 時計をしていないので、どれくらいの時間走り続けているのか見当もつかなかった。

 体感では一時間くらいだろうか。

 ガソリンの残量もだんだん心細くなってきている。


 ちょっとしたドライブのつもりだった。

 休日で、予定もなかった俺はアテもなく車を走らせた。

 どうということのない休日のドライブがこんなことになるとは。

 なんとなく山間の道に入り、そのまま山道を走り続けあまり大きいとはいえないトンネルに入ったところまでは良かった。


 しかし、その出口がない。


 走っても走っても一向に出口に辿りつけないのだ。

 ラジオをつけてみたが何も聞こえない。

 携帯電話は圏外だ。

 暗い車内に明かりはない。トンネル内のオレンジ色のライトだけが唯一の光源だった。

 ひたすら一直線の道路だ。

 果てしなくつづくアスファルトの道路。

 俺は車を停めてみることにした。

 車を降りるとわずかながら空気の流れがあった。

 先を見ても、後ろを見ても果てしなく続くアスファルトの道。


「お前さん、一体どこに行こうとしているのかな」


 突然声をかけられ、驚いて振り返える。


 そこには一人の老人がいた。


 全く気付かなかった。


「俺は、ただこのトンネルを通り抜けたいだけだ」


「このトンネルに出口なんぞないよ」


 老人は歯の欠けた口を大きく開けえてはははと笑った。


「ここは、『迷いの坑道』と呼ばれている」


「迷いの坑道?」


「そう、心に迷いを持った者が入り込み出られなくなるというものだ」


 迷い。そんなものが俺にあっただろうか。


 家族との関係も、悪くはない。

 会社はどうだっただろうか。いたや、悪くないな。


 俺は、今の環境に満足している。

 不満はない。不安もない。


「俺は、今の状況に満足している。家族関係も、仕事も何も不安ではないし、不満もない」


「そうか、満足した良い人生だったんだな」


 人生だった?

 何を言っているのだ、この老人は。

 それではまるで…まるで。


 フラッシュバック。


 トンネルを走る。

 俺の運転する車。

 薄暗いトンネル、一直線の道路。


 対向車のドラックが見えた。


 そして、


 トラックが目の前で突然向きを変える。


 俺の車に向かって!


 破壊音、大きな車のぶつかり合う音だ。


 それ以降の記憶はない。


 俺はそれ以降。

 ずっと車を運転し続けていた。


「何に迷っているのか分かりましたかな」


 老人が言った。


「ああ、分かったよ」


 俺は頷いた。


「ありがとう」


 俺は老人に礼を言って、車に乗り込む。

 静かに車を走らせる。

 もう、何もかもが吹っ切れていた。


 俺には確かに悩みがあった。


 この世に留まりたい。


 それが、俺の悩みだったのだ。



「ロンよりショウコ」


ショウコ「何をしているんですか」


ロン「除霊みたいなものかな」


ショウコ「このトンネルのですか」


ロン「ああ、トンネルのような場所では人の思いなどの思念がたまりやすいからね」


ショウコ「しっかりと成仏できたんですか」


ロン「それが、そうでもないらしい」


ショウコ「どういうことですか?」


ロン「以前、ここで交通事故が起こってね」


ショウコ「どうなったんですか」


ロン「乗用車とトラックが正面衝突したみたいなんだが、どちらの運転手も奇跡的に助かったみたいなんだよ」


ショウコ「どちらも助かった…っていうのなら、一体何を除霊したんですか」


ロン「自分を死んでしまったと思い込んでしまっている、おっちょこちょいの残留思念を説得しただけだよ」


ショウコ「それって、なんか間抜けですね」


ロン「まったっく、その通りだね」

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