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2章『魔王』   4話 『傲慢』の根拠

「それで、レヴィは何をすればいいにゃ?ルシファーもサタンもメタメタにして、魔王は全員『契約』で服従させるはずにゃ。その手助けって言っても、ルシファーはまだしもサタンやレヴィはそこのお姫様の足元にも及ばないにゃ。」

「え、そうなの?」

 作戦や命令がほとんどばれている理由もいつか聞き出したいところだったが、後半がそれよりも圧倒的に気になる話だった。

 『嫉妬』の魔王、レヴィアタンが持つ権能は三つ。水を操る『海神(わだつみ)』、物の価値や真贋を見抜く『審眼(しんがん)』、そして大罪の名を冠する『嫉妬』の権能だ。

 『嫉妬』の権能は、自分が妬んだ対象を自分以下にするというものだ。これがあるから誰にも負けることがなく、ルシファーとも対等に喧嘩が出来ているのだと思っていたのだが、そうではないようだ。

 乃亜の方を見ても否定はされないし、ソフィーに至っては頷いていた。どうやら本当のことらしい。

「ルシファーとまともに当たったら全員吹き飛ばされると思ってたんだけど...乃亜なら普通に勝てたりするの?」

「え、ルシファーのことは見たことないからわからないけど...まあ、勝てるかも?」

  一応直接聞いてみるも、自信がないというわけではなさそうだった。むしろ確証がないだけで勝てると思っている時の返事だ。声には自信がにじみ出ている。

 反応も出来ずに殺されたせいでルシファーを過大評価していたのか、乃亜が私の思っているより相当強いのかわからないが、乃亜一人でなんとかなるようだ。

 その場合はまだ実力のほどがわからないサタンにレヴィをぶつけたいところだが、サタンに関しては交渉次第で戦闘をしなくても『契約』を結べるはずなのだ。そうなってくると、今回はレヴィの仕事は無いのかもしれない。

「失礼ながら口を挟ませていただきますが、セレスト様とルシファー様が争いとなった場合、半径50キロ程度は更地になると思われます。作戦に組み込むのでしたら、そこを考慮に入れていただけると。」

「マジ!?」

 半径50キロとなると相当な広大さだ。今ルシファーがこっちに向かってきていることを考えると、すぐに乃亜を向かわせてもこの街は吹き飛ぶ距離にいるだろう。

 流石に想定よりも被害が大きすぎるが、乃亜の方を見ると心配そうにこちらを見てくるだけで、否定の言葉は出てこない。となると、事実だと判断するべきだろう。

「乃亜ってそんなに規格外なんだねぇ...」

「あのリゼットの娘にゃ。それくらい当然にゃ。」

 レヴィの言葉に乃亜はますます顔を暗くしていた。恥ずかしがっているというよりは、私に怖がられるのを恐れているという感じだ。この世界に来た時も同じような感じだった。

 別にどれだけ乃亜が化け物じみたスペックだろうと、それを私に向けてくることがない以上は怖がる理由も無いのだが、乃亜はそう考えていないようだ。

「まあ乃亜のメンタルケアは後でいいや、レヴィの権能使えば被害は抑えられたりしないの?」

「ねえ今変なこと言わなかった?」

「むしろ広がると思うにゃ。レヴィの権能はルシファーだけを狙うなんてマネは出来ないから泥仕合になるにゃ。不意打ちで速攻狙うのがマシだと思うにゃ。」

 途中で頬を膨らませてこちらを睨み始めた乃亜を無視して作戦会議を続ける。

 ソフィーから『嫉妬』の争いでは被害が少ないという風に話を聞いていたので、権能で抑えられないかと思ったのだが、どうやらそうもいかないらしい。

 レヴィの権能は対象を指定するのにも向いていないようだ。それが出来ればルシファーの力を抑えて一方的にボコれるかと思ったのだが、それも難しそうだ。

 不意打ち自体はルシファーには有効そうに思えるが、一撃で決めれるほど乃亜とルシファーの強さに差があるのかはわからない。

「そもそも周りの被害なんて気にする必要があるのにゃ?ここでやればサタンの街が吹き飛ぶだけで済むにゃ。ここの住民はみんなサタンの信者にゃんだし、消えてもらった方が後々助かるにゃ。」

 だいぶ物騒な提案が出てくるが、街が吹き飛ぶならついでに私も吹き飛んでしまう。却下だ。

「やっぱレヴィにルシファーとの戦いは任せたいんだけど...普段小競り合いしてる時被害がほとんどないって聞いてたのは権能のせいじゃないの?」

 最初に話を聞いたときは『嫉妬』の権能によって被害が出なくなるまでスペックダウンするのだと思っていたのだが、どうやらそういう話でも無さそうである。

 もし本格的な争いを避けていただけなどであれば、乃亜に任せるのと大差ないということになってしまう。

「それは簡単にゃ、レヴィが仕掛けたんじゃないにゃら幻だからにゃ。」

「幻?」

 返ってきたのはよくわからない話だった。詳しく話す気はないようで、それ以上は教えてくれなかったが、結局今回は被害を抑えてどうにかする方法はなさそうである。

「そもそも戦う必要ってあるの?レヴィとそうしたみたいに、お話しして仲良くしましょうって出来ない?」

 一人で膨れていた乃亜が唐突にそんなことを言いだす。普段なら口を挟んできたりはしないものなのだが、今回は自分も任された仕事なのだしやる気に溢れているようだ。

 実際ルシファーと話した時のことを考えると、サタンの邪魔さえ入らないなら騙して『契約』を結ぶのはそう難しい話では無さそうだった。

 ただ、そのサタンは争いを欲していたし、ルシファーが向かってきているのも知っていそうだったのだ。邪魔が入らないとは考えにくい。

 そして、そのサタンを止められるのが現状私以外は難しそうなのだ。レヴィがどうかはわからないが、乃亜とソフィーでは『憤怒』に当てられて何をしでかすかわかったものではない。

 むしろ乃亜のとんでもさが発覚した以上、一人で辺り一帯を更地にしかねないと考えるべきだろう。

「まあじゃあ悩む理由もないか、振り分けは固定だな。」

 少し考えてそう呟くと、乃亜には不思議そうな顔をされてしまう。私の悪い癖だ、まだ質問の答えを返していなかった。

「戦わないで済むならそれに越したことは無いよ、乃亜の言う通り。だから――任せた。最悪時間稼ぎだけでもいいよ。」

 そういうと、乃亜は一瞬驚いた顔をした後、笑みを浮かべてガッツポーズを見せてくる。




 結局サタンとルシファーには個別に当たるしかない上、サタンに当たれるのは私しかいないのだ。その前提がある以上、残りの全員でルシファーの足止めをしてもらうのが正解である。

 レヴィは「サタンの街にゃ、どうせ争いになるにゃ。」と言っていたが、なったらなったで乃亜は被害が出ないように立ち回ってくれるだろう。

 セーブを更新し、乃亜達と別れて再度サタンの城へ向かっている。今回こそは他人を唆すなんて真似も出来ないように、ギチギチに『契約』で縛ってしまいたいところだ。

 城門を押し開けると、相変わらず頬杖をついて玉座に腰掛けているサタンと目が合う。案外顔がいいのが腹の立つところだ。

 ルシファーやレヴィもそうだったのだが、乃亜のようにほとんど人間に近い姿をしており、それに角や尻尾が生えているのだ。顔が良くなければ笑えるほど似合わないだろうそれも、顔が良ければ完璧に見えるのだ。所作や言動のマイナスも反転である。

「俺様の城に来客とは珍しいな、貴様は何者だ?」

 覚えのある質問。同じ返答でもよかったのだが、前回のことを考えるとこちらのことは知っていそうである。さっさと用件をぶっちゃけてしまっていいだろう。

「紫水飛鳥、君をめちゃくちゃに縛ってご主人様になりにきました。よろしくね?」




「飛鳥...大丈夫かなぁ。」

 飛鳥からルシファーの相手を託され、こちらに向かってきているというルシファーを上空から目を凝らして探しているのだが、どうしても城に入っていった飛鳥を心配してしまう。

 私やソフィーでは邪魔をしてしまうらしく、一人で行くと言って聞かなかったのだ。それどころか、城の前まで行くことすらダメだと言われてしまった。

 ソフィーもレヴィも飛鳥が正しいと言っていたし、飛鳥がそこで嘘を吐くとも思っていなかったのだが、そんな相手に一人で平気なのかはやはり心配である。

「集中するにゃ、見落としてサタンと一緒になる方が厄介にゃ。」

 つい城の方を見ていたのをレヴィに注意されてしまう。レヴィは私と違って飛べないようで、建物の上を軽快に飛び回って探していた。ソフィーは街でサタンやルシファーを見かけなかったか聞き込みをしている。

 当初のレヴィの印象としては、猫だし飛鳥との問答を見る限り気分屋で面倒くさがりといった風だったのだが、案外律儀な面もあるようで、文句ひとつ言わずに飛鳥のお願いした役割を果たそうとしていた。

 今も集中を欠いた私を心配して注意に来てくれたようである。

「ごめんね。えっと...レヴィって呼んでいいの?」

「むしろ他に何て呼ぶのにゃ。お姫様の癖に、魔王様とか呼ぶつもりなのにゃ?」

 絶妙に距離感を測りかねており、渾名のようなもので呼び捨てにするのは気後れしていたのだが、レヴィの方はそんなことなさそうである。

 実のところ、私は人付き合いが苦手なのだ。距離感を測るのが難しいし、何か不快に思われていないか、真意を汲み取れてないのではと不安になってしまう。

 控えめに言ってもコミュ力弱者である。飛鳥には何度も揶揄われたものだ。

 小さい頃から友達が少なく、それで人付き合いに慣れなかったせいだと思っていたのだが、私以外に人と話すこと等ほとんど見かけない飛鳥が実はコミュ力が高いのだ。疑問に思って聞いてみたことがあるのだが、むしろ何故そんなことを気にするのかと聞き返されてしまったし、友達が少ないなどというのはただの言い訳でありコミュ力が低い結果なのだと正論で殴られたこともある。

 そのあとで私が友達になってよかったね?とか言い出すのが飛鳥のずるいところなのだ。煽りではなく本心からそう言っているのが猶更性質が悪い。

 あれで人付き合いが良かったらそこら中の女の子をメンヘラに堕としていただろう。そうならなくてよかったと思うと同時に、私はそうはなるまいと心に誓っていた。

「ま~た考え事にゃ?そろそろ時間にゃ、いい加減にしないと引っ掻くにゃ。」

 いつの間にか近くに来ていたレヴィに再度注意される。

 空を飛んできたわけではなく、近くの建物に氷柱を生成して登ってきたようだ。ずいぶん手間を取らせてしまったらしい。

「さっきっから...そんなに番の男が心配なのにゃ?どうせ大丈夫にゃ。死んでも死ななそうなやつだったのにゃ。」

 本人が聞いたら爆笑しそうな評価である。飛鳥は案外身体が弱く、ちょくちょく死にかけているのだ。まあ実際発狂するような体験からなんの問題も無く帰ってきたことを考えると間違った評価でもないのだろうが。病気で死にかけるときも、毎度時間が経つと何事もなかったかのような顔をしていることが多かった。

「ごめんなさい、ちゃんと集中するわ。私はお城の方を見てるから、レヴィは逆側をお願い。」

「任された、というか見つけたにゃ。」

「うん、おねが――え、見つけた!?」

 何でもない風に言われて流してしまいそうになったが、もう見つけていたらしい。その報告のために空まで来てくれたのかもしれない。

「あっちの方にゃ。結構遠いにゃ。」

 そういって指刺してくれた方――城の真反対の方向を見るも、身体強化の呪術を使ってすらそれっぽい人影は見当たらない。

「どこだろ...遠いってどれくらいの距離?」

「大体10キロ先くらいにゃ。相変わらず舗装されてない道を歩いてて馬鹿丸出しにゃ。」

 敵意を隠さずにそういうレヴィだが、10キロ先など流石に視認できる距離ではなかった。

「どうするにゃ?レヴィとしてはボコボコにしたいところにゃんだけど、一応乃亜に従ってやるにゃ。」

 やはりなんだかんだ律儀なようで、一人で飛び出していくようなことはしない。

 飛鳥も戦わなくていいと言っていたし、とりあえずは話を聞いてみるところから始めたいところだ。

「案内してもらえる?出来るだけ穏便に済ませられるよう頑張るわ。」

 そういうと、レヴィは頷いて悪戯っぽい表情を浮かべる。

「失敗するよう祈ってるにゃ。そしたら二人でタコ殴りにゃ。」




 街から外れて、荒れた岩場のようなところを、ルシファーは泰然として闊歩していた。

 転移の魔道具があると言っても、住民が全員扱えるわけでもないだろうに、こんな荒れた状態で道を放置しているというのは正直信じられなかったが、そこを歩くルシファーは道の悪さなどまるで気にした風ではなかった。

 軽く深呼吸をしてルシファーの前に飛び出す。既にレヴィは近くでスタンバイ済み、ソフィーは一応街の人たちに避難を呼びかけているはずだ。最悪争いになっても何とかするつもりである。

「こんにちは、ルシファーさん。少しお話しいいかしら?」

 そう声を掛けると、立ち止まってこちらをじっくりと見つめてくる。

「お前は...誰だ?その髪と目、見るからに吸血鬼のようだが、まさか王家の関係者か?」

 逆に質問を返されてしまった。王家の関係者であるのは事実なのだが、正直未だにその自覚は無い。

 セレストという名もあまり馴染んでいないのだ。そう呼んでくるのはソフィーくらいである。この前の婚約の話を公表する際に、お父さんはわざわざ緋縞乃亜の名も表記したくらいに乃亜の名を大事にしてもらっている。

 正直それほど思い入れがあるわけでは無いのだが、飛鳥はずっと乃亜と呼ぶだろうし、一々説明の手間が省けるのは助かることだった。

「関係者ではあるかな、セレスト・ノワールよ。」

 そういうと、ルシファーは首を傾げてしまう。曖昧な返事だったのがよくなかったのだろうか。

「知らん名だが、関係者ということは我の宣戦布告に返事をしに来たということだな?いいだろう!聞いてやろうではないか!」

 私の名前を知らなかったらしい。一応王家の娘であるはずだし、最近名前を世間に勝手に轟かせられた身としては驚きであったが、そういえばルシファーの城には領地には住民が居ないという話だった。連絡も見ず、本当に知る機会がなかったのかもしれない。

「宣戦布告については一回取り消して欲しいの。私達、仲良くできないかしら?」

 単刀直入に用件を告げる。

 飛鳥は時間稼ぎでいいと言っていたが、ジルベールの屋敷での件と言い、飛鳥には迷惑をかけっぱなしであるし、レヴィも結局飛鳥が一人で仲間にしてしまったのだ。出来れば私一人で目的を達成したいところであった。

「面白いことを言う。仲良く、というのは同じレベルの者同士ですることだろう?我は最強なのだ、どうしても手下にして欲しいですというんでも無ければ聞けんな。」

 すげなく断られてしまうが、この程度は想定済みである。

「上下関係とは別のものだと思うわよ?仲良くしたくないならそれでもいいけど、争うのは無しにしたいの。」

 メインの要求はこっちである。実際相対してみると、流石に魔王といった風に実力の高さがひしひしと伝わってくる。

 ここで争いになってしまえば、ソフィーの言う通り、周囲への被害は大きなものになってしまうだろう。

「ふむ。まあ我としても、わざわざ王家を殺したいわけではないのだ。王座を譲るというなら良いぞ!」

 無邪気にそういうルシファーだが、そんなことを決める権利は私にはない。というか、王家を殺したら猶更王様にはなれなそうなものなのだが、その辺は考えているのだろうか?

「殺したいわけじゃないっていうなら、やっぱり仲良くできると思うんだけど?」

「しつこいぞ!仲良くする気はない!我は『傲慢』、最強の魔王なのだ!この世の全ては我の下にあるべきなのだ!」

 飛鳥が聞いたらねちねちと皮肉を入れそうな最悪の理屈であった。そもそも最強と呼ばれている魔王は『強欲』であったはずである。

「どうしても...駄目?」

「駄目なものは駄目だ。まずはお前から殺してやってもいいのだぞ...」

 一触即発の空気が流れると同時に、ルシファーの背後からレヴィが飛び出してきて鋭い爪を振りかざす。

「死ぬのはお前にゃ馬鹿が!」

 レヴィの爪はルシファーの身体を切り裂き、背中から血が流れだす。かなり深い傷をつけていた。

「ちょっとレヴィ!」

「レヴィがやらなきゃルシファーがやってたにゃ。失敗した乃亜が悪いにゃ。」

 合図を出していないのに攻撃を行ったレヴィに苦言を呈するが、まるで悪びれる様子はない。そのまま追撃を行おうとしていたが、ルシファーが腕を振って追い払う。

「ふはははは!なんだ、争うつもりはないなどと言っておいて、しっかりと準備しているではないか!そうであるなら話は早い!我が最強であるということを見せつけてやろう!」

 そういってルシファーが消えたかと思うと、レヴィの身体が吹き飛ばされる。

 心配して声を掛けようとしたのもつかの間、私も同じように吹き飛ばされてしまう。幾重にも防御用の魔術を張り巡らせていたのだが、それらも全て叩き割られてしまったようだ。

「なんだ、レヴィアタンはともかく、そっちの女も一撃で死なぬとは、なかなかやるな。」

 吹き飛ばした後追撃してくるでもなく、悠然と仁王立ちをしてそんなことを言ってくるルシファー。背中の傷などすぐに治ってしまっており、大人しくさせるのは骨が折れそうだった。

「大丈夫?レヴィ。」

「そっちこそ、もろに喰らってたように見えたにゃ。あんまり油断してるとぶっ殺されるにゃよ、考え事はなしにするにゃ。」

 逆に心配を返してくるレヴィだが、身体に傷は無い。どうやらしっかりと防御策を取っていたらしい。

 そのまま駆けだすと、魔術によってルシファーに高水圧のレーザーを射出する。

 しかし、ルシファーは回避することもなく、手を向けてそれを受け止める。

「まさかお前が裏切っているとはな、レヴィアタン!いつも我を狙ってきて...そんなに我を殺したかったのか?」

「いっつもちょっかいかけてきてんのはお前だにゃ!今日はお前が死ぬか土下座するまでぶん殴ってやるから覚悟するにゃ!」

 そもそも魔王同士で手は結んでいないという話だったし、裏切りでもないと思うのだが、ルシファーとレヴィはお互いに相当敵視し合っているようだった。

 レヴィはルシファーの一撃を受けないように素早く立ち回り、爪での一撃や魔術による攻撃を行っているが、初撃と違って血を流させることすら出来ていない。

 蚊帳の外にされてしまっているのを幸いと考え、大規模な魔術を組み上げる。

「死なないでよ!『万雷紫電』!」

 詠唱を口にすると同時に、ルシファーの身体を魔法陣が取り囲み、紫の光で埋め尽くされる。レヴィを巻き込まないようにタイミングを見計らう必要はあったが、身体が濡れているのもあって効果は抜群だろう。

「とんでもない術を使うものにゃ...流石に死んだかにゃ?」

 未だに紫電が暴れ狂うのを眺めながら、レヴィが近づいてくる。とんでもない強さをしているので、加減はなしにしたのだが、それでも殺したいつもりではないのだ。気絶しているのがベストであった。

「死んでなかったら、さっきみたいに回復しちゃうかな?」

 問題になるのは先ほど見せたルシファーの権能である。

 ルシファーの権能は圧倒的な身体能力を得る『傲慢』の他に、あらゆる傷を癒し、変化を否定する『完全なる身体』というものがあるのだ。

 これによって、ルシファーは魔術や呪術など使えないのだが、それらを特に対策することなく、権能によって自然に対策出来てしまっている。

 暴れ狂う紫電が消えて、ルシファーの姿が現れる。最初は黒焦げになっていたその身体も、すぐに傷が癒え、元の姿を取り戻した。

「くく、ふははははは!なんだお前!やるではないか!まさかレヴィアタンよりも強力な一撃をお見舞いしてくるとは!死んだかと思ったぞ!」

 楽しそうにそういうルシファーに、先ほどのダメージの影響は見られない。雷撃による麻痺があるかと見込んでいたのだが、それもどうやらなさそうである。

「権能もやっかいにゃんだけど、やっぱりあの馬鹿みたいな精神もやっかいにゃ。殺すしかにゃいと思うにゃ。」

 そう言われるが、先ほどの一撃も加減は無しで放ったものなのだ。殺すとなれば、相当しっかり魔術を組み上げるか、呪術によって直接死を与えるような呪いを使うしかないだろう。

 しかし、私の目的は殺すことでは無いのである。どうにか時間を稼ぐか、私達にはかなわないとわからせて、従属を誓わせたいところである。

「素晴らしい力だ、我も本気を出さねば失礼に当たるというものだな。」

 ルシファーがそういうと、姿が掻き消えルシファーのいた地面が窪む。

 先程の吹き飛ばされた記憶があるので、即座に強力な防御魔術を張るが、辺りの荒れた地面を真っ平にするほどの衝撃で吹き飛ばされる。

「ぐっ...本気じゃなかったの?さっきまで。」

 唐突に跳ね上がった力につい文句をつけてしまう。やはりソフィーの言っていた通り、普通にやりあうのでは周囲の地形を更地にすることになってしまいそうだ。

 吹き飛ばされた私には見向きもせず、ルシファーの首目掛けて爪を振り下ろすレヴィだが、やはり攻撃は通らない。

 レヴィの戦闘は『嫉妬』の権能ありきであり、私がいて使えないせいなのだろう。攻撃は回避できているが、衝撃で吹き飛ばされてしまい、1対1では不利なようだった。

 軽めの魔術を幾つも行使して援護をしつつ、大きな魔術を練り上げるが、これでも大人しくはさせられないだろう。頭を悩ませていると、ルシファーがさらにギアを上げ、遠くから衝撃波だけで防御魔術を打ち破ってくる。

「ふははははは!やはり我こそが最強なのだ!お前たちがいくら強くとも、最強である我に勝てるはずもない!」

 楽しそうにそういうルシファーは、戦闘が長引くほどどんどん力が上がっているようだった。先ほど練り上げた魔術を行使し、極光がルシファーの身体を焼き尽くすが、それもすぐに回復されてしまうだろう。

「どうするにゃ?乃亜。このまま時間稼ぎしてもいいけど、今のルシファー相手に飛鳥が近づいてどうにかできるとも思わないにゃ。」

 再度レヴィが近づいてきて、方針を聞いてくる。私もやはり飛鳥に頼りきりになりたくはない。出来れば飛鳥が来る前に終わらせておきたかった。

「作戦があるの、手を貸してくれる?」

 焼き尽くされているルシファーを横目に、レヴィに作戦を耳打ちする。

 レヴィは楽しそうに頷くと、すぐにルシファーの元へ向かってくれた。次からは動きを止めさせるのではなく、心を折るための戦いになるのだ。

「よーし、頑張るか!」

 第二ラウンド開始である。

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