6 : 魔法石
♢♢
「……いたか?」
「いいえ、こちらには反応がありません」
「あの方の存在は極秘だ…!何としても見つけ出せ!」
「このことがイクス様に知られてはならん…!」
ーーここはとある施設。
白衣を着た大人数名が必死になってモニターを囲んでいる。どうやらある人物を探しているようだ。
「9番目の魔法陣の痕跡はここにあるんだ!…複雑過ぎて転移先は分からんが、魔力探知で大まかな位置だけでも絞り出せるはずだ…!」
「しかし、あの装置を使うには我らの魔力を全て集めても足りるかどうか…」
「今ここで何人倒れてもいい…!あの方を見つけることが最優先だ!……それともイクス様に知られることを望むか?」
「い、いえ、それは………す…すぐに…!」
大人達は魔力探知を行うべく、施設中央にある装置を起動させた。
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『………もう少しだけ待ってやるよ』
その様子を見ながら呟いたのは黒髪の男だった。
♢♢
棚を眺めること数分…
「………ねぇ…」
ノインが2人に問いかけた。
「どうした?」
「……魔導師にとっての武器って何?」
「魔導師は数が少ないからな…一般的には魔法石のついた杖を使ってるイメージだよなぁ」
「ああ、魔導師は武器についてる魔法石に魔力を流して強力な攻撃魔法を放つらしい。魔法石の多くは杖の装飾に使われているし、杖の形状的にも魔力を流しやすくて魔導師にとっては使いやすい武器なんじゃないか?」
「……魔導師はそれが無いと戦えないの?」
「戦えないというか、、現代に魔法石の補助なしに強力な魔法を放てる魔導師は存在しない…というのが正解じゃね?昔はそういう魔導師もたくさんいたらしいけど、何かの実験の犠牲になったとか…誰でも一度は学ぶ歴史の一部だろ?」
それは子供でも知っている史実。
魔導師の全体数が少ないこと、その理由、それをさも常識だと言わんばかりにヴィントが口にするが、そのどれもがノインにとっては馴染みのない話だった。
「そう…なんだ」
魔導師は魔法石がないと強力な魔法は使えない…その言葉と自分が一致しない、、なぜなら魔法石が無くてもなんの支障もなく魔法が使えていたからだ。そこで自分の魔導師としての能力は一般的ではないということに気づいたノインは、少し考え込む様子を見せた。
すると、ルカが何かを思い出したように話し始めた。
「…あ…確か1人だけ……旅していた時に聞いたことがあるな。今の時代におけるただ1人の真なる魔導師、どっかの国の宮廷魔導師だったか?魔法石の補助無しに自由自在に魔法を操るって噂があったはず。とにかく、そいつの魔法は規格外で、戦場では負け知らずだったとか…」
「宮廷魔導師…」
「ああ、確か…どっかの王国が保護する名目で宮廷魔導師の地位を与えていたが、数年前の戦争の時に姿を消したって聞いたな…。まぁ、保護って言っても、結局は戦争の道具に過ぎなかっただろうがな……」
「……その魔導師、今もどこかに居るのかな?」
「さぁな。その噂を聞いたのはおれが16くらいの時だったから、今から7年ほど前か…戦争で姿を消してるから生きてんのかさえも分からんな」
ルカの言葉にノインは再び思考を巡らせた。
”戦争で姿を消した”……ルカは戦死したとは言ってない…噂の詳細は分からないが、死んだ可能性と表舞台を退いた可能性が考えられる。…もし後者なら生きている可能性はあるかな。
「そっか…会ってみたいなぁ」
「いろんな国を旅してみたらノイも噂が聞けるんじゃない?」
「そうだね」
「……んなことより、武器は決まったのか?」
「んー…それが、全然決まらなくて正直困ってる…」
……キュー!!
「わっ!!シュニー!?」
「シュニー、やっと起きたか」
「お!ルカんとこの白ドラゴンじゃん!なんでノイのフードから…?」
「こいつ、今日はノインのフードで寝てたんだよ」
「へぇ、ルカ以外にも懐くんだなぁ!」
「そだ!シュニー、あの棚の中から1つ、良さそうな魔法石を選んでくれない?」
ノインは自ら選ぶことを放棄し、武器の選択権をシュニーに譲った。すると、しばらくの後、シュニーがお気に入りの魔法石をノインの元へと運んできた。
キュ!!
「…ん、ありがと。これにするね」
シュニーが選んだ魔法石と、またも迷うことなく決めるノインの様子に、2人は困惑していた。
「ノイ…」
「ノイン…」
「なに?」
「…ほんとにそれでいいの?」
「武器…なのか?それ…」
「ん。魔導師の武器に必要なのは魔法石なんでしょ?だったら、武器の形状にこだわらなくてもいいと思って。シュニーが選んだ魔法石ならきっと大丈夫(…というか何でもいい…)」
「あははっ!いいねノイ!」
「はぁ………んじゃそれともう1つ、せめて護身用に短剣くらいは持っとけ」
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結局、ヴィントの選んだ服とシュニーが選んだ魔法石、ルカが選んだ短剣を買ったノイン。振り返ってみると、何一つ自分で選ぶことなく買い物を終えていた。
「おおー!ノイ、冒険者っぽくなったね!」
「そう?装備が変わっただけだけど…」
「前のローブよりは町に馴染んでるな」
「それは良かった」
「あ、そうだ…ノイン」
「ん?」
「これとこれ、やるよ」
ルカがノインに手渡したのは、イヤーカフと小さな砂時計型のペンダント。
「これって…」
「おれの腕輪と同じ装飾品だ。それに魔法石や短剣をしまっとけ」
「…!ルカ、ありがと」
「え!いーなー2個も…!」
「…1個は約束だったから。もう1個はおれが短剣も持たせたからな、2個やるのは当たり前だろ?」
「ルカ!おれには?おれにも…」
「ねぇよ!」
「ノイばかりずりぃ…」
「うるせぇやつだな…お前はダンジョン行って自分で取ってこい」
「ヴィン…がんばって」
「…そう簡単に手に入ってたら苦労しないって……まぁいいや、そろそろ今日の依頼に行くとするわ!」
「おう」
「ん、ヴィンもありがとね」
「おー!次会ったらノイちゃんのこともっと教えてもらうからなぁ!」
「え……教えられることないと思うけど…」
「じゃーなー!」
言いたいことだけ言ってヴィントは姿を消した。常人では一瞬で消えたようにしか見えない速さでも、ルカとノインには彼がどの方向に進んだのかが分かったらしく、その方角を見つめながら口を開く。
「最後まで騒がしいやつだな…」
「賑やかだったね」
ため息を吐きながら、何事も無かったように歩き出すルカとその後を追うノイン。
「…にしても、お前よく分かったな…見えたのか?」
「まるで消えたように見せてるけど、ヴィンのスピードは目で追えたからね」
「…いい目をしてるな……(やっぱりこいつ、戦闘慣れしてんのか?…身体が覚えてるとかそういう感じだな…)」
「ん…(宮廷魔導師…どの国に居るのか調べよっと…)」
そうして個々に考え事をしながら進んでいく。
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・
ギルドへとやって来たルカとノイン。
今日はノイン初の依頼を受けに来ていた。つまり、冒険者デビューの日ということになるのだが…
ギルドに入ると、前回同様ノインは冒険者たちの視線を集めていた。
「冒険者っぽい装備を整えたのにまだ目立ってる?」
「……ノインの場合、目立つのは服装だけじゃないからな…」
「え……」
ルカは頭を抱えていた。
ノインの装備を冒険者風に整えたおかげで服装などは少し落ち着いたが、髪色や瞳、元の雰囲気などは変わっておらず、そこにシュニーが懐いたため、小さなドラゴンが肩に乗っているというオプション付きだった。
「………(おれが装備を変えさせた意味が無い…)」
ルカの深いため息が聞こえた。
とりあえず、苦肉の策でノインにフードを被らせた。
「わっ…!」
「…シュニーはこっちだ」
キュ!?
「あ!シュニー…!」
ルカにシュニーを取られて少し寂しそうなノイン。
シュニーも同様に少し寂しそうな表情でノインを見つめていた。
「少しの間我慢しろ。ノインが目立ち過ぎるからな…トラブルを起こしたら面倒だ」
キュー…………
少し不満気ではあるものの、ノインのためということが伝わった様子のシュニー。大人しくルカの腕に抱かれているシュニーをルカは優しく撫でた。
「……」
「どうした?」
「んーん、早く掲示板見に行こ」
「?……ああ、そうだな」
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掲示板前…
「お前は冒険者登録したばかりだからランクはEだな…となるとソロではEかDの依頼を受けられる。上位ランクと同じパーティなら実力次第で上位者と同ランクの依頼を受けることもできる。」
「なるほど」
「今回おれも一緒に行くが手は出さない。ノインの好きなEかDの依頼を選べ」
「ん」
掲示板には、各ランクに分けて依頼用紙が貼られていた。
E ”1日屋台の店番”
E ”火傷に効く薬草集め”
D ”マカライトの森のウルフ討伐”
D+ ”地下水路の害獣退治”
etc…
「……ルカ、マカライトの森って…」
「お前と会った森だな」
「…じゃ、ウルフって…」
「お前が魔法を試していた魔物だな」
「………………俺、結構な数倒したような…」
「あー…だいぶ減っただろうな」
そう、ノインは森で見かけた魔物に片っ端から魔法を放っては自分の能力を確かめていた。それを見ていただけのルカが疲れるほどの情報が詰まった魔法の数々…それだけ多くの魔法を魔物に放ったということは、それだけ多くの魔物を討伐したということになる。
「あの魔物討伐がDランク…Eじゃないんだね」
「まあな、、マカライトの森の魔物はどれもD相当だ」
「ふーん…(攻撃は単調で簡単に回避できたし、大した手応えもなかったのに…)」
基本的に、マカライトの森に生息する魔物は戦闘初心者にとっては少しだけ苦戦する程度の強さだ。しかし、ノインの場合は”少し試す程度”の魔法で討伐できていた。だからこそEランク相当の魔物であると思い込んでいたのだろう。
「お前が倒したウルフの毛皮と牙は、その装備を買うためのお金として消えてったからな…手元にあるのは少しの爪だけか…?」
「爪って討伐証明になる?」
「素材として取れたものは毛皮でも牙でも爪でも証明になる。その依頼用紙を受付に持って行って受理した後で、依頼完了手続きをすればいい」
「なるほど。じゃ、マカライトウルフの討伐と…地下水路の害獣退治も受けてみよっと」
「決まったなら受付行くぞ」
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「ノインさん、こんにちは。今日は依頼受付ですね」
受付に行くと、ノインが冒険者登録をした時に担当した職員が迎えてくれた。
「これとこれをお願いします」
「2枚もですか?」
「ん、ウルフは昨日討伐してるから。今は数も減ってるはず、、証明はこの爪でいい?売っちゃった物もあるから少ししかないけど…」
「……爪32個!?初心者さんが持ってくる数の3倍はありますよ…!」
「そう……これでウルフ討伐は依頼完了?」
「そ、そうですね…!ウルフ討伐は完了手続きをしておきます。地下水路の方は依頼受付が完了しましたので次は説明を…」
「じゃ、地下水路に行ってくるね」
ギルド職員の言葉の途中で席を立ったノインは、扉の方へと歩いていく。
「え?ちょっと、説明を…」
「ルカ行くよー、観戦よろしくね」
「…ああ」
「ちょ、ノインさん?説明をぉぉぉぉ……!」
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ギルドを出て地下水路に向かう2人。
勢いよく出たはいいものの、地下水路の入口を知らないノインはルカの後を追っていた。
「…地下水路ってどこから行くの?」
「向こう、あの道の先に下に降りる階段がある。少し暗い道だから足元の段差とか気をつけろよ」
「ん」
ルカの言葉を素直に受け取ったノインは、音もなく静かに体を数センチだけ浮かせた。
キュー!
「シュニーも気をつけてね、この先暗いらしいから」
「シュニーは飛んでるから大丈夫……ノイン?」
「なに?」
「お前、なんで浮いてんだ?」
「あ…(バレるの早いな)…周りに人居ないし、歩く格好で数センチ浮くくらいなら大丈夫かなって……」
宙に浮いてしまえば段差に躓く危険は無くなる…
そんなノインの思考を読んだルカはため息を吐いた。
「……まぁいい、他の人にはバレるなよ。……行くぞ」
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