4 : 手がかり
「………おれはもう行くぞ」
予定ではもう少し早く戻るつもりだったが、思ったより遅くなってしまった……暴れてないといいが…
ギルドを出たルカは、町の中央広場から少し外れた石畳の道へと進んでいく。その道を少し進むと、冒険者らしい格好の人が多く行き交う通りが見えてきた。
「……ルカ!待って、どこ行くの?」
追ってきていたノインを待つ素振りは無く、ルカはその足を止めることなく質問にだけ端的に答えた。
「宿」
「宿?」
「ああ」
「…もう休むの?まだお昼過ぎ…」
そう、ギルドに着いたのがちょうど昼時だったから、ギルドでの依頼完了報告や登録手続き、説明などを受けた今は14時半頃だろうか…宿で休むには早すぎる時間帯だ。
「…昼過ぎたから急いでる」
その返答は不明瞭で、ノインの疑問を払拭するには情報が少な過ぎた。
「??どういうこと…?」
「…あー…………まぁ、すぐにわかる」
「………ん」
いくら聞き返してもノインは何一つ理解できないままだったが、そのままルカの後を追う。ルカがすぐにわかると言ったのだから、とにかく着いていけばいいのだろうと判断した。聞いても分からないなら見て判断すればいい、ノインは自然とそう考えることにした。
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それから少し歩き、人通りが少なくなってきたころ…
「…ここだ」
ギルドから数分歩いた先の町外れの小さな建物。そこがルカの泊まっている宿屋だと言う。ここに来るまでにも、幾つか立派な宿屋を見てきたが、その中でも一際素朴さを感じる宿屋に思えた。
「……ここ?ルカはここに泊まってるの?」
「ああ」
「なんで?」
ノインの疑問はもっともだ。
ルカはAランクの冒険者。ともなれば、もっと大きくてギルドや中心街に近い宿屋でも泊まれるはずだ。それでもここに泊まるのには、何かしらの理由があるということになる。
「……それは、、」
キューーーィ!!
突然、宿屋2階の窓から白く輝くものがルカ目掛けて飛び出してきた。
「!!」
「……こいつも一緒に泊まれる宿屋だからな、、シュニー、待たせて悪かった」
ルカは肩に乗って擦り寄っているそれを優しく撫でながら答えた。
「おれの相棒シュニー、白変種のドラゴンだ。今は小さくなってるが、本来は俺が乗れる程度のサイズで…まだ子供だ。」
「ドラゴン…!」
「今日は近場の狩りだったから宿で寝かせといたんだが…昼までに戻る予定が少し遅くなったからな、、」
「なるほど、だから急いでたんだね。シュニー、俺はノイン、よろしくね」
ノインが抱いていた疑問、ルカがなぜ宿に向かって急いでいたのかがようやく理解できた。ルカは宿にいたシュニーを迎えに行くために急ぎ足で宿屋を目指していたのだった。
優しく挨拶するノインに応えるように、シュニーもノインに向かって一声鳴いた。その動きに合わせて輝く白い鱗と空色の瞳がとても印象的で目を引く。
「シュニー、とても綺麗なドラゴンだね」
ドラゴンであるシュニーを怖がる様子のないノイン。
シュニーを褒めるノインの長い銀髪も陽光が反射してきらきらと輝いて見えた。
こいつら、何となく似てるな…
ルカはふっと微笑みながら2人を見た。
「シュニーとも合流できたし、飯でも食べに行くか」
「ん」
2人と1匹は近くの食堂へと入った。
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「……じゃ、改めてノインの状況について整理しよう。分かる範囲で教えてくれ。」
「んー、気づいたら森の中で寝ていた」
「…寝ていた?」
「…目が覚めたら森にいたって言うのが正解かな」
ノインは森で目覚めた時の状況を思い出しながら、ゆっくりと説明した。説明という程のことでもないが…
「それ以前のことは覚えてないのか?」
「ん。目覚めた時点での俺が理解できたことは大きく分けて3つ。1つ目は俺に魔力があり魔法が使えるということ、2つ目は魔法とは異なる能力があるということ、そして3つ目は何かしらの魔力的要因によって記憶が封じられているということ。何かを思い出そうとしても9という数字が浮かぶだけでそれ以外はさっぱり…」
「…その異能力で宙を飛び、魔法で姿を消した状態でおれが居た場所まで来たんだな?」
「そう、宙から町が見えて、まずはそこに行って情報収集しようかと考えてた時に大きな音がしたから見に行った。でも、こっそり見るだけのつもりがルカに気づかれたけど…」
「…魔力の気配がしたからな、姿が見えないってだけではBランク以上の冒険者には気づかれると思うぞ」
普段から魔物と対峙してる冒険者のほとんどは気配に敏感だ。よっぽど鈍感な人でなければ、高ランクの冒険者はすぐに気づくだろう。逆に言えば、低ランクでも気配に敏感な人なら気づけただろう…。
「…なるほどね、次からは気をつけるよ」
ノインが敵相手に同じことを繰り返さないよう、細かく説明するルカ。そして、食事を進めながらもその説明を聞き逃すことのないノイン。2人の会話はまだ続く。
「で、他には何も思い出せないか?」
「んーと…あ、あと…森を抜けた時に、俺よりも10~15歳くらい年上っぽい感じの黒髪の男の人が…」
「…お前の知ってる奴か?どんな感じの男?」
ルカは怪訝そうな顔をしながら問いかける。
「俺と似たような顔立ちで…顔の右側に火傷?したような傷のある黒髪の男……」
ノインは森を抜けた時に見た男の姿を思い出しながらルカに説明した。
「その男ならお前のこと何か知ってるかもな」
「たぶん知ってると思う……けど、教えてくれそうにない…気がする」
「……まぁ、そいつが教えてくれるかどうかは置いといて…、とりあえず今はその黒髪の男が唯一の手がかりってことは確かだな」
「…ん」
「ノインに似た顔立ちなら、すぐに分かりそうな気がするが…おれは見たことねぇな」
ノインの顔立ちは目立つ方だと思う。一度見たらきっと忘れないだろう…そんな顔立ちの男が2人も居たら尚更だ、ノインに会った時点ですぐに思い出しているはず。
「この国の人じゃない…?」
「かもな。…で、お前はこれからどうする気だ?」
「…冒険者として生きていく…その中で俺の手がかりを探していくつもり」
「そうだな…この国にいる間はおれが助けてやるから、必要な時は呼べ。ああ、あと、明日は装備を整えに行くぞ」
「装備?」
「そのローブも安物では無さそうだがな、冒険者には見えねぇ…何かの手がかりになるかもしれねぇし、保管しといた方が良さそうだ」
ルカは眉間に皺を寄せてローブを見つめた。
ノインが最初から着ていた金糸の刺繍が入った白いローブ。派手すぎることは無いが、地味でもない。どこかの魔導師の制服なのか、、とにかくそのローブも手がかりの1つであると見ていいだろう…
「……でも俺、お金持ってないんだけど」
「今日お前が狩った魔物の素材を売ればいくらかにはなるし、足りなければおれが出してやる。お前の身元保証人としては、装備もちゃんとしたものを身につけてて欲しいしな」
そう伝えるとルカは失笑した。
「そうだった、ルカは俺の身元保証人だったね」
ノインも思わず微笑む。
「…流れでな」
「ん、ありがと。明日もよろしくね」
その後も2人の会話は続いた。それが終わる頃には外は暗くなっており、遅い昼ご飯兼夜ご飯と化した食事も終わりを告げた。
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