③ 脱線する会議
「本当のバレンタインデーが2月14日の火曜日で、公立一般入試は次の週の月曜日、2月20日だ」
塔哉は、目立つように色のついたマグネットを置いた。
「1週間て、ほんとに微妙なタイミングだよね。あたしのバカ兄貴の時もさあ――」
環境委員長には現在高校1年生の兄がいるので、去年の高校受験のことをよく覚えている。
「――一週間前になっても深夜アニメを見てるからお母さ――」
「深夜アニメだとォーーーーーー!」
突然、図書委員長が大声を上げた。
「あ、あたしのバカ兄貴、そういう趣味だから。ほんっと気持ち悪い」
「気持ち悪いとか言うな! お前、アニメを馬鹿にしてんのか?」
「そういえば、あんたもオタクなんだよね」
環境委員長は汚いものでも見るような目をして言った。
「オタクのどこが悪いってんだよ! 2次元の良さは一言では語りつくせない。それはもう、この世のものとは思えない魅力的なものだ。お前にそれが分かるのか?」
「はぁ? なに一人で熱くなってんの」
蔑むような彼女の言葉が、さらに彼を興奮させた。
「3次元の女なんかよりもよっぽど魅力的なんだよ。3次元の女なんてただのタンパク質の塊。もっといえば――」
「そこまで」
放送委員長が静かに言った。
「もうやめな、それ以上言ったらただの侮辱だよ。ますますアニオタが気持ち悪がられるだけ。塔哉、続けて」
図書委員長は渋々引き下がり、塔哉は卒業式の3月8日(木)にマグネットを置いた。
「卒業式はこの日。公立一般入試から2週間ちょっとだな」
「ってことは――」
佐津紀も立ちあがった。
「つまり、この公立一般入試翌日から卒業式前日までの16日間にバレンタインデーとホワイトデーを入れなきゃいけないってことだね」
「そういうこと。ギリギリまで幅を広げてもバレンタインが21日。ホワイトデーは卒業式でもなんとか間に合う……か?」
「それはきついと思う」
保健委員長が言った。
「バレンタインで作るほうは色々準備とかあるから、入試が終わった翌日に持ってくるのはかなりきついと思うよ」
「ホワイトデーも、卒業式だと忙しくて渡すチャンスがない気がします」
1年書記の有水悠馬が初めて意見を言った。
「ほほう……経験者である有水君の意見ですか」
放送委員長がニヤリと笑った。
「いや、全然そんなことはっ!」
悠馬がどんなに否定しても無駄だ。去年のバレンタインデーの出来事をみんな知っている。
去年のバレンタインデー、小学校卒業を間近に控えた悠馬は、ずっと片想いだと思っていた5年生から本命チョコをもらった。もちろん卒業式はホワイトデーよりも前。卒業式当日、お返しを渡して自分の気持ちも伝えようと思っていたが、なかなかタイミングがつかめない。6年生は式が終わって下校となるが、5年生は片づけの仕事がある。悠馬は5年生の下校時刻までずっと待っていたそうだ。
今は時々、二人のデートの目撃情報が入る。
そういった情報に疎い図書委員長は放送委員長の解説を聞いた途端、立ち上がって奇声を上げた。
「リア充爆発しろ!!」
女子役員の多くが背後の壁を突き破るほどドン引きしたところで塔哉は深い溜息をつき、解散を指示した。臨時の会議は翌日に持ち越しとなった。