5. I want gentle people to live.
「へぇ」
やるじゃねぇかこいつ
革命なんてのはやりたくてもやれるものじゃない
才能がなきゃできない
俺にはできなかった
「それにしたって本当に運のねぇやつだよジュンは」
「革命するのを阻止されたその二日後にバカみたいなことするから俺たちの仲間だと思われてその独房に入れられたんだろ」
「ほんと、最悪だよ可哀想だよ」
「はぁぁほんとうに救いがねぇ」
「なんだ、そんなにいうことか?城壁に穴を開けることがそんなに悪いことか?」
「悪いことではあるだろ!、いや悪いことではあるんだが」
「ここの独房は俺ら革命軍を捕えるために作られたんだ」
「つまりお前も革命軍だと見なされてそこにいれられてて」
「それで、あぁ、その、革命軍の処刑が明日の昼なんだ」
「は?」
え?ちょっとまてよちょっとまて。
えぇっともしかして俺、死ぬんですか明日?。
そうか
まぁ俺にはそれ相応の罰が下るのは分かってはいた。そうか上げて下げられたのか、わざわざ期待させておいて、わざわざお礼にと言わんばかりの言い方をして。
そして処刑
それをこんな形で。
「そうか、そうだな、その通りか」
いやな神様だ。
だがこれも仕方がないことだ。
「神様、ちゃんと殺される気持ちになりましたよ」
「どうしたジュン?」
「あぁ悪いな。少し考え事をしていた」
「そうか、そりゃ…そうだよな。明日死ぬと知らされて何も思わないやつはいないよな」
「ほんと、なんて謝ればいいことか。俺は罪のない奴を巻き添えにしちまった」
ごん、と強く頭を壁に叩きつける痛そうな音が聞こえてきた。
「くそっ!こんな風にしたかったわけじゃないのに!」
ごん、と強く頭を壁に叩きつける痛そうな音。
「いいさ、お前も悪気があってやったことじゃないし、それにどうしたって俺は死ぬ運命だったのさ」
音は鳴り止まない。
「すまねぇ!すまねぇ!」
すすり泣いている、鼻水を出してみっともなく泣く顔が思い浮かばれる。
悲しいな、俺は人一倍耳がいいから。
勘がいいからよくわかる。優しい人間がするひどく共感した泣き方だ。
思い出す、とても昔の思い出
まだあの麻薬が日本に流通していない時の妹との思い出
「お兄ちゃん、早くきてよ!」
その日はひどく暑く、額に汗をたくさん滲ましてしまうほどに日がメラメラと主張していた。
妹の名前は晴子と言う。
晴子は元気でよく外に出て公園に遊びにいっていた。
元気に笑って、美味しそうに飯を食っていて、妹といると自然と笑顔になる。そんな明るい晴子が俺は大好きだった。
そんな妹が熱中症になって倒れた。
あいつは人一倍元気で水を飲むのも忘れて、走り回っていたから。
俺が晴子のことをちゃんと見ていなかったから。
もっと晴子のことを考えて遊んであげられていたらこんなことにはならなかったのに。
幸い晴子は救急車に運ばれて命は助かり後遺症もなかった。だが熱中症は一歩間違えば人が死んでしまう。
俺は親にとても怒られ怒鳴られ、顔を何度も殴られた。俺はそれを罰だと思い、それに反抗をしないでぐーっと我慢して受け入れた。
晴子が回復してまもなく、すぐに家に帰ってくることになり親が仕事の都合上俺が晴子の迎えに行くことになった。
晴子は俺の顔を見るなり強く抱きついてきた。
「ごめんねぇ、ごめんねぇ」と泣きながら鼻水をだらだらと出して俺にそう言った。
それに釣られて俺も「いいんだ、いいんだ」と諭し一緒になって泣いた。
「晴子お前ひどい顔だぞ!」
「お兄ちゃんの方がひどいよぉ!」
そうやって笑いながら二人で歩いて帰った。
「うぅ、いい話だなぁ!」
「なんでこんな奴を巻き込んじまったんだよぉ!」
「ジュンの代わりに俺が死ぬ!」
「いやみんな明日死ぬだろ!」
「そうだった!」
みんな一斉に泣いてるな、ほんといい人たちなんだろうな。
この人たちには生きていてほしいなと久しぶりにそう思えた。
この人たちは処刑されていい人間じゃない
死んでいいはずがない
目を瞑る何度も何度も自問自答した
だが答えは決まっていた
覚悟は決まった
「よいしょ」
藁に寝ていた身体を起こし立ち上がり、構えをとる。
中国では木の板やレンガを手で割っているらしい
つまり、人には硬そうに見えるものでも案外と壊せるってこと。
たくさん息を吸ってぇ〜
「ふん!!」
バゴン!!!!
「わぁ!!」
「なんだなんだ?なんの音だ!」
「な、なんだ?!壁に穴が空いて、え?お、お、お前ジュ、ジュンなのか?」
「よぉジャスティン、ひどい顔してんな」
「…バカ言うな」
ニヤリと二人笑う
「国を変えてやる。革命軍に変わってこの俺、佐藤潤が!」
「はは、参ったなこりゃ。壁を開けたのは道具でもなくその身体だったか!」
「任せたぞジュン!俺らに変わって奴らを、王と貴族を殺せ!」
「応!」
夜は暗く、されど光あり。
今宵指すは希望の光なり。