表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき4

今日も

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくななじゅうに。

 




 秒針の音がカチカチと、部屋に響く。

 外は真っ暗な夜が広がっている。

 空にあるはずのぽっかりとした穴は、今日は見えない。

 新月の夜だから。

「……」

 それでもまぁ、天気は良かったので散歩には行ったのだ。

 なんとも寒いこと……。急に冷え込んだような気がするな。

 少し前はまだなんというか、若干の温さが時々あったようななかったような……。それもなくなって、ただひたすらに冷たいだけの風が吹いていた。

 春風くらい暖かなものにしてほしい。

「……」

 おかげで冷えた体を温めるのに時間が掛かった。

 指先なんて仕事を再開したころは思うように動かなかったぞ……なんとか動くようにはなっても時々滑ったりしていた。

 この部屋もまぁそれなりに冷えてはいるからなぁ……暖房を付けてはいるのだけど、あまり暑いとこう、息苦しくなるもので。

「……」

 そのぬるいような部屋で、全身の体重を椅子に預け、少しお行儀の悪い状態でパソコンを操作している。

 電気をつけていない真っ暗な部屋では、眩しすぎるほどに煌々と画面が光っている。

 これでも一応光量は落としているのだけど……まぁ、暗いから仕方ない。

 眼鏡越しでも眩しいと思ってしまう。

「……」

 マウスを適当に動かしながら、確認作業を進めていく。

 もう仕事は終わりに差し掛かり、一旦の目途がつくくらいにはなっていた。

 とは言えこれはまぁ、一旦でしかなくて。仕事はもういくつかあるのだけど。

「……」

 ちら。

 と、時計を見ると、もうそろそろ同居人が呼びに来る時間だった。

 そろそろ片づけをしておこうか……。

「……」

 今日は机の上はさほど汚れてはいない。あまり広げるような紙もなかったからな。

 端の方に置きっぱなしになっていた、えんぴつを拾い、ペン立ての中に放っておく。

 後は、パソコンの画面を整理していけばいったん終わりだ。

「……」

 確認をしながら、次々と閉じていく。

 最後に現れたのは、季節外れの向日葵の咲く丘の写真だった。

 ……ただのパソコンのデスクトップである。ランダムに設定しているから、季節関係なくこういう写真が写ったりする。たまに訳の分からない風景写真だったりもする。

「……」

 今年の夏は、やけに長かったように感じたな。

 そして気付かぬうちに秋が過ぎて、今や冬のようになっている。

 もう11月だから、きっとこのくらいの温度が正常なのかもしれないが……少し前まで暑い暑いと言っていたのが嘘のような感じだ。

「……」

 画面の中で揺れる向日葵を眺めながら、なんとなく、今年の夏を思い出す。

 夏祭りに行けたのは、かなり楽しかった。花火は遠くからではあったが、それなりに綺麗なものだった。まぁ、少し面倒事が起こったりもしていたが……いやあれは春頃だったか。

「……」

 なんにせよ。

 毎日変わらぬ日常が過ごせていたのは、いいことだろう。

 少なくとも、私にとっては毎日かけがえのない日々だった。

「……ご主人」

「……」

 なんて、少し感傷に浸りかけたところに。

 ノックもなしに部屋の戸が開けられ、廊下の電気が滲む中で1人の小柄な青年が立っていた。今日のエプロンはご機嫌のいい、猫の尻尾付きのやつだ。

 廊下の奥からチョコレートのような甘い香りが漂ってきた。

「休憩にしましょう」

「……」

 いつもと変わらぬそのセリフを聞く。

 どこか安心するその声は、幼い頃から変わらず私を呼ぶ。

 いや、あの頃よりは少し高い声かな。

「……どうかしたんですか?」

「……いや、なんでもないよ」

 パソコンの電源を落としながら、椅子から立ち上がる。

 さて、今日のお菓子は何だろうな。





「ん。うまいなこれ」

「砂糖の量を調整してみたんです」

「これくらいの甘さが丁度いい」

「それはよかったです」

















 お題:春風・向日葵・チョコレート

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ