⑦ 全校集会
「――今日はもう少しお話したい事があったのですが、生徒会長さんのほうから大事なお話があるそうなので時間をあげることにしました。特別に校長先生はプリントを作りましたので、お話できなかった続きの部分はプリントで読んでください。私からは以上です」
校長が一礼してステージから降りた。「校長の話のプリントなんて、わざわざ読む奴いねえよ」塔哉は心の中で毒づいて、校長と入れ替わりにステージに立った。
あの会議から数日後、週1回の全校集会がやってきた。あの会議に出席していた役員には緘口令が敷かれていて内容は未発表であったので、この集会で初めて全校生徒が知ることになる。
塔哉は、生徒会の会議の時とは違う、少し丁寧な口調で話すことにしている。
「今日は、みなさんの重要な行事、バレンタインデーについて話します」
ざわついていた生徒たちが少し静かになった。
「バレンタインデーとは、2世紀ごろローマで殉教した聖人バレンタインの祝日であるといわれています。現代の日本では独特の風習もありますね。ところが、2月14日というのは3年生にとっては少し都合が悪いです。そこで、今年は生徒会で学校独自のバレンタインデーを定めることにしました。この学校だけの、ローカルなバレンタインデーです。2月22日、公立高校一般入試の2日後です。都合が悪いのは3年生だけですが1・2年生もこれに従ってください」
主に3年生の女子のほうから、「わぁ」と小さな歓声が上がった。
「そして、ホワイトデーも学校独自に変更します。通常は3月14日ですが、これも3年生の卒業式の関係で前倒しし、ローカルバレンタインデーの2週間後、3月6日に変更します。つまりどういうことかというと……」
塔哉は大きく息を吸った。
「男子諸君、2週間で心を決めろということだ。以上!」
その日の放課後、図書委員長はかなり憤慨した様子で生徒会室にやってきた。
「塔哉お前――」
塔哉は図書委員長の言葉を遮った。
「大丈夫、お前の意見もちゃんと反映させてあるから」
「どういうことだよ」
「『甘味品の持ち込みは校則で禁止されてるからそれを破らせるような決まりを生徒会で作ってはいけない』っていう意見だよな?」
「ああ、そうだ」
「俺は今日、『バレンタインデーとホワイトデーを移動する』ということしか言ってない。なにも、『チョコはその日に持ってきましょう』とは言ってないだろ。『聖バレンタインの祝日を入試が終わってからみんなでお祝いしましょう』って意味で言っただけだ。よって、問題はない。生徒が甘味品を持ち込んでも生徒会には一切責任はない。だろ?」
「『日本での独特な習慣』って言ったじゃねえか。それに、『男子諸君、2週間で心を決めろ』とか」
「具体的には言ってないからいいんじゃないですか?」
佐津紀も余裕な表情で言った。
「そうやって――」
「なんでお前、そんなにバレンタインデーにこだわるの?」
「そんなこと……」
「やっぱり、画像しかもらえないからですか? 悔しい?」
「もういい、お前ら夫婦で楽しんでろ! リア充め!」
図書委員長は捨て台詞を吐き、大股で生徒会室を出て行った。