第7話 苦労性勇者×ツンデレ聖女「だって不安なんですもの」
泉の精に問われて、勇者はたまたま元の聖女を選んだ。
【選択の泉】で多数いる候補者の中から元の聖女が選ばれた時、聖女は今までになく満たされてしまったのだ。
※
「この人……じゃなくて」
勇者は今日も【選択の泉】の上にずらりと並んだそっくりな聖女たちから、元の聖女を選んでいた。
一時期は増減していた候補者の数も、最近は五人で安定している。
五人はクローンのようにそっくりなので、正直なところ、勇者に見分けることはできない。
「この人……でもなくて」
聖女たちは無言で泉の上に並んでいる。
選ばれるまで、泉の精に許可された質問に答えることはできるが、自由に話せないのだ。
そこで勇者が選ぶ基準にしているのは、聖女の表情だった。
最初は、聖女が【選択の泉】に落ちたのは勇者に不満があるからだと思った。
初回でうっかり元の聖女を選んでしまった時は、しまったなぁとさえ思った。
もし次があれば、とにかく別の聖女を選ぼうと決めた。
が、二回目の【選択の泉】で適当に聖女を選ぼうとしたところ、悲しそうな顔をする聖女がいて、ついその聖女を選んだら、元の聖女だったのだ。
「あ、あら。勇者がわたくしを選ぶのであれば、仕方ないわね。これからも力になってあげても良くってよ」
そう言いながらも、選ばれた元の聖女は嬉しそうだったので、それから聖女が何回【選択の泉】に落ちようとも、勇者は元の聖女を探し出すようになった。
「この人が僕の聖女だ」
「も、もう! 時間かかり過ぎですわ!」
勇者に手を取られた聖女は涙目で文句を言うが、その表情はほっとしている。
勇者と聖女はいつものように仲良く帰って行った。
「〜〜絆を確かめる方法は他にもありますよねぇえ!?」
泉の精は複雑な顔をして消えた。