② 恋する少女から、相談の手紙
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生徒会のみなさんに相談があります。
2月14日はバレンタインデーですね。
実は、わたしはその日、ある人に想いを伝えたいと思っているのです。
ですが、公立高校の一般入試がその一週間後の2月20日にあります。
書き忘れてしまいましたが、わたしは3年生の女子です。
わたしはお菓子作りが気分転換になっていいと思うのですが、
受け取るほうはそれどころではないと困ってしまうのではないかと心配しています。
周りの友達のほとんどは「友チョコ」しか作らないつもりらしいので、
友達どうしで「入試終わったら交換しようね」と約束すればすむのですが、
わたしはそういうことができなくて困っています。
心配なことはもうひとつあります。
なんだかずうずうしい心配になってしまうのですが、ホワイトデーのことです。
卒業式が3月8日にあって、ホワイトデーの前に春休みに入ってしまいます。
そうすると、相手からお返事が聞けなくなってしまうのではないでしょうか。
そういったことを解決するために、この学校全体でバレンタインデーとホワイトデーの日を
移すということはできないのでしょうか。みんな一斉に渡したりしたほうがいいと思うのですが……。
すごくわがままな相談になってしまいましたが、これはとっても大事な問題なのです。
どうか生徒会のみなさんで話し合ってください。
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「――だって!」
佐津紀の目は好奇心に満ちてきらきらと輝いていた。
「この手紙、誰が書いたんだろう?」
「3年生の女子ってことは、大体90人くらいに絞られるけど……」
役員たちは、手紙の主を推理することに夢中になっている。
「誰が書いたのか気になる手紙だが、バレンタインデーとホワイトデーの振替について意見あるか?」
またざわざわとし始めた。
「それって――」
図書委員長が真面目な顔で前を向いた。
「――それって、学校ぐるみで公式にバレンタインデーを決めるってことだろ? それはいいけど、その日にチョコを持ってくるとかそういうのは別問題だろ」
「どういうことだ?」
「だって、去年までは2月14日とか3月14日とかはなんていうか……黙認されてたんじゃないか。先生たちに。学校への甘味品の持ち込みは禁止なんだろ? だとしたら、生徒会でそういうのをきめるのはいけないだろ」
保守的な図書委員長が反対することは、塔哉も薄々予想していた。
盛り上がっていた会を反対意見で一気にしらけさせたので、保健委員長をはじめとする何人かの女子役員は彼をにらんだ。彼はまったく動じず、無表情に前を向いていた。
放送委員長が少し身を乗り出して口を開いた。
「とは言っても、バレンタインってイベントはなくならないわけだから、どうせみんなチョコ持ってくるでしょ? 個々の判断に任せたらみんな持ってくる日がバラバラになって余計に無法状態になると思うけど」
「そうそう、3年生は特に」
環境委員長も続いた。女子のほとんどは賛成らしい。他には態度を決めかねている男子が数名、寝ているのが一名――
「まあ、寝てるのは置いといて――」
塔哉はちらりと体育委員長を見た。
「――仮にバレンタインデーとホワイトデーを移動させるとして、いつ頃がいいのか……」
体育委員長は起きず、何人かの委員がきょろきょろとカレンダーを探し始めた。生徒会室には書き込み式の大型カレンダーがあるが、さすがに全体で見るには不便だ。
「佐津紀、カレンダーをホワイトボードに写してくれるか?」
ホワイトボードを背にしている塔哉は、少し椅子をずらした。
「2月下旬から3月上旬まででいいからな」
「分かってるよ」
カレンダーが映し終わるまでのあいだ、保健委員長・環境委員長・放送委員長がコソコソと会話をしていた。
「やっぱりあの二人、お似合いだよね」
「もう付き合っちゃえばいいのに」
「ていうか夫婦じゃん!」
塔哉は空耳と判断し、立ち上がる。佐津紀はボードマーカーを置いて着席した。