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Leben 休載  作者: 流羽
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3 : お願い

「あ、ルカさん、お疲れさまです! 今日も早いお帰りですね!」

門兵の1人がルカに声をかける。


「あぁ、今日の討伐もすぐ終わった」

「さすがですね!まぁこの辺だとルカさんが苦戦するような魔物はいないですから当たり前のことですけど、あ…でも最近は、、………あれ?そちらは?ルカさんのお連れ様ですか?はじめましてですね」


おそらく門兵はルカしか見えていなかったのだろう。門兵としてそれはどうなのかと思ってしまうほどの緩い仕事ぶりに、ここに来たばかりのノインでさえ不安を覚える。


「……はじめまして…」

ルカの後ろから顔を覗かせるように挨拶したノイン。その顔は少し引きつっているようだ。


「いやールカさん、こんな美しい方とどこで出会ったんですか?これまで多くの人がこの門を潜って行くのを見てきましたが、その中の誰よりも美しいと思います!お名前を聞いてもいいですか?いいですよね!お美しいお嬢さん、私の名前はサムと言います。お嬢さんのお名前は?」

明るい門兵サムの勢いが怖い…


「………こいつたぶん男だぞ…。森で魔物討伐中に会ったから王都まで一緒に来ただけだ」

「え!?男…!?えぇ…!!」

「…ね…ねぇルカ、この人、というかこの町?大丈夫なの?」


ノインが少し困ったようにルカに問いかける。

門兵なら男でも女でもまず警戒するべきでは?いや、これは作戦なのか?あえてこの態度をとって相手を油断させて探りを入れているのか??


「あぁこの門兵はともかく…他のやつらは真面目に仕事してるから町中は安全なはずだ」


…”はず”って……ここ王都だよね?いいの?そんなんで…

ノインの思う門兵のイメージと目の前の門兵があまりにかけ離れすぎていることと、ルカのてきとうな返事のせいで不安しかない。とりあえず「この門兵は」という言葉からサムのこれは通常運転で、素が残念なのだろう…という結論に至った。


「ん、わかった…。サム、俺のことはノインって呼んで。美しいと褒めてくれたところ悪いけど、残念ながら俺は男だよ、よろしくね」

「そんな……!こんなに美しい人が男だなんて……詐欺だぁぁぁあああ!!!ねぇノインちゃん?嘘だよね?嘘だと言って……!」

「俺は男だよ」

「あぁぁぁぁぁァァァァァァァ………!」

「はぁ………。もういいか?行くぞ」

眉間に皺を寄せたルカが一声かけて進んでいく。ノインもそれに続いて歩き出した。


「ぁぁぁァァァァァァァァ………!!」

「おいサムうるせぇぞ!仕事しろ!!」

「こりゃしばらく使いもんにならねぇな…」

「誰だよ、サム壊しやがったのは……!」


小さくなっていく門兵達のやり取りを背に感じながら、ノインはルカの後ろをついて行く。


「ねぇ、どこに向かってるの?」

「ギルド。依頼完了の報告をしに(…ギルドに向かって歩いてれば警備隊も見つかるだろ)」

「(……ギルドか、ちょうどいい)…ねぇルカ」

「なんだ?」

「ギルドに行ったら、俺も冒険者になれる?」

「…冒険者になりたいのか?」

「ん。俺、特にやることも無いし、お金も無いし、記憶も無いし…冒険者として旅をしてたら俺のことを知ってる人に会えるかもしれないし」


そういえばこいつ、なぜか森にいたって言ってたな。なに聞いても知らないって言うし、自分の魔法のことでさえ…………


「そうか…確かにギルドで登録すれば誰でも冒険者になれるし、高ランクになれば生活も苦じゃない。お前の言うように旅をするつもりなら、ギルドカードは身分証の代わりにもなるから冒険者登録しといた方がいいかもな」

「でしょ?…だからさ、ルカにお願いがあるの」

「………お願い?」

ルカの眉間に皺が寄る。

「そ、お願い」


基本的にルカはめんどくさい事はしたくない。だが、面倒見の良さからか、めんどくさい事に巻き込まれることは多い。そのためノインの”お願い”に対してもルカは慎重になる。


「………なんだ?まずは聞いてやる」

「ん、あのね、、俺に冒険者を教えて」

「………冒険者を………教える………?」

「そ、俺冒険者について何も分からないから…」

「ギルドでの登録から依頼の受け方、報告の仕方とかをひととおり教えればいいのか?」

「ん」

「そういうのはギルドの職員が教えてくれるはずだが…」

「そなの?…でも現場のことをよく知ってる先輩冒険者に聞いた方が分かりやすそうだし、現場で使える知識を得られそうな気もする」


何も知らないと言いながら、冒険者を知るには1番良い方法を見つけている…。知らない森にいたことや記憶の無い自分に対しても特に慌てることなく落ち着いて行動していたこと、自分のチカラを魔物との実戦で試した度胸、時折子供っぽい部分が垣間見えるものの、基本的に落ち着いていて冷静な判断をするノインと名乗る青年。ルカが興味を持つには十分だった。つまるところ、めんどくさいという感情よりも謎だらけの不思議な青年への興味が勝ったのだ。


「まぁギルド職員が教えてくれるのは基本的なことだけだからな………わかった、教えてやる。まずはそこのギルドで登録するぞ(…冒険者になるなら警備隊はなしだな)」

「やた!ありがとルカ」

そうしてギルドへとやって来た2人。

ギィィ……パタン……。

「お、おい……あれ誰だ?!」

「…ん?あぁ、Aランク冒険者のルカだろ?」

「ルカだな……」

「いや、そっちじゃねぇよ!その後ろ…!」

「ん?うぉ!!すげー美人…!!誰だあれ!?」

「あんな美人は見たことねぇな…」


賑やかな空間、様々な格好の冒険者、あちこちから飛び交う言葉の数々、そのどれもがノインには新鮮に思えた。そして刺すように集まる視線…それはノインとルカ2人に注がれていた。


「………居心地悪い………」

「どこもこんなもんだ、ギルドは…」

「……姿消しといていい?」

「それじゃギルド職員がお前を認識できねぇ、冒険者になりたいならやめておけ」

「………それは困る……………(くいっ)」

「おい…」

「大丈夫、姿は消してない。ほんの少し気配を薄くしただけ…」

「……好きにしろ」


そんなやり取りをしながら2人はギルド職員のいるカウンターへと向かった。


「あ、ルカさん!…今朝の依頼はやはりルカさんには簡単でしたよね、、さすがお早いお帰りです。完了報告でいいですか?」

ギルド職員の1人が慣れたように完了報告の準備を始める。


「……あと、こいつの冒険者登録もいいか?」

ルカが後ろのノインを指しながら伝える。


「………ルカさん…どこからこんな美人を攫ってきたんですか?犯罪ですよ?」

「なんでだよ、、森で会ったから連れてきただけだ」

「森で美女をナンパしたんですか……!」

「…ちげーよ!なんでそうなる……!」


そのやり取りをノインが呆れたように眺める。ルカの簡易的な説明だけだと何も伝わらないどころか、あらぬ誤解を生んでしまう……何から伝えるべきか…悩んだ末、ノインはまず美女という部分を否定しようと考えた。


「………あの、俺は男です」


ガタンッ!!!?!!??

急に周りが静かになった。


「………男…?コホン…私の聞き間違いですか?今、そちらの方から男だと聞こえたような…」

「………俺は男です」


信じられないという顔でルカを見つめる職員に、ルカはため息をつきながら答える。


「…本人が言ってるだろ、こいつは男だ」

「ルカさん、それ、見て確認したんですか…!?」

「するか…!男か女かくらい分かるだろ…、確かにパッと見は女に見えんこともないが…」

「パッと見どころか、どこからどう見ても美しいお嬢さんですが……一人称が俺…のところ以外は……」

「………はぁ……いいから仕事してくれ…」


ルカは諦めた。別に信じてもらわなくても構わないし、説明する義理もない、ノインが男か女か、周りからどう見られているか、ルカにはどうでもいいことだった。


「あ、はい、失礼しました。ではまず完了報告から…」

先程までとは異なり、テキパキと仕事を進める姿はまるで”できる職員”だった。


「では、続いてそちらの方の冒険者登録を進めます。登録される方はこちらの席へどうぞ。」

案内された席に座るノインとその後ろに立つルカ。


「まずはこちらの用紙をご記入ください。」


ノインは用紙を眺め、ペンを手に取る。


・名前 : ノイン

・年齢 : 不明

・種族 : 人間?

・出身地 : 森?

・職業 : 魔導師


ルカが用紙を覗き込んで問う。

「お前それ、どこまで合ってんの?」

「んー…職業は合ってるはず…」

「つまり、職業以外はてきとうってことか…」


やはり”ノイン”という名前も本名ではない…森にいたこと、魔法を使えること、性別以外は不明だな…。


「てきとうとは…酷いね、、何も知らないだけ」


記憶が無いのはノインのせいではない…

ルカはノインの頭に手を乗せ優しく撫でた。


「………出身地が森…はねぇだろ……」

「魔導師とは珍しいですね!しかし、こう不明ばかりですとさすがに………登録するためには身元の保証人が必要ですね」

職員はルカを見ながら言葉を発した。


「…………まさかとは思うが…おれがなるのか?」

「ルカ以外にいないよね」

「ノインさんをここに連れてきたのはルカさんですからね、身元保証人はルカさんでいいんじゃないでしょうか。」


面倒事は嫌なんだが……ノインに冒険者を教える約束もあるし、実際ここに連れてきたのはおれだ……

「はぁ…………、ノイン(おまえ)、面倒なことに巻き込まれたりすんなよ…」

ルカはため息をつきながらも、ノインの後ろから手を伸ばし、迷うことなく身元保証人の欄にサインした。


「ありがとうございます。これで記入欄は問題ありません。」

「ルカ、ありがと。」

「最後に魔法使いとしての魔力登録をします。こちらの道具に魔力を流してください。魔力量ではなく、個々の魔力の質を登録するためですので、少しの量で問題ありません。」

ノインは差し出された魔道具に手をかざし、魔力を流した。


「はい、ありがとうございます。ギルドカードを発行しますので、少しお待ちください。」

「お待たせしました。こちらがノインさんのギルドカードです。このカードは身分証としても使えます。紛失した場合、各地のギルドカウンターにて再発行することができますが、その際は再発行料が発生しますのでご注意ください。詳しくはこちらに記載してますので必ず目を通してくださいね」


職員は本を手渡した。 すると、ノインの手中にある本が浮き上がり、ページがパラパラとひとりでにめくれた。


「………ん、わかった」

「…今ので読んだとか言わないよな…?」

「さすがに全部読んでないけど、重要そうな部分は頭に入ったよ」

「まじかよ…………(今のは魔力を使ってなかった…ということは…)」

「魔導師の数は少ないですから、いろいろと未知数なことが多いですよね…!」

「………(魔導師の中でもノイン(こいつ)は特におかしい気がするが…)…………登録終わっただろ、おれはもう行くぞ」

そう言ってルカは扉へと向かった。


「あ。待って、俺も行く…」

ノインは職員に軽く会釈してから、ルカの後を追った。


꒰ঌ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼໒꒱



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