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作者: やみクモ

昔から死にたいと思ったことは無かった。

実家はそれなりに貧乏だったが、大学にも行けて、バイトしながら金には困らない程度に生活出来ていた。

友達も少ないがいた。彼女は出来たことないが好きな女の子とデートしたことはある。運動神経はてんでダメだったが勉強ならそこそこできた。

点数を付けるなら45点くらいの人生だった。人からちやほやされて順風満帆、とは言えないが、死ぬにはもったいない人生だったと思う。普通の人生だった。だけどその"普通の人生"は、いつの間にか"退屈な人生"に変わっていた。

根は真面目な方だと思う。学校の宿題はほぼ毎回期限内に出していた。学校をサボったことも無かった。毎日毎日機械的に生きていた。1ヶ月で飽きた日記をつけていた時は、自分の生活の無機質さに驚いた。

そんな生活を辞めることにした。

真夜中に目が覚めて、ふと思い立ち、頭が冴える前に終わらせようとした。

ベランダにまっすぐ向かう自分は、今までの自分とは思えないほど行動派だった。

手すりに裸の足を乗せ、冷たさをバネに不細工な格好で落ちていった。


頭が地面に触れるまでの、永遠にも感じる2~3秒で、恐れていた感情が湧いてしまった。

それは後悔だった。

思い返してみれば、後悔の多い人生だった。

何か失敗した時に、あの時ああしていれば、と毎度のように考えていた。

そしてその度同時に、こうも考えていた。

「本当にそうしていれば、幸せだったのか?」と。

それは自分の選択を正当化する問だった。どうせ過去には戻れやしない、だからいくらでも、自分が選ばなかった方の選択肢について悪い想像が出来る。いつからか、こんな最低の妥協の方法を覚えてしまった。

今回の後悔にも俺はその方法を適用し、そして妥協するのだった。「どうせ生きてたって楽しくなかった」と。


次に目を開けた時、俺は学校の教室で給食を食べていた。担任と周りのクラスメイトを見るに、小学4年生の頃だろうか。

タイムリープものに憧れていた俺は心を躍らせたが、どうやら違うらしい。自分の意思で身体が動かせない。それはただの走馬灯だった。

映されたそのシーンに俺は覚えがあった。当時好きだった女の子にうっかり告白して、「じゃあ、付き合ってみる?」と言われた時だ。

そして、俺はあろう事かその時断ってしまったのだ。

「じゃあ」という言葉に妥協の意を覚えたのだろうか、何にしろ勿体ないことをした。覚えている限り最古の後悔かもしれない。

予定通り女の子は俺と付き合うことを提案した。そして俺は答えたのだった。「お願いします」と。

そこからは数十分に渡り、俺の知らない記憶が映し出された。その女の子と付き合うことで、少しずつ曲がっていく俺の人生が。中学2年生までその女の子と付き合い、今よりは女の子の扱いに慣れた俺を見ると、後悔の念は一層強まった。

程なくして、中学1年生の俺が映った。先程までの世界線ではなく、本来の、女の子と付き合えなかった世界線らしい。中学では文化系の部活に入っていたのだが、そこでの俺は運動部を選んだ。もし運動神経をもっと磨けていたら、という後悔からだろうか。

そこでの俺は随分苦労をしていた。スタメンに入ることは無い万年ベンチで、後輩からも舐められていた。元々向いていなかったのだろう。文化部を選んだ本来の俺の勝利、という訳だ。

そしてその映像を見終わる頃には、俺はこの走馬灯のシステムを理解していた。

俺が人生でしてきた選択において、「もしもう一方を選んでいたら」というifの世界を見せられているのだろう。3つ目の、「中学の時好きだった子にもっと早く告白していれば」が始まって確信した。

そして同時にこの話のオチも読めてきた。大方最後に先程のベランダのシーンに移り、「もし死なずに人生を続けていたら」を見せられ、後悔する俺を移して終了、だろう。

しょうもない。そもそもいくらそんな物を見ても、後悔しても、もう戻れないのに。

そう考える俺を他所に走馬灯は流れていった。

もっと勉強して偏差値の高い高校に通っていたら、大学のサークル活動にもっと力を入れていたら、就活をもっと頑張っていたら…

記憶はどんどん現在に迫り、いよいよベランダが映し出されるかと思ったが

突然映像は止まり、続きが映されることはなかった。

深い闇の中で、もしあの時死ななかったらどうなっていたのか、俺は考えた。

やがて俺は気づいた。

走馬灯は、まだ続いていたのだ。

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