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見知らぬ、天丼!?

地上に降り立った理由ワケあり天使のサリエラは、公園のベンチで日向ぼっこをしながらママさんたちの井戸端会議に聞き耳を立てていたら、通りかかった「見えちゃう」系女子高生萩原まゆと出会い、住処の確保のためまずはミカエル様から路銀として渡されたドルを日本円に両替しないといけなくなったのでした、、、

ここは郊外のどこにでもあるような住宅地のはずれにある公園。天気もよく子どもたちを遊ばせながらママさんたちが集まって井戸場会議に花を咲かせている。


「それで、銀行ってどこにあるの?」


だいたいそういうものは駅前にあると相場が決まっているが、このあたりのことはちっともわからない。このコは地元なんだから、きっと知ってるのよね。


「あ、はい。駅前に大手の支店があるので、そこで両替してもらいましょう。前に、お母さんのお使いでやったことあります。」


おー!それは心強い。助かるなぁ、この女子高校生は使えるわね。


「ねえ、もし時間があるなら、案内してもらってもいい?」


「はい、いいですよ。行きましょう、行きましょう。天使さんのお話ももっとお聞きしたいですし。」


やったー!ラッキー!さすが天使。ついてるわたし。


「じゃ、じゃあ、ちょっと行きましょうか。」


「あ、でも、その前に、その羽根と輪っかをしまったほうがよくないですか?」


え?何言ってるんだろう、このコ。これは普通の人間には見えないんだって、、、あ、そうかこのコには見えてるからみんなも見えてると思ってるんだわ。


「あー、えーと、この羽と輪っかは普通の人には見えないのよ。あなたが特別なの?」


「え!そうなんですか!わたしって特別なんですか!すごい!」


あ、いや、そういう意味ではなくて、、、いや、いいのか。たしかに、このコは特別だよね。うん、うん。


「そうね。すごいわよ。まゆちゃんは特別!っていうか、コレ、あなたにしか見えてないよの。」


「あ!ああー!そういうことですか!」


またまた大きな目を見開いて、キラキラさせてる。そ、そんなに見つめないで~。


「他の人には見えてないのよ。だから、ほら、皆さんこっちにちっとも注目してないでしょ?」


「そういえば、そうでしたね。こんなところで羽を広げて輪っかを乗せてる人がいたら、なんでこんなところでコスプレ?って思いますよね。」


「そ、そうね。そう思うわよね。」


「そりゃあ、思いましたよ。ちょっとアレな人なんじゃないかって。」


「あ、アレ、アレね、アレ。ほほほ。」


「あははははは。」


ひとしきり笑われた後で、まゆちゃんはじゃあ行きましょうかと促してきたので、わたしはベンチから立ち上がる。


「駅はあっちの方で、10分くらい歩きます。今日はちょっと暑いですけど、大丈夫ですか?」


たしかに、太陽がギラギラと照らしてきて、めっちゃ暑い。この中を歩いていくのは大変だ。そう、普通の人間ならね。なんといってもわたしは天使なので、聖なる力で周囲の温度を下げるくらい朝飯前なのだ。あ、そういえば朝ご飯食べてなかった、お腹すいたな。


「ふふふ、ちょっと待ってね。わたしとまゆちゃんの周りだけ、少し気温を下げるから。」


「おー!さすが天使さま!そんなこと出来るんですね!」


おほほ、あがめ給え、うやまい給え、われこそは天使さまなるぞ、、、あれ?なんか涼しくならない?


「え?なんで?涼しくならない?」


まゆちゃんの視線がじとーっとしている。いや、そんな目で見ないで。おっかしいなぁ。ちょっとアンチョコを。


「あれ?これなんだろう?」


携帯用天使マニュアルを取り出したわたしは、そこに折りたたんだメモが挟まれていることに気がついた。


「なになに。日本で修行中は最低限の天使力以外は使用制限をかけておきます。自力でがんばってくださいね。大天使ミカエル、、、」


「なんです?これ?」


まゆちゃんが横から覗き込んでくる。あ、日本にいるから日本語に変換されちゃってるよ、このメモ。丸見えじゃない。


「ほほほ。ちょ、ちょっと、調子が悪くって、ごめんなさい。涼しくすると修行にならないので、なしってことで。」


「は、はい?わたしは全然かまいませんよ?」


「で、では、出発しましょう!」


さあ、出発と元気よく歩き出す。


「あ、そっちじゃなくて、こっちです。」


まゆちゃんが指さしているのは逆方向。


「ぐ、ぎ、ぎ、、、」


「はい?」


もう!どうして逆なのよ!だいたい、いっつもわたしがどこかへ行こうとして歩き出すと、みんなして「そっちじゃない」とか「逆、逆」とか言い出すのよね!おかしくない?


「で、では。気を取り直して、、、後ろからついてきますね。」


「ふふふ。そうですね。どうぞ、どうぞ。こっちです。」


このコ、天界のみんなよりよっぽど親切。いえ、むしろ天使!いやいや、天使はわたしだけど。


そうして、歩き出したわたしたちだったが、まゆちゃんは羽と輪っかが気になるらしく、ちらちらとこちらを見てくる。まあ、そんな格好で歩いている人がいたら気にはなるよね、うん。でも、ちゃんと隠してるんだよぉ?この力についてはミカエル様も制限してないみたいなので、普通の人からには普通のOLに見えるはずなのです。えっへん。


「これ、やっぱり気になる?」


「あ、いえ、それはもうそういうものだということでいいんですけど。」


なんだろう、この語尾をにごす感じ。ぴきーん!閃いた!そうだった、わたし結構かわいいので、そりゃぁ、気になるよね。女子高校生だって惚れちゃうくらいかわいいってことじゃない?ふふーん。


「そう。そうなのね。まゆちゃん、お姉さんはそっちもいける口だよ。」


なーんて、何言ってんだろうわたし。これじゃ天使じゃなくてあくまだよ、あくま。誘惑しちゃだめじゃない?


「えっ!あー、そういうこと?うーん、そうじゃなくてですね。」


まゆちゃんは、駅へ向かっててくてくと歩きながら器用にわたしの方をみて言う。


「天使さま、ずばり言います。」


「は、はい。なんでしょう?」


どきどき。なんだろう、告白タイムじゃないってことよね?


「その靴、どうにかなりませんか?その服装に、その靴は、、、ていうか、なんですか?それ?」


えっ!言われてはじめて気がついたわ。服装には気をつけたつもりだったけど、なんと足元に履いているのは女児っぽいスニーカー。有り体に言って◯リキュアっぽいピンクメインの女児スニーカーだった!?


「あ、あれれ?えーと、これは、、、なんでだろう?」


「それで駅前に行ったらめっちゃ目立ちますよ、きっと。」


そうだよねぇ。これはないわ。OL風の服装ってことでアレンジしてたはずなんだけど、、、ああ、公園で子どもたちを見ているうちに、女の子たちがこういう靴を履いていてあらかわいいとか思ってたから、それで靴が変わってしまったんだわ。天使力って罪深いわね、、、。


「うーん、と。これは、多分だけど、さっきの公園で女の子たちがこういうのを履いてるのをみて、ああ、かわいなぁって思ってたら、そうなっちゃったんじゃないかと。」


「なんですか、それ!じゃあ、さっきの公園で走り回っていたワンコがいましたけど、あれ見てかわいいなぁって思ったら、ワンコになっちゃんですか?」


いや、そんなわけありませんがな、、、いや、いや、いや。あるかも。何しろ、わたしが修行の旅に出されたのも、こういった天使力の不安定さというか、コントロールの出来なさからいろいろやらかしてしまったからなので、ワンコになっちゃうのもまったくないとは言えないんだよなぁ。


「あー、いや、それは。まあ。うーん、まったくないとは、、、」


まゆちゃんったら、本当にびっくりした顔をしてこっちを見てる。そりゃそうよね、眼の前の美形天使のお姉さんが、気を抜いたらいつのまにかワンコになってしまってるかもなんて聞いたら、びっくりするわよね。


「て、天使っていったい、なんなんです?」


「いやいや、天使がみんなそんなんじゃないからね。」


うん、全天使の名誉にかけてここは強く否定しておかないと。


「あははは。なんか、おかしいですね。」


まゆちゃんがとっても素敵な笑顔で笑いながら言う。このコの笑顔は本当にかわいいわね。


「こほん。と、言うことで、靴は元に戻します。普通に黒いパンプスだったのよ。ほら。」


「おー!一瞬で変わった!天使さま、すごい!これが天使パワー?」


「そうです。これが天使パワーです!」


ふふーん。どうですか、これ。あがめ給え、うやまい給え、ほーほほほ。


「なんか、気づいたらまた別のものになっているかもと思うと、気になりますね!」


「あーん、そんなこと言わないでぇ。」


ほんと、気をつけないだわ。そろそろ駅前だし、人も増えてきたし、変なところで気を抜くとどうなるかわたしにもわからないのよね。


「そ、そろそろ着くかしら?」


「はい、そこをまっすぐ行った右側ですね。」


わーい、迷わずに目的地までこれた!ワタクシ的にはヒットですよ、これ。だいたい、目的地ってどこ?ってなってるからね、普段は。


「おー!見えた見えた。」


「はい、じゃあ、どうしましょうか?天使さまって身分証とかあります?わたしが変わりに両替してきましょうか?」


「お、お願いしても?」


「もちろんですよ。ここまで案内してきたわけですし、両替くらいなんてことありません。あ、ただ高額だといろいろあれやこれや言われるので、千ドルくらいまでの方がいいと思います。」


はあ、まゆちゃんたらかわいいだけじゃなくて、かしこいのね。助かるわあ。


「それじゃあ、とりあえず千ドルで。100ドル札がたくさんあるから、10枚ね。お願いします。」


「はい、中に入ったらそのへんの椅子に座ってまっててください。」


ということで、ロビーのソファーに座って待っていると、なんやかやと手続きをしたまゆちゃんが戻ってきた。


「大丈夫でした。じゃあ、外へでましょう。」


ありがたや、ありがたや。まるで天使のようではありませんか!わたしが天使なんだけど。


まゆちゃんからお金を受け取ったわたしは、一枚抜いてまゆちゃんに渡そうとする。


「これ、手伝ってくれたお礼だから。受け取ってちょうだいね。」


「いやいや、こんなにもらえませんよ。たいしたことしてませんし。」


「うーん、でも、何もお礼しないってわけにもいかないし、、、あ、そうだ。わたしお腹すいてるんだよね、朝ご飯食べてなくて。なにか一緒に食べない?もちろん奢るわよ。」


「えー!いや、奢ってもらわなくても大丈夫ですけど。なにか食べたいものってありますか?」


うーん、そうねぇ。朝ご飯は食べてないけど、すでにお昼だし、お昼ごはんっぽいものがいいかなあ。


「お昼ごはんと言えば、、、おそば屋さんのランチね!駅前だし、そのへんにあるわよね、きっと。」


「おそば屋さんですか!渋いですね、そっちの裏にありますけど、行ってみます?」


「行きましょう!行きましょう!お腹すいたー!」


「あはは。じゃあ、こっちです。」


そうしてまゆちゃんについていくと、銀行の裏手の商店街におそば屋さんがあるではありませんか。うーん、いい匂い。なんだろう、日本に来るんで、中身もジャパナイズされてるのかな?こう、カツオだしの匂いが五臓六腑に染みわたるというか。


「なんか、よだれでも垂らしそうな顔してますよ。天使さま。」


「うふふ。なんか、この匂いが食欲を倍増させるみたいね。」


二人でお話しながらお店の中に入って、席につく。ちょっと人は多めかな。混んでるけど、並ばない。この加減がいいわね。さて、ランチのメニューは、と。うーん、よりどりみどりで、目移りしちゃう。


「あー、なにがいいかなぁ。まゆちゃんは、たぬき派?それとも、きつね派?」


「いえいえ、わたしはお蕎麦は大丈夫です。なにかデザートっぽいものでもいただければ。あ、この抹茶プリンとか、いいですね。」


「あら、渋いわね。いい趣味だと思うわあ。うーん、じゃあ、わたしはきつねそばに紅生姜天を乗せてもらおうかしら。」


「う、それも渋いですね。」


「でも、きっと美味しいわよ。」


「そうですね。美味しそうです。」


ということで、ひと通り注文を済ませたので、二人でそば茶をいただきながら、待つことにする。


「天使さまは、このあとどうされるんです?不動産屋さんに行かれます?」


「そうね、住むところをなんとかしないとなのよね。」


「でも、それこそ身分証明書とか、住民票とかいるんじゃないですか?」


「うーん、それは天使パワーでなんとかなるかなぁ?ん?んんん?そういえば制限されてるんだった。女児スニーカーはありなのに、住民票はなしとかそんなことは、、、ちょっと待って、いま取り出してみるから。」


「さすが、天使さま。すごい。公文書まで偽造できちゃう!」


「いや、その言い方はちょっと語弊があるかと、、、公文書偽造?たしかに、そうだよね。でも、これは正義のため!正しい行いなのよ。」


ということで、天使パワーで住民票が出てこないかなあ、と頑張ってみたものの、一向に現れず。あらー、これは困ったわ。お金はなんとかなるとして、日本ってこういうところうるさいのよね。見た目は日本人だけど、それだけでなんとかなるほど甘くないわよね。


「こ、これは困ったわ。」


「ダメ、ですか?」


「ダメね。これはダメだわ。どうしよう!住むところが!」


てことは、ホームレス一直線?橋の下とか公園の土管で寝るしか無いの?土管なんてあるの?いまの公園に?


「土管で寝るしかないかも。」


「ど、土管?」


「そうよ、ドラえもんでよく出てきたでしょ。近所の原っぱに土管が積んであるのよね?」


「どうしてドラえもんなんて見てるんですか!土管なんてありませんよ。」


「えー!それは困った!やっぱり橋の下?」


すっかり困った顔をしているわたしをみて、まゆちゃんが救いの手を差し伸べてくれる。


「もし、よかったらですけど、わたしの家にいらっしゃいます?」


「え!?そんな、でも、ご両親とか大丈夫かな?」


「両親はいまいなくて、わたしと祖母の二人で住んでるんですけど、祖母も少しボケちゃってるので、お姉ちゃんが帰って来たよとか言えばそれで済んじゃうんじゃないかと。」


あら、わたしだけじゃなくてこのコも理由ワケありだったのね。まあ、おばあちゃんの認識のところは、たぶん天使力で多少はなんとかなると思うけど。


「そうしたら、お祖母様のご様子も見ないとだし、この後で一度お邪魔させていただいて、それでうまくいきそうだったらってことで、すっごい助かるわ!ありがとう!」


「まあ、悪い人だったら困りますけど、そもそも人じゃないですからね。」


そうこうしていると、店員さんがこちらへやってくる。


「はい、おまちどうさま。抹茶プリンと、、、こちら天丼です。」


はい?て、天丼?いやいや、頼んだのはおそばですけど?


「あれ?天丼でしたっけ?天使さまが頼んだの?」


ふるふると頭を振りながらわたしは言った。


「知らない天丼。」


やっぱり天井と天丼って似てますよね?点が一つはいってるだけで、まったくの別のものになるって感じってほんとにすごい!ということでオチがついたところで、次回はまゆちゃんのお家編です。理由ワケあり天使と女子高校生のハートフルストーリー、まだまだ続きます。


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