「脳内事件」
暗闇の中、彼は目を覚ました。
あたりを見渡す、静寂だげが世界を支配していた。
非常灯の光が目の端に映るが、周囲の様子を確認できるほどではない。
だが…
暗闇を切り取るかのようにそれはそこにいた。
真紅の瞳が、こちらを見つめている。
男は声もなく飛び起きる。転がるようにベッドから這い出し、無様に床を四つん這いで駆け抜けた。
「た、たすけ…」
あまりの恐怖に声はかすれ、ノドからはひゅーひゅーと虚しく息が出るばかり。
部屋を飛び出し、勢いで壁にぶつかる。
背中の痛みに意識を失いかけるが、それにも堪え何とか立ち上がった。
足はがくがくと震え、立っているのがやっとだった。
音もなく。
影が姿を現した。
真紅の瞳は男を見据えたまま。
その手には、大きな鎌を持っている。
瞳を鎌だけが男の目にはひどくはっきりと見えていた。
男は立ち尽くす。
逃げ切れないことは、本能的に分かっていた。
(どうせ逃げられない)
そう、今まで何度も逃走し、奔走し、戦い、そして虚しく死んでいたt。
影が鎌を振り上げる。
(オレが死ぬのは…これで何度目だろう…)
振り下ろされる鎌を冷静な気持ちで見つめる。
鎌先が鎖骨から胸部へと皮膚と肉をえぐる。
悲鳴を上げるまもなく男は絶命した。
患者「先生、私は毎日同じ夢を見るんです。毎日毎日、黒い影に殺される夢を!」
女医「それはあなたの潜在意識が創り出した妄想の産物です」
患者「夢なのに痛みとかやけにはっきりと感じるんですよ」
女医「夢はあなたの体にも密接に関わります。しかし、心配はいりません。所詮は夢ですから、何度同じ夢を見ても死ぬことはありませんよ」
患者「先生、私は眠ることが怖い」
女医「安心しなさい。あなたは死なない。私が保証します」
患者「本当ですか?」
女医「ええ、そんなに心配症だと悪魔に食い殺されてしまいますよ」
患者「脅かさないでくださいよ」
女医「悪魔は人の恐怖や怯えといった負の感情を喰らうと言われていますからね…まぁ、ただの迷信ですけど」
患者「迷信でも怖い話ですね」
女医「迷信だと思うなら、今日からはゆっくり眠れるはずですよ」
患者「分かりました」
女医「希望が絶望に変わるとき……魂を喰らうと美味ですからね」
患者「なにか言いましたか?」
女医「いいえ、それではお大事に」




