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お姫様だった彼のこと。

作者: メリィ山田

初投稿です…///

緊張しています。。

広い心でお読みください…m(_ _)m


 


例えるならそれは、おとぎ話の住人に憧れるようなものだったのかもしれない。

 どんだけ夢見がちだったんだと今思えば後ろ足で砂をかけたくなるような恥ずかしい過去なのだが、当時、小学校高学年のあたしは本気で、彼を「白雪姫」だと思っていた。もしくは「灰かぶり」。美しく、それゆえにひどく憎まれ、いじめられる。

 彼はとても美しかった。

 長い前髪の隙間から見える目元は涼やかで、あたしのそれよりもふっくらとして赤く色づくくちびる。紙のように白く、なめらかそうな肌。あたしよりも小柄でほっそりとしていて、抱きしめたらきっといい匂いがしそう。何故、周りのだれも気付かないのか不思議でならなかった。彼は、学年のボスとそいつを中心とする面々にいじめを受けていた。女子もみんなキモいと言って敬遠していたし、独りが怖い臆病だったあたしもその側だった。だけど、彼が白雪姫(もしくは灰かぶり)だと知っているのはあたしだけだと、妙な優越感もあった。

 


彼がお姫様だという勝手な認識が改まったのは、忘れもしないあの日のことだ。


 

日直の当番という理由だけで、担任の手伝いをさせられたある日の放課後。廊下の窓と各教室の開け放たれた窓から、オレンジ色が差し込んで、汚れの目立つ古びた廊下の床がそれ一色に染められていた。やけにがらんとしていて、もちろんあたしのクラスの教室も誰一人として残っていなくて。さっさと帰ろうとランドセルの中に机の中のものをすべて取り出して突っ込もうとした。ふと、見慣れない白い封筒が、一番上に乗っかっていた。

あたしはちょっとドキッとしながらそれを取り出して裏返してみたが、特に何も書かれない。

アレか、ラブレターというやつかもしや……ちらっと考えたけど、慌てて脳内削除して。(あたしも若かったのだ。)間違えて誰かがあたしの机の中に入れたのかも、と思いながらも好奇心は抑えきれず、持ち主確認だと自己正当化して、封筒の中身を取り出した。

 内容は、はっきりとは覚えていない。それだけ、幼いあたしには衝撃的だった。折りたたまれた白い便箋には、

 

「ぼくは今日しにます。」

 

そんな言葉で、文章は始まっていた。決してキレイとは言えない筆跡は荒々しく、強い思いが伝わってくるようだった。いじめられているという事実と、いじめの主犯のボスの名前とその取り巻きの名前、いじめに気付いていながら何もしない担任の名前と、さらには母親から虐待を受けているとか、そんなことが書かれていたように思う。強く握りしめ過ぎたのか、鉛筆の芯の黒いあとが所々にじんでいるのに、本気なのだと鳥肌が立ったのを覚えている。手紙の持ち主を頭が導き出すのは早かった。彼、だった。

 あたしはしばらくその便箋を持ったまま突っ立っていた。嫌に心臓がドキドキしていた。誰もいない家で、こっそり食べてはいけないと言われていたお菓子をひとつこっそり食べてしまった瞬間のように。

 

「…それ……っ」

 

か細い声が、あたし以外誰もいないはずの教室に響く。ドキッとしてドアのほうを見ると、口の端に血をにじませた、彼だった。服も泥だらけで、半ズボンからのぞいた膝小僧も血が出ていて、明らかにいじめが終わった後、という感じだった。息を切らしていて、土に汚れた頬がオレンジ色に照らされて、そんな場合じゃないのに、一瞬見惚れた。彼は茫然とあたしの手元を見ていた。そういえば。あたしがその日から使っていた机は、もともとは彼が使っているものだった。席替えはその前日だったから、慌てて手紙を隠そうとして、誤って慣れた机に(あたしの今の机に)手紙を突っ込んでしまったのだと思う。自分の失態に気付いたのだろう、彼は、ドアから少し離れた位置にある机の前に突っ立ったあたしからでもわかるほど、カッと顔を赤くして、あたしを強く睨みつけてきた。オレンジが相まって、なおさら赤く見えた彼の顔。あたしが初めて見た、彼の色と、強い感情だった。あまりにうつくしくて、あたしはただ見惚れた。

 

「返せよっっ!!」

 

彼から発せられた大声に驚いた。彼は机を蹴り飛ばさん勢いであたしの前までやってきて、その紙を奪おうとした。

 今思い出してみても不思議でならないのだが、その時、あたしは何故かそれを持った手を上に高く上げた。あたしより小柄だった彼は、必死に手を伸ばしたが、あたしも取られまいと必死に爪先立った。

 

「返せ、返せってば!!」

「待って!!返すから、返すからっ!!」

 

便箋を持っていない方の手を彼の肩を押し返すのに使って、あたしは後ずさろうとした。それでも彼は聞こうとしない。返せ、返せ、と涙のにじんだ声で叫ぶ。あたしも泣きそうだった。泣かなかったけど。どれくらいの攻防だったのか。息をさらに切らした彼はあたしから紙を取り上げるのをあきらめて、じっとあたしを睨んだ。ぞくっとするほどだった。

 涙のにじんだ目に、ピンク色に染まった目元と、半開きの、真っ赤なくちびる。憎しみを孕んだ眼差しがあたしを貫いていた。彼は、どれだけいじめられても、泣かなかった。ただ、じっと相手を見つめていた。でも、それが助長させているのかもしれない。もっと、もっと、彼の苦しむ姿が、見たい。兄キがベッドの下に隠し持っているマンガの、変な格好したオネエチャンより、そう、ずっと「エロかった」。幼いあたしには、体の奥がじんじんして、変に身体が高揚していた理由はわからなかったけど。

 

「どうやって、死ぬの?」

 

あたしは、彼にそう尋ねた。もう、何を話せばいいのか分からなくて出た言葉だった。

 彼は一層睨んできた。オマエには、関係ないだろ。そう言われている気がした。ごもっともだ。あたしには、関係ない。彼をおとぎ話のお姫様に仕立て上げ、いじめられる姿さえ、それが彼の運命だと知らんぷりした。白雪姫も灰かぶりも、いじめられるものだ。そう思って。バカだ、あたし。彼は、お姫様でもなんでもない、ふつうの男の子なのに。あたしもいじめていた奴らと同じ、彼の加害者でしかなかったのだ。後悔があたしを襲い、胸の中をせりあがってくるものがあった。彼が、死ぬのは、どうしても嫌だと思った。

 

「と、飛び降りるのは、痛いとおもうよ。首、吊るのも苦しそうだし、…えっと、切るのも、痛いとおもう。おぼれるのは、一番みにくい死体なんだって、本で読んだ。それから……」


頭の中がぐるぐるして、何を言ったのか覚えていない。あたしは、必死だった。彼の顔が、暗くなり始めた教室のせいで、表情ははっきり見えにくくなった。あたしは、ごくりと生唾を飲み込んだと思う。


「…もったいないよ、死ぬの。まだ、あたしたち、小学生じゃん。まだ、知らないことも、たくさんあるよ。すごい、もったいないと思う。死ぬのは、もうちょっと先でも、いいよ」


説教くさいし、余計なお世話かもしんないけど。あたしはそう付け足して、軽く笑って見せた。


「あたし、佐倉くんが死ぬの、やだ。すごい、キレイなのに。もったいないよ」

言った後から猛烈に恥ずかしかったのを覚えている。

あたしは何も言わない彼に、その手紙を押し付けて、早々とランドセルを肩にかけ、逃げるように、教室を出た。


結果として。彼は飛び降りなかったし、首も吊らなかったし、ナイフで自分を傷つけることも、プールの中で発見されることもなかった。

艶然とした微笑みと無駄に回る口、二枚も三枚も取り替え可能な面の皮(外面ともいう)という武器を身に着けた彼は、本日も絶好調のようである。


「なぁに、きみちゃん。おれのことそんなに見つめて。照れちゃうでしょ」

「いやぁ、時の流れって残酷ダヨネ」

「よく分からないけど、いいよ、ずっとおれのこと見つめてて?よく分かんないこと言う公ちゃんのこと、おれ世界で一番すき」

「やーだー。その世界で一番なんちゃら、さっきもどっかで聞いた気がするんだけど。たった今。あたしの目の前で。違う女の子に。」

 

元、お姫様は口元に描いていた笑みをさらに深めて、何も言わない。

 

「ん?嫉妬?」

「残念、そんなのこれっっぽっちも湧いてきません」

 

ほんっとーに残念だ。

お姫様は王子様にもならなかった。期待外れだホントにもう。

彼があの後、あの手紙をどうしたかは知らない。捨てていてくれると良いと思うけど、どうなんだろう。そんなことを聞けるほどの仲でもない、あたしたちは。彼が施設に入って、今現在奨学金をもらいながら高校に通っているのは知ってる。

中学校からその才能を開花した彼は、順調に明るい人生設計の真っ最中だそうだ。ここでいう才能とは、老若男女すべての人間を籠絡し、自分の良いように掌でころころ転がす、といった類のものだ。理想のお姫様どころか王子様もほど遠い。詐欺師である。あいにく詐欺師には興味がないのだまったく。

そんな詐欺師は、共通の記憶を持つ人間だからか、割と最初のうちからあたしに本性をカミングアウトし、それ以来の腐れ縁である。用もないのに、こうしてあたしが独り図書室で読書に勤しんでいるのを邪魔してくる。おかげで中学高校となかなかオトモダチが出来ず、というか一緒に体育館裏とか寂しい場所に連れてってもらうトモダチしかいない。(虚しいのは分かってる!)当然、お付き合いとか甘酸っぱい青春は夢のまた夢だった。

これもすべてこいつのせいだ!と思っても、なんだかんだ言って彼の話に付き合っているのは、死ぬことを考えていた彼が、こうして生きて笑っているのが、純粋にうれしいからだ。絶対、教えてやらないけどね。

あたしの目の前の席で、文庫本を読んでいる彼。ちょうど、あの時と同じように、窓から差し込んだオレンジ色が、彼を照らしていて、息をのむほどうつくしかった。あの時と違うのは、彼が大人に近づいた姿で、誰からも辱められる隙を与えないほど実力も付けていて、光に照らされていても、そのままぼうっと消えてしまうんじゃないかって、あたしが不安に思うこともなくなったことだ。


「……また見てる」


くすりと笑われて、思わずどきっとした。そうだ、彼の声も、ずいぶん低くなって、とげとげもなくなった。聞いていて心地良くて、声だけは好みだ。うん。身体が熱くなるくらいには、好きだ。絶対、そんなこと教えてやらないけど。


「そんなに見てると、期待しちゃうよ?」

「…………何を期待するのよばか」

「さあ?公ちゃんなら解こうとすればすぐに解けちゃう問題だと思うけどなぁ」

「無駄なことは考えたくないの、疲れるから」

「そう?まあ良いけどね」


いつか分かるよ、いやでも。

そう言って、彼は、また艶然と微笑った。

あたしは、ふんと鼻で笑った。


まぁ、それも、悪くはないかもしれない。







はじめまして、こんにちは!

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!

とっても緊張しています……///

でも、すがすがしい気分です。

自分で書いたものをこのような形で載せて皆様にお見せすることができて、緊張するやら、やってやったぞー!っていう達成感やらでいっぱいいっぱいです。

で、できれば、あまくちな講評を、おねがいします…


公ちゃんと佐倉くんの話は、突発的に浮かんだものです。

二人の距離感とか、もっと上手に描きたかったです。。

ぜひとも佐倉くんには頑張ってほしいところですが、公ちゃんもけっこう何考えてるか分からないので、苦労すると思います。がんばれ。


もっと上手な文章を書けるよう、精進します。

頑張ります!


メリィ山田



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― 新着の感想 ―
[一言] メリィ山田さん始めまして、里見ケイシロウでございます。 私はこの小説を見て改めて命の大切さを知りました。ああ慰している人が死ぬ所は絶対に見たくない思いが私に伝わってきました。私も学生時代だっ…
2013/02/17 21:38 退会済み
管理
[一言] 面白かったです! ぜひ番外編とか続編とか希望です(*´Д`*)
[一言] 面白いですが、文章の書き始めを一マス空けたほうがよいです。
感想一覧
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