不本意な任務
副隊長からの任務。それは、補給物資の護衛だった。
想像していたほど面倒ではなかったが、問題は“編成”だった。
五人一組。しかも俺が“隊長格”として割り振られている。
「……間違いでは?」
指令書を見ながら、俺は隣の補佐官に訊ねた。
「いえ、間違いなく副隊長の直筆です。『戦場で冷静な判断ができる者』とのご指名を受けております」
ありがたくない評価だ。
(どうして、余計なことを一つしただけでこうなる)
他の隊員たちは、見た目からして元気いっぱいの“やる気枠”ばかり。お互いの顔も知らない即席チームだ。
「よろしくな、隊長さん!」
「……レイでいい」
「いやいや、あんたが一番階級上だって聞いたぞ? 指揮頼むわ!」
(……最悪だ)
任務は明朝。指定された馬車に物資を積み、街道沿いの前線補給所まで護送する。 危険度は低いと言われているが、油断はできない。とはいえ俺としては、何事もなく終わってくれるのが一番いい。
出発当日。
馬車の揺れは想像以上に心地悪く、俺は天を仰ぎながら無言で振動に耐えていた。
「隊長さーん、なんか話でもしません?」
「……いらない」
陽気な男が空気も読まずに話しかけてくる。
「えっ、えー……ちょっとくらい会話しましょうよ?」
「……任務中」
言葉を切って黙らせる。無駄な会話は疲れる。
……だが、その直後、道の先から煙が上がっているのが見えた。
「煙……?」
全員が同時に警戒する。
俺は手を挙げて合図し、馬車を停めさせた。
「待機」
草むらを通って、視界の開けた場所まで偵察に出る。 そこにあったのは、燃えた馬車と、血の匂い、そして倒れた兵士の姿だった。
(……襲撃。盗賊か、それとも)
俺は振り返り、隊員たちに最小限の手信号で指示を出す。 全員がやや戸惑いながらも従った。動きは悪くない。
その後の交戦は短く済んだ。 相手は野盗まがいの武装集団で、数も少なかった。被害は軽微。
「……終わり」
俺の一言で、隊員たちが一斉に息をついた。
安心したように誰かがぽつりと呟く。
「隊長、結構落ち着いてるよな……。まぁ、そこそこ場慣れしてるって感じか」
「判断は早かったな。助かったよ」
「……たまたま」
本気を出したつもりはない。必要最低限の対応をしただけだ。 それでも、少しだけ“できる奴”と見られ始めている気がして、気が重い。
(これ以上はマズい。もう少し無能寄りに振らないと……)
俺は空を見上げながら、次の任務はどうか回ってきませんようにと、誰に届くかも分からない祈りを捧げた。