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2章『魔王』   7話 自由人

 翌日、何故かいなくなっていたレヴィを除いた4人で、客間に集合していた。

 その空気は重く、今にも人を殺しそうな眼をしている一人に視線が向けられている――それがなんと乃亜なのだ。

「俺様に話があるってことだったな。なんだ?お姫様。」

 とりあえず口火を切るサタン。本来なら『憤怒』の権能を使ってどうにでも出来るところなのだろうが、既に『契約』によって乃亜には絶対服従とあらゆる方法で危害を加えない、加える企みを行わないことを誓わせている。

「聞きたいことが幾つかあるの、ちゃんと嘘をつかずに話してちょうだい。」

 強い口調でそういう乃亜。怒っている理由は私もソフィーも把握しているのだが、正直ここまで激怒するとは思っていなかった。一瞬『契約』が効かずに『憤怒』の影響を受けたのかと疑ったくらいだ。

「俺様は飛鳥に『契約』で縛られているんでな。お姫様がそういうんなら従うしかない。それで、用件はなんだ?」

 正直私ですらちょっと引くくらいのキレ方をしているのだが、サタンは一歩も引く様子はなかった。乃亜のことを知らないからかもしれないが、勇気をたたえたいくらいだ。

「一つ目、街の裏路地で死んでる人たちをたくさん見かけたわ。飛鳥は貴方の『憤怒』の影響だって言ってた。なんで殺したのか、理由を説明して。」

 乃亜は声を荒げるタイプではないので、淡々と冷ややかな声で用件を告げる。

 起きてすぐ、街を歩き回っていた乃亜とソフィーは、昨日私が入らないようにと告げた裏路地が気になって中に入りたいと言ってきたのだ。『憤怒』の影響は受けないはずだし平気かと思ったのだが、そのすぐ後にブチギレている乃亜から事情を説明しろと電話がかかってきて、サタンを呼び出したという訳だ。

「ああ、あれを見たのか。簡単な話だ、敵を始末したに過ぎない。」

 端的に説明するサタンに、乃亜が続きを促す。流石にそれだけでは納得できないという様子だ。

「俺様はこれでも魔王なんでな、案外命を狙われたり、面倒な輩に情報収集のためにと近づかれることも多い。それに何より、『強欲』のやつと戦争の予定なんでな、敵はわんさかいる。それらを纏めて排除するために、『憤怒』で煽って殺し合いをしてもらったってわけだ。」

 成程。まさか市民を殺してるわけがないとは思っていたが、しっかり殺したい邪魔者を狙って殺していたらしい。

 まあだとしても街で魔術を撃っていたり、建物に穴が開くような事態や、死体を放置するというのは如何なものかと言わざるを得ないが。

「それ、殺さないと駄目なの?そもそも戦争をしているのだって、やめるべきだと思うのだけど。」

 乃亜の方はまだ納得がいっていないようで、まだサタンを問い詰めていた。

 私も人のことを言える立場では無いのだが、乃亜は人の生き死にに謎の価値観を持っている。誰も殺していないなら殺されるのは間違えているし、誰かを殺したなら殺されても文句は言えないというものだ。

 錬金術師の等価交換みたいな理屈だが、まあルールを守っている限りは守られるべきというわかりやすい理屈でもある。

 特に悪いことをしていない人が死ぬことにはかなり忌避感を持っている、というのは知っていたのだが、こちらの世界に来た時に一人殺したと言っていたので、ある程度は無くなったものだと思っていた。

「あ?なんだ、飛鳥のことがあったから、案外昼の世界もまともなのかと思っていたのだが...やはりぬるま湯みたいなところなのか?お姫様からまさか争うななんて言われるとは。」

 そういって乃亜を睨み返すサタン。私も別に戦争を肯定する気などさらさらないのだが、もしや同類か何かだと思われているのだろうか?

「わからんというなら教えてやろう、敵を殲滅することに理由など要らんのだ。俺様に敵対した、これで十分な理由になるのだからな。それに、争いはやめられん。争いこそが進化を産み、種族を、世界を成長させるのだ。俺様の権能を考えれば、これが最も適した政治だ。王座に就いた後ならまだしも、来たばかりのお姫様に言われた程度では聞いてやれんな。」

 サタンがそういうと、乃亜の視線がこちらに向く。鋭く突き刺さるような視線は、話と違うじゃないと言っていた。

「命令しなよ、絶対服従なんだから。」

「成程ね。サタン、二度と戦争なんてしないように、今してるものもすぐに畳みなさい。」

 そう告げる乃亜に、サタンが驚愕の表情でこちらを見てくる。

「な、何故だ!?争いは必要だ!お前もわかっているだろう?飛鳥!俺様の話を聞いて、肯定したではないか!」

 面倒な奴だった。実際話を聞いたときには理解できる理屈であったし、別に肯定したのだが、それは私と関係ないならどうでもいいというだけである。乃亜が嫌がった以上、私に肯定してやる理由はないのだ。

「悪いね、争いたいならゲームにしなって昨日も言ったとおりだよ。」

「ぐっ...『強欲』も服従させるのだろう!必ず役に立つはずだぞ!それでもか!?」

 まだ諦めきれないようで、営業に入るサタン。しかし、乃亜の方は聞く耳など持たず、ガン無視で城の外へ向かってしまっていた。

「要らないみたい。ま、必要そうなら呼ぶから、その時を待ってて?」

 一言そう告げると、未だに縋るように叫んでいるサタンに背を向け、乃亜を追いかけるのだった。




 門の外ですぐに乃亜とは合流できたのだが、未だに機嫌は直っていないどころか、私を睨みつけてきている。

 傍で控えているソフィーも、普段と様子の違う乃亜にずっと驚きっぱなしであった。それでも特に口は挟まず、お付きとしての役目を果たしているのは流石というところか。

「え~っと?私、何か悪いことした?」

 乃亜はこういう時に黙り続けるタイプでは無いのだが、とりあえず先に口を開く。黙っていただけで、そこまで怒られるようなことはしていないと思うのだが...

「飛鳥、知っていて隠していたのよね。どうして?」

 咎めるような声を出す乃亜。知っていたのは人が死んでいるというところまでなのだが、それでも気に食わないようだ。

「なんでって言われても、『憤怒』の影響を受けられたら困るもの。裏路地やサタンに興味を持たれて、近くまで行かれないように、だよ。」

 しっかりと理由を説明するが、乃亜の視線は緩まない。物語について話す中でも、乃亜と死生観で気が合わないことはわかっていた話なのだが、今回は実際に人が死んでいるだけあって重症のようだ。

「まあ、とりあえず隠してた理由は納得するわ。でも許せないことがあるの、わかってるでしょう?」

 もちろんわかっている。あれだけ殺しているのだから、サタンを許すべきでも容易に信用することも出来ないのに、なんでゲームに興じていたのか、という話だろう。

 乃亜の感覚からすればサタンは殺されてしかるべきだし、そうでなくとも重刑に処されるべきなのだ。代わりにゲームをしろなんて話で納得がいくはずもなかった。

「わかるけど...私とは価値観が合わないよ。そもそも、夜の世界だと人殺しって理由があるならそこまで重くないし、サタンの説明を聞いた限りでは許される内容だったでしょう?」

 これ自体は乃亜も理解できているはずである。そのうえで納得がいかずに怒っているのか、それとも別の理由があるのかはわからないが、正直このまま話していても乃亜の機嫌は直りそうになかった。

「それでも、人が死んでるのに、全く興味を持たないなんて...良くないって思うの。」

 そう言われても、正直死んでいる理由が『憤怒』のせいとあってはサタンが把握しているかも怪しいと思ったのだ。聞いて有益な情報が得られるとは思わなかった。

「昔から言ってるけど、人殺しがダメっていうのは社会が回らないからそういうルールなだけっていうのが私の認識なの。ルールの上で問題ないなら、私としてはどうでもいいんだよ。人道的にどうとか、私に求めても意味ないって知ってるでしょう?」

 なんならルールの上ではアウトでも、私に関係がなさそうなら興味を持たないかもしれない。それくらいには他人の命というのは私の中では軽い。

 私は必要なら喜んで道徳の教科書を焚書にするくらいには、人倫がどうとか、道徳がどうといった話には嫌気がさすタイプであった。必要なら当然守るが、適用されない場面が生まれるのはあらゆるルールにおいて当然の話であり、それはそのルールが必要な理由を考えればわかる話、というのが私の主張である。

「知っているけど、実際に人が死んでもそういうことを言うのね...」

 悲しそうにそう呟くと、私から視線を外して俯いてしまった。


 その後の乃亜は口を開くことはなかった。もはや話しても無駄だと思ったのか、納得を示してくれたのかはわからないが、話は終了ということらしい。こちらには見向きもせず、速足で前を進んでいる。

 その様子を見て、ソフィーがそっと耳打ちしてくる。

「その、珍しい...ですね?お二人が喧嘩をしているところを見たのは初めてかもしれません。」

 そんなことを言われるが、案外珍しいわけでもない。私と乃亜は結構価値観がズレている――まあ私はほとんどの人とズレているのだが。

 乃亜とこうして喧嘩になり、数日口を利かなくなる。なんてことも、一度や二度ではなく、数十回はやっているだろう。

「案外よくあることだよ。私は折れないから、乃亜が一方的に折れる立場になってるのは申し訳ないと思ってるんだけどね。」

 これは本当に思っているのだが、納得できない理屈にはどうしても従えないので仕方のないことだった。

「今回の件は、飛鳥様の方が特殊なように思えますが...失礼ですが、『不死』の呪いの影響が残っている。などということでは無いのですよね?」

 狂を発しているのを疑われているということだろうか?流石にそれは言いすぎだと思うのだが、それくらいにはソフィーも信じられないことだったらしい。

「全然。生まれた時からこんな感じだよ、私は。乃亜だって知ってるって言ってたでしょう?」

 そういうとソフィーは納得したように首を振る。

 案外紗希姉から聞いていた人物像と離れていて驚いていたのだろうが、それももう収まったようだった。

「災厄が来るとなれば、多くの人が死ぬでしょう。もちろんそうならないように努めますし、そうならない為のお二人ではありますが、それでも被害を0にするということは不可能に近いです。セレスト様が今のままでは、どれだけの心労を負うことになるか...」

 ソフィーのいうことももっともなのだが、かといって乃亜に考え方を変えろという訳にもいかないだろう。何せ、別に間違ったことを言っているわけでもないのだ。それにあの気質でなければ、他人を救おうなどというモチベも保てないだろう。

「ま、乃亜の耳に入らないようにすればいいだけの話だよ。次からはソフィーもそうしてくれるでしょう?」

 そう聞くと、ソフィーはしっかり頷いてくれる。

「主を守るのも、従者であるわたくしの務めですから。」




 何とも言い難い空気のまま王城に戻り、玉座の間へ報告に向かう。

 その玉座の間は私達とは違い、明るい雰囲気で歓迎ムードであった。前は私を見るなり睨みつけて逃げ出していたような人たちも、今では私を見れば媚びへつらって歓声を上げる始末だ。立場や実績というものはやはり大事らしい。

 今回はリゼットさんも王様の横で、満足そうに微笑んでいた。相当魔王が嫌いらしい。

 王様の前まで行くと王様が周りに静まるよう言い渡し、歓声がパッと止む。ここらの統制はしっかりと取れているのが謎なところだ。

「よくぞ戻って来てくれた。予定とはずいぶん違う事態になってしまったと聞いたが...魔王を三人も一気に服従させてくれるとは。今回のことは十分以上の成果と言える、何か望みがあれば、個別に褒賞として与えることもできるぞ。」

 そんなことまで言い出してくれる王様だが、案外望みと言われても思い浮かばなかった。

 どうやら乃亜も同じなようで、首を傾げて悩んでいた。図書館で本を読むだけで十分というので意見は一致するだろう。

「私は大丈夫です。『嫉妬』と『憤怒』に関しては飛鳥の功績ですし、『傲慢』に関しては服従させられたといっていいのか怪しいところなので...」

「そうか?まあ乃亜がそういうのであれば、保留ということにしておこう。飛鳥君は何かあるかね?」

 保留というのもあるらしい。それならそれもありという気がするが、後で何か欲しいものが出来たとして、王様に要求するとも思えなかった。

「私もなしで大丈夫です。どうせ全員服従させるって話ですし、遅いか早いかの差なので。」

 そういうと、周囲が驚いたようにこちらを見てくる。褒賞を断るなど、そうない話なのだろうか?

 案外普通に金一封でも要求すればよかったのかもしれない。未だにこの世界の通貨に触れたことがなかった。

「欲のないことだな、いいだろう。では、これより数日は休養期間として空けることを約束しよう。この間に更に仲を深めると良い。」

 この世界に来て初めて険悪になっているとは露ほども知らず、そんなことを言う王様。乃亜と揃って苦笑いを返すことになるのだった。




 玉座の間を出ると、途端に不機嫌そうな様子に戻る乃亜。王様の前では抑えていたが、機嫌が直ったわけではないようだ。

「乃亜、いつまでかかりそう?」

「寝たら直るわ、多分ね。おやすみ。」

 そう言って去っていく乃亜。これもいつも通りのやりとりなのだが、ソフィーはさっぱりといった様子だった。

「今のは...セレスト様が機嫌を直すまで、ということでしょうか?」

「そうだよ、しっかりしてるよね~。」

 当然喧嘩の内容にもよるが、乃亜だけが一方的に不機嫌にさせられているにもかかわらず、案外すぐに機嫌を直してくれる。こうして多少デリカシーに欠けた質問をしても、当たり散らしてくることすらないのだ。

「というか、ご主人様を追いかけなくていいの?もう城内で私を見守る必要もないでしょ。」

 私を見て敵対的な視線を向けてくる人はもはや0になったと言っていい。好意的な人がほとんどである。それはそれで正直面倒ではあるのだが、ソフィーが私につく理由はなくなったはずである。

「もちろんセレスト様は心配なのですが...わたくしは個人的に仕事がございまして、これから数日王城を離れることになっているのです。」

 成程?乃亜のお付きだというのに、何やら他の仕事を任されたらしい。まあソフィーは優秀なメイドであるし、それだけに重要な仕事は他に任せられないということもあるのだろう。

「じゃあそれまでは私も乃亜もお城でお休みなのかな?嬉しいね、やっぱり図書館で本を読んでるのが一番だし。」

 そういうと、ソフィーが少し顔を顰める。

「一応言っておきますが、わたくしがいないからといって、セレスト様とお二人で寝ずに図書館に籠るのはやめてくださいね。もしそのようなことがあれば、揃ってお説教だと思ってください。」

 それなりに時間が経った今でも、ソフィーは私や乃亜を健康的な生活が送れるようになどというたわけた理念を口にするのだ。それがいなくなって、好き放題に退廃的な生活を送るようになるのではと心配されているらしい。言い過ぎ――とも言い切れないラインだった。よく見て来ただけはある。

「お説教は嫌だから気を付けるよ、なるべくね。」

 そう答えるが、ソフィーは猶更顔を顰めて歩き出してしまった。なるべく、というのが気に食わなかったのだろうか?私としては最大限を意味する言葉なのだが。

 まあこの場で口うるさく言われなかっただけでも儲けである。そもそも乃亜のお付きなのだし、私の生活に口を出す前に乃亜の生活を何とかしてほしい。いや別にしなくていいが。


 などと適当なことを考えながら部屋に戻る。図書館に向かってもよかったのだが、ボードゲームを引っ張り出して部屋を荒らしたままである。片付ける必要があった。

 実は、婚約者となった際に、客間ではなくもっと大きな部屋にして、メイドも付けるという話になっていたのだが、私は狭い部屋の方が好きだし近くに人がいられるのも嫌だったので、断ってしまっている。なので、以前と同じ部屋だ。

 ちなみに乃亜の部屋には入ってみたが、びっくりするほど大きい上に豪華な装飾が施されていた。断らなかったらああなっていたかもしれないと考えると、流石にあり得ないと言いたいところだ。

 ドアを開けて中に入る――と、見知った人影が目に入る。

「お、やっと帰ってきたのにゃ。ずいぶん遅かったのにゃ。」

 それは、起きた時から姿が見えなかったレヴィだった。仕事が終わって気ままにどこかへ行ったものだと思っていたのだが、王城まで来ていたようだ。

 とはいえ、何故私の部屋にいるのかが謎だ。私に用事でもあるのだろうか?

「なんで私の部屋にいるの...?あ、もしかして夜這い?駄目だよ、断ったでしょ。」

「お前、レヴィをなんだと思ってるのにゃ...レヴィは唯一まともな魔王なのにゃ。それくらいちゃんと覚えてるし、乃亜に怒られるような真似もする気はないのにゃ。」

 呆れたようにそう言われる。冗談のつもりだったのだが、通じなかったようだ。

「本当はレヴィだって外で気ままに過ごしたかったんだけどにゃ、お前たちの近くにいないと『契約』で縛られてるわけじゃないレヴィは怪しまれるのにゃ。そうなって結局『契約』で縛られる、なんてことになったらレヴィとしても困るのにゃ。」

 『契約』を使わないという契約をしたはずなのだが、ずいぶん用心深いらしい。まあ私が契約内容を『書き換え』てしまう可能性を考えれば、考えすぎとも言えないのだが。

「でもそれ、城に来た理由であって、私の部屋にいる理由にならなくない?何か用があるんじゃないの?」

 別に無いならないで構わないのだが、部屋から出て行って欲しいところだった。

 先に部屋にいたレヴィには当然部屋を片付けるなどするはずもなく、散らかったままであった。むしろ前より荒れているかもしれない。部屋を漁るのが目的だったのだろうか?

「別に乃亜の部屋でもよかったんだけどにゃ、こっちの方が警備がザルで入りやすそうだったからこっちにしただけなのにゃ。」

 別に忍び込まなければいいだけの話だと思うのだが、正面から入るのは難しいのだろうか?

 本来なら王様と連携を取る立場な以上、そんなことは無いと思いたいのだが、リゼットさんの態度を見る限り無いとも言い切れなかった。

「ま、そういうわけなのにゃ。レヴィは城下の町で適当にしてるのにゃ、用があったら呼びに来るのにゃ。」

 用があったら呼べではなく、レヴィが呼ぶ側らしい。まあレヴィらしいと言えばらしいのだが。

「多分部屋より図書館に居る時の方が多いよ、知ってるかもだけど。」

 部屋から出ていこうとするレヴィに一応声を掛けるが、わかってるのにゃと手を振られる。

 というよりそもそも連絡先を交換すればいいだけの話に思えるのだが、それを言い出そうとしたときには既に姿が見えなくなっていた。

「あれで一番まともねぇ...」

 正直私と張り合えるレベルで自己中心的でやり取りが一方的である。あれでまともなら大概の人がまともだと思うのだが、夜の世界ではあんなものなのかもしれない。

 しかし、見てきた中で社会とズレている――つまり私に近い人間性をしている人は、魔王とリゼットさん位だった。

 もしかしたら強い人ほどそうなる傾向があるのかもしれない。だとしたら私はなんだという話なのだが、そこに目を向けると純粋に人間性が悪いという話になるので見なかったことにしていく。

 しかし、そう考えるとリゼットさんの魔王嫌いは同族嫌悪なのだろうか?レヴィはかなり私やリゼットさんに近い雰囲気を感じるのだ。

 もしそうなのであれば、私もリゼットさんとの付き合いは考えた方がいいのかもしれない。まあ考えるまでもなく私からアクションを起こすことは無いし、向こうからの誘いは断り切れないだろうが。

 などと銅でもいいことを考えながら片づけを終わらせると、奥底から紙が一枚出てきた。

 そこには、「次は勝つから首洗って待ってろにゃ。」と書かれていた。

 まず間違いなくレヴィのものだろう。内容に関しては昨日ボコボコにしたボードゲーム以外に思い当たる節は無い。というかまず間違いなくそれだ。

 昨日のゲームは私の全勝に終わったのだが、ソフィーもレヴィもずいぶんと上達が早かった。頭がいいのだろう。

 途中から、レヴィは『嫉妬』の権能を使おうとするほどの負けず嫌いであり、乃亜がなだめていたのを思い出す。遊びのつもりだったのだが、相当本気になっていた。

 サタンもそうだが、案外娯楽がないのは需要の問題ではなく純粋に作ってる人がいないだけなのかもしれない。もしくは戦争好きの魔王がのめり込むくらい素晴らしい争いかのどちらかだ。

 まあ要するに、全敗が悔しかったので遊びに来るということだ。先ほどは似た者同士といったが、別に束縛を嫌うだけで一人を好むわけでは無いのかもしれない。

 明日には乃亜の機嫌も直っているだろうし、ベルゼブブを誘ってみようかなどと考えつつベッドに潜り込む。

 案外、こちらの世界でもゲーム機を作れば飛ぶように売れるかもしれない。昼の世界でやってたことと変わらない日常を過ごすことになるが、それもそれでいいだろう。

 布教や制作方法に思いを馳せつつ、眠りに落ちていくのだった。

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