「夢を見る枕」
「ついに完成したぞ!」
白衣を着た初老の男が、喜びの声を上げた。
ついに完成したのだ。
「永かった…」
男の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
二十歳の時に、唐突に「夢を見る枕」を作りたいという欲求に駆られたのだった。
そして、四十年という歳月をかけ、ついに男は「夢を見る枕」を完成させた。
「博士、この枕はどんな夢でも見ることができるんですね」
助手の言葉に男は大きく頷く。
「そうだ。この枕はどんな夢でも見ることができるんだ」
そう、金銭的な理由で旅行のできない者はこの枕を使えば世界一周も宇宙旅行も体験することができる。
わざわざお金を使って旅行の体験などしなくても、その思い出があるだけで人は幸せになれるのだ。
「博士はどんな夢を見たいと思いっているんですか?」
女性の助手が尋ねた。
「そうだな。私はまず、若い頃の夢を見てみたい。私は四十年間、ずっとこの枕を完成させるためだけに人生をかけてきた。せめて夢の中だけでも若いあの頃に戻ってみたいのさ」
男はそう言ってベットに横になった。もちろん頭の下には「夢を見る枕」を敷いている。
「スイッチを入れてくれ」
男が言うと同時に意識が遠のいていく。
そして…
男は唐突に目を覚ました。
長い夢を見ていたような気がする。
ベットから起きだし、鏡を見る。
若い、白衣を着た二十代の青年の顔がそこにあった。
もやもやとした気持ちがしたが、理由は分からなかった。
(変な夢でも見ていたのだろうか…)
夢のことは覚えていない。
(夢とは変なものだ。決して自分の思い通りの夢を見ることなどできない…!)
男ははっと顔を上げた。
「そうだ!『夢を見る枕』を作ればいいんだ」
男の瞳はキラキラとしていた。
何十年かけてでも必ず完成させて見せるという意気込みが感じられた。
「必ず完成させてやる!」
男は叫び声を上げる。
それから四十年の歳月をかけて、男は「夢を見る枕」を完成させる事になる。
「ついに完成したぞ!」
白衣を着た初老の男が、喜びの声を上げた………。
「ロンよりショウコ」
ショウコ「通販でいいもの買ってしまいました」
ロン「それはなんだい?」
ショウコ「『夢を見る枕』です」
ロン「それって、違法ものじゃないか」
ショウコ「そうなんですか?」
ロン「昔、販売されていたみたいだけど。一つだけ欠点があって」
ショウコ「ふむふむ」
ロン「長い間使用していると夢と現実の区別がつかなくなって、気がついたら夢の中で何十年も暮らしていた…なんてこともあったらしい」
ショウコ「それって、夢の中で暮らし続けるってことですか」
ロン「夢を見ていて目が覚めたけど、実はそれも夢の中でした。なんてことがあったらどうだい?」
ショウコ「今こうして話をしているのも、もしかしたら夢の中の出来事かもしれないってことですか?」
ロン「そういうこと。睡眠は1時間なのに人生経験が60年とか…ひどい時は何百年も経験したという人もいたらしいよ」
ショウコ「それって、何だか嫌ですね」
ロン「見た目は『子供』、頭脳は『ご老人』なんてことになるかもしれない」
ショウコ「やっぱり、この枕使いません…」
最近、夢を見ていないなあ。




