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武士の女  作者: 夜那
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謎の青年武士

 そのとき、突然、娘をかこんでいた武士たちが驚いたように後ろへ逃げた。

近くを通りかかった青年の武士体の男が、刀を手にして武士たちの間を割って入ったようだ。

 十六夜は、走るのをやめた。通りかかった青年武士が、娘を助けようとしている。十六夜が駆け付けるまでもないようだ。

「待て、無体なことをするな」

 と青年武士が声をあげると、

「邪魔立てするでない」

 痩身で目の鋭い武士が、叱咤するような口調で言った。

 武士たちは、青年武士の前に歩みよった。

「うぬら、武士の身で娘を手籠めにする気か」

「だまれ!」

 丸顔の武士が娘を逃がさぬよう、仲間の武士に預け、刀の柄に手を添えて、抜刀した。

 キラッ、とお互いのふるった刀がひかった。

 青年武士の正面にいた武士が後ろへ跳び、同時にもうひとりの武士が青年武士の正面から娘を突きとばした。

 ウワッ!

 と一声を上げ、武士は大きくよろめいて、川岸の柳の幹に肩から突き当たった。青年武士は、左手で娘を抱くようにして幹の後ろへまわり込んだ為、娘は無事だった。

「たいしたことないやろうだ。死ね」

 丸顔の武士は、倒れ込んだ娘の手を無理やり引っ張り抱き寄せ、甲高い笑い声を上げた。青年武士の不様な格好を見て、小馬鹿にしている。

 ……話にならぬ。

 十六夜はふたたび走り出した。とても青年武士には助けられないとみたのである。

「おい、娘ごから、手を離せ」

 駆け寄って十六夜が声をかけた。

「お、今度は女か」

 痩身の武士が驚いたように声を上げた。

「なんだ、女。悪いことは言わぬ。死にたくなくば身を引くことだな」

 十六夜の前にたった痩身の武士が嘲笑うようたな言い放ち、かまわず娘の手を引いた。娘の顔は蒼白で、恐怖にひきつていた。周りには騒ぎを聞きつけて野次馬が路傍に集まっていた。       

 近所の女房、子ども、老人、通りすがりのぼてふりなどが驚愕と好奇心に目を剥いて、ことの成り行きを見つめている。

「その醜い耳は、私の言葉も聞き取れぬのか 娘ごから手を離せとそう言ったはずだ」

「なに!」

 丸顔の武士が娘の手を離し、刀の柄に手を添えて十六夜の前に歩みよってきたにやけた嗤いは消え、顔が怒気で赭黒く染まっている。

「女!斬るぞ」

 丸顔の武士は刀の柄に手を添えて、恫喝するように言った。


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