1 : 森
・
・
「……できましたね。9番目はやはりすごいです。
ここから転移するとあなたの記憶は封じられます。」
これまでの出来事、私たちのことも、
全て忘れて新たな人生を歩んでください。」
・
・
「あなたなら大丈夫です。どうか楽しい日々を……」
・
・
・
・
・
「……………」
「………………………」
緑豊かな木々に囲まれた、少し開けた場所で目を覚ます。ゆっくりと体を起こすと、腰の辺りまで伸びた青みがかった銀髪が風に揺れた。
そこにいたのは、女性と見間違うほど整った顔立ちの1人の青年。不思議な空気を纏う彼は一体どこから来たのか………彼自身も知らない。
その場で立ち上がり、辺りを見渡したが、ここが一面木々に覆われた森であることしか分からなかった。
「…………」
ゆっくりと目を閉じ、考える。
自分はなぜ森にいるのか、どこの誰なのか、、
…?…………9??………
頭に浮かんだのはなぜか9という数字のみ、何度考えても自分のことは何も分からなかった。
この感じ…魔法?…………?少し眉間に皺を寄せ、ぐっ握った拳を見つめた。そしておもむろに手を開く、、
…火…水…風…雷…………………魔法は使える………他にも…
なにも知らないはず…なのに、青年は何かしらのチカラを感じた。
そして青年は再び周りを見渡した。
ふわ…ふわ………ぴた!……ぐしゃっ!
近くにあった木の実がひとりでに少し宙を舞い、潰れてしまった。
次は……………………ふわり。
「ん、いい感じ」
頷く青年、その体は宙を浮いていた。
能力は特に問題無さそうだな…
青年はふと空を見上げた。
緑の中に青々とした空が顔を覗かせている。
上からならなにか分かるか…
ひゅん!木々の合間を抜けて空へと飛び上がった。
「……ん、よく見える。…向こうが町かな」
青年は戸惑うことなく冷静に、自分が置かれている状況をひとつひとつ確認していく。
泣き叫んでも意味は無い、自分で考え、行動しなければなにも変わらないことを本能でわかっていた。
もっと情報が欲しい。
まずは町で情報収集を………
ドンッ!!バサバサバサッ!
大きな音と共に鳥が羽ばたく
??向こうでなにが…
正直、巻き込まれたくはない…が…
「んー」
………少し見るだけなら…
「よし」
あ、でも一応………
青年は大きな音がした方へ飛んだ。
・
・
・
・
・
ヒュン!
黒い刃が風を切る
「…………終わりか。物足りねぇ、、
さすがにランクが低すぎたな……」
うっすらと緑に輝く髪をかき揚げ、男は剣を鞘にしまった。
「とりあえずこれで依頼は達成………で?いつまで見学してるつもりだ?」
!!!!
念のため姿を消して来たのに…
「………出てこい。」
姿は見えねぇが、、いる
男は剣の柄に手を添え、空を見上げた。
その 冷たく静かな声は青年の耳へと響いた。
まさか気づかれるとは思わなかった…特に敵対するつもりもないし……うん、仕方ない。
ぱちん!
「……!」
突如と…して男の視界に現れた青年の美しい銀髪が風になびいた。
…!?…女?…いや…おと…こ…か?
…それよりも…浮いてる……!
風はないが、どうやって……
男は眉間の皺を深くした。その青年の美しさよりも、風もなく浮いている事実の方が気になるようだ。
「ねぇ、なんで分かったの?」
まだ慣れてないとはいえ、これなら気づかれないと思ったんだけど。
「…………なんとなく。」
………こいつの姿を消してたのは魔法だった。
だが、飛んでるのは違う……
「うーん………もっと練習が必要かな」
青年はひとり考え事を始めた。
彼に敵意がないことを察した男は剣に添えていた手を離し、倒した魔物の解体をしながら問いかける。
「………で?お前はなんで浮いてんだ?」
「……なんでだろ」
「は?」
「俺にもよく分からないけど、魔法じゃないことは確かだね。」
「だろーな。風も吹いてねぇし… 今、魔力が使われてる感じもしねぇ」
「あぁなるほど、魔力の動きで俺がいることに気づいたのか、、」
「…………………」
淡々と魔物を解体する男と、ふわふわと宙に浮いたままの青年、2人の会話は続く。
「お前、何しに来たんだ?」
「大きな音がしたから見に来た」
「どっから?」
「森。あっちの方」
青年は飛んできた方角を指さしながら答えた。
「そこで何してたんだ?」
「知らない」
「…………は?」
「んーと……簡潔に言うと…俺何も知らないんだよね」
「…何も?」
「そのままの意味。過去どこで何をしてたのか、現在どこにいるのか…」
宙に浮いた体を倒された木の上に降ろし腰掛ける。
……つまり、記憶喪失か?
男は困ったように頭をかいた。
「………名前は?」
「……………ノイン……」
…………名前も知らないんだな、 でもなんでノイン(9)……?
「………そうか…おれはルカ。依頼も終わったしこれから町に戻る予定だが、ノイン、お前はどうする?」
森で迷子になっているなら、町の警備隊にでも知らせたらいいか…
ルカはそう考えて提案した。
「!?…案内してくれるの?」
「町に戻るついでだ。」
「……行く」
ふわっとノインの体が浮いた。
「……お前なら町まで飛んで行けそうだがな」
「んー、たぶんできるけどずっと飛ぶのは疲れる……と思う(やってみないと分からないけど…)」
「…そうか」
いろいろ気になることはあるが、ノインに聞いても答えは出ないだろう。考えても無駄なことはしたくない、今は町に戻ることにしよう。
「行くぞ、町はこっちだ」
꒰ঌ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼໒꒱
旅の始まりです。
あたたかく見守ってください。