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1章『予言』   閑話 デートしよっか

 私と乃亜の婚約が発表されてから一週間がたった。何か事件が起きることはなく、私も乃亜も変わらず図書館に引き籠っていた。

 相変わらず食事や睡眠を疎かにして本を読んでいるので、ある程度身に付けたかった知識は身についたというところだ。それでもまだまだ読んでいない本の方が多いのだから、素晴らしい図書館である。

 ソフィーはやっと生活習慣を正すなどという不可能な目標を諦めてくれたようで、乃亜の命令に唯々諾々と従うようになっている。私と乃亜の関係を揶揄うようなこともなくなっていた。

 その乃亜はというと、普段はいつも通り本に夢中になっているものの、ふとした拍子に指輪を眺めてうっとりしているのを見かける。

 指輪を渡した身としては喜んでくれて嬉しい限りだが、買ったのも渡したのも思い付きなので微妙にくすぐったい気分だ。何なら買っていない。

 これだけ喜んでくれるのならもう少し恋人らしいことをして見せてもいいなと思うのだが、下手に外に出ようものなら大変な目にあうことだろう。それは一度ジルベールの屋敷に挨拶に行った際に証明済みであった。

 乃亜の方を見ながら悩んでいると、本を読み終えて顔を上げた乃亜と視線が合ってしまう。

「どうしたの?飛鳥。あ、休憩の時間...ってわけでもなさそうね。」

 時計を見てそういう乃亜だが、現在の時刻は22時。図書館に来たのは13時である。しっかり生活習慣が終わっていて、ソフィーは半目になっている。

「ちょっと考え事。案外やることないし10年先まで暇かもなって。」

 なんの事件も起きてないとさっき言ったばかりだが、正確には起きている。ただし、それが魔王同士の諍いというなんとも拍子抜けする話なのだ。

 しかもこれが、今に始まった話ではないらしく、魔王が反旗を翻したにもかかわらず王城が平和であるのは、魔王同士で争っているからという話だ。

 今争いが激しいのは『嫉妬』と『憤怒』という話だが、世界を滅ぼすような規模という訳でもなく、むしろ敵が消耗しそうでラッキーという話だった。

 災禍衆は活動しているという話がまるで出てこないし、『王権』や英雄については打つ手なしである。救世を望まれ、承諾したはいいものの、やることが無かった。

「お母さんは一から魔王を屈服させて来いとか言ってたけどね...みんなに大慌てで止められてたけど。」

 リゼットさんは基本的に口を出してこないのだが、魔王に関する話は別らしく、いつも暴力的な発言が飛び出してきている。もし魔王達が城までせめて来ようものなら、これ幸いと全滅させかねない勢いだ。

「実際魔王が攻めてきたとして、リゼットさん一人でどうにかできるものなの?」

 疑問に思っていたことをソフィーに聞いてみる。

 リゼットさんは出来ないことを出来るとは言わなそうだが、もし一人で全滅させられるのだとしたら反旗を翻した魔王達が馬鹿の集まりである。

「そうですね...一人ずつ相手にするのでしたら余裕かと思いますが、全員が敵に回るとなるとマナ切れになってしまうかと。」

 ソフィー評だと戦闘能力自体はリゼットさんの圧勝のようだ。リゼットさんも魔王級の権能を持っているのだろうか。

「ベルゼブブも底知れない感じはあるけど、お母さんはなんかオーラが全然違うものね。魔王より強い人って結構いるの?」

 乃亜がそんなことを聞くが、魔王より強い人がそういるものなのだろうか?リゼットさん一人で全滅させられかねないのに、もう一人いるだけでも魔王側に勝ち目などないだろうに。

「流石に魔王ですので、そうはいません。リゼット様と姉様...後はセレスト様と飛鳥様もでしょうか。」

「え、私と飛鳥!?」

 名前をあげられて乃亜がびっくりしているが、冷静に考えたらそれくらいは出来ないと災厄を回避できないだろう。

 むしろ紗希姉の名前が挙がったほうが驚きであった。

「王様はそういうの得意じゃないの?」

「そうですね、陛下は戦闘はあまり得意ではありません。というより、戦闘が得意なものなどそうはいないのです。」

「へえ?そうなんだ。」

 そういえば、結局軍隊や兵士のようなひとは見ていない。ジルベールの屋敷にいた見張り達も、乃亜やソフィーにはまるで敵わないから魔道具でどうにかしていたという話だった。

「まず術法を使えるかどうかが権能によりますし、その権能も戦闘向きのものとそうでないものがあります。それに等級が低ければ相手の権能を受けてすぐに戦闘不能になってしまいますので。」

 体系的な技術を修めたものを数多く用意するという方針は執られていない。というより執れないようだ。

 そう考えると本当に便利な権能を手に入れたものである。『書き換え』も『契約』も戦闘に限らずあらゆる場面で使えそうな力だった。

 というかそうなると、魔王達は本当に王城からは何の手も回されていないにもかかわらず、こちらに攻め込まずに喧嘩しだしたということだ。ベルゼブブと違ってだいぶ残念な人たちなのかもしれない。まあベルゼブブにも残念なところはありそうだが。

「何かやりたいことでもございますか?」

 どうしたものかと頭を悩ませていると、ソフィーがそう質問してくる。

 しかし相談相手としてあまりに適切ではない。最近はからかいが鳴りを潜めているが、それは餌を与えていいということでは無いのだ。

「あるけど~難しいところね。色々試してみてからかな。」

 乃亜もソフィーも不思議そうに首を傾げているが、ここで説明するわけにもいかない。とりあえずその日は本を読むのに明け暮れることにしたのだった。




 二日後、自室に乃亜を呼び出す。私からいってもよかったのだが、未だに乃亜の部屋が何処にあるのかを知らなかった。今度時間があったら聞くべきかもしれない。

「どうしたの?急に一人で来いなんて。昨日いなかったけど、何かしてたの?」

 昨日は図書館に籠るのではなく、移動手段と場所の確認をしていたのだ。一応事前に居なくなると連絡したはずなのだが、心配をかけていたようである。

「ソフィーがいたら困ることだから。つけられてないよね?」

 そう聞くと不思議そうな顔のまま乃亜は頷く。

 ロクに説明をしていないのにこれだけ簡単にいうことを聞いてくれるのは、少し心配になる気持ちが出てくる。私以外にもこうなのだとしたら、壺とか簡単に買わされてしまいそうだ。

「良かった。じゃあ――デートしよっか?」

 手を合わせてそういうと、乃亜がぽかんとした表情のまま固まってしまった。

 そんなつもりは無いのだが、ちょっとサプライズが多すぎるかもしれない。

「デ、デートって、ちょっと待って!?その、急にどうしたの!?」

 動きを取り戻した乃亜が慌てた様子で質問してくる。

「せっかく時間ありそうだし、乃亜がしたそうだったから。場所がネックだったけど、二人で遊べるいい場所を思いついたからね。」

 私がそういって笑みを浮かべると、乃亜は猶更てんぱってしまう。

「ふ、二人で遊べるって...飛鳥の部屋で、ゲーム機もないのに...?え、まさかそういうことするの!?」

 何を思い浮かべたのか耳まで真っ赤にしている。

 案外むっつりなのだろうか?乃亜が望むならやぶさかでは無いのだが、吸血鬼が人間と同じ構造なのかは謎だ。

 子供が作れることは乃亜が証明しているが、確か寿命が500年以上あるはずである。そうポンポン子供を産む種族ではないだろう。創作のエルフのように性欲など薄そうなものだ。

「別にしたいならしてもいいけど...また今度ね?今回はデートなのだし。」

 一人で妄想を膨らませている乃亜を横目に、移動の準備をする。

≪変革を。我が意に従い理を曲げよ。時空を飛び越え昼の世界へ!≫

 詠唱を行うと、空間が割れて光が漏れ出てくる。『書き換え』でゲートを作ったのだ。出来ると思っていたが、試してみると簡単だった。

 先ほどまで顔を赤くしていた乃亜も状況を飲み込め――てはいなさそうだった。口をぽかんと開けたまま立ち尽くしている。

「ほら、行こう?」

 乃亜の手を引いて裂け目に身を躍らせる。本来10年かかるはずの、世界を超えた帰還であった。




「飛鳥って、たまにとんでもないことをするよね...」

 日差しに焼かれて我を取り戻した乃亜が恨みがましい目でそんなことを言ってくる。

「ごめんって...いつも平気そうだったから大丈夫なのかと思って...」

 普段昼の世界で過ごしていた時は日差しに焼かれるようなことはなかったはずなのだが、それは人化の呪術によって種族を変えていたかららしい。普通に日光は弱点ということだった。

「そっちもだけど、まさかゲートを開けるなんて...あ、二人で逃げるってまさかそういうことだったの!?」

「そうだよ?」

 今気が付いたらしい。その時はまだ試していなかったが、正直『書き換え』で出来ないことなどなさそうだった。

「あ、今回は逃げに来たわけじゃないよ?私たちがデートに出ても平気なところが夜の世界にはなさそうだったから。」

 一応説明するが、わかっているという風に頷かれる。

 焼かれた時は痛そうにしていたが、すぐに呪術を行使して傷も治していた。今では笑みを浮かべて外を見まわしている。

「まあびっくりはしたけど...これなら確かに、デートを楽しめそう。ありがとね、飛鳥。」

 可憐な笑顔を咲かせる乃亜。これだけでも誘った価値があるというものである。

「ま、こっちの世界でも知り合いに見られるのはまずいし、ちょっと遠出しましょうか。」

 ゲートが開いた先は、災禍衆に襲撃されたところだ。

 どうやらゲートが開く場所は一定になっている――というより魔道具で誘導しているようだ。周囲には昼の世界で見た記憶の無い魔晶が施された装置がある。

「あんなの、この前来た時は見覚えないんだけどな...」

「暗くて見落としたんじゃない?そもそも、権能も持ってないのに中に入ってたことの方が異常なのよ。」

 この装置はゲートを誘導するだけでなく、不意に迷い込む人を防止する効果もあるらしい。本来なら私はそれに弾かれて入れなかったはずだというのだ。

「まあその辺はどうでもいいか、今回はデートなのだし。」

 そういうと乃亜が嬉しそうに顔をほころばせる。やはりデートはしてみたかったのだろう。もっと色々欲望を口にしてくれてもいいのにと思うが、恥ずかしいのかもしれない。

 今度こそ、乃亜と手をつないで歩きだす。

 少し気恥しそうに指を絡めてくる乃亜に、私も顔をほころばせる。

 久しぶりの、誰にも邪魔されることのない二人きりの時間を、心ゆくまで楽しんだのだった。

今回は短めに、デートを細かく書こうと思ったらゲーセンで暴言吐いてる図しか思い浮かばなかったので...

次回からは二章です。

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