第6話 さとり勇者×奔放聖女「ギャップ萌えもいいわね」
泉の精が馴染みのセリフを問いかける前に、勇者はただ一人の聖女の手を取った。
「なんでまたアンタなの!?」
そもそも、通常なら【選択の泉】の上、泉の精の前に複数人並ぶはずの聖女そっくりな聖女たちがいなかったのだ。
勇者は選ぶまでもなく、元の聖女を選んだ。
「簡単な話です。聖女と成り代わりたい方がいなくなったのですよ」
【選択の泉】は、異世界を股に掛けるマッチングシステム。
パートナーに不満があるほうが事前に申請して【選択の泉】に落ちるのだが、成り代わりたいという候補者がいないと現れない。
そんな【選択の泉】のシステムを逆手に取り、この聖女は、勇者に飽きると泉に落ち、再び自身を選ばれないようにすることで異世界を渡り歩くことを繰り返していた。
「なんでよ! 私はもうこの世界にもこの勇者にも飽きたのに!」
「皆お断りされまして」
「どうして? 前までたくさんいたでしょう?」
「そうですね。しかし、貴女に成り代わった方々は皆、まず勇者を癒すのに大変苦労されているそうで。そのことをお話ししましたら挑戦されたい方がいなくなったのです」
「意味がわからないわ」
奔放な聖女に籠絡された勇者は数知れず。自分だけに一途なように見えた聖女を愛してしまい、離れてからも、勇者たちは無意識下で、奔放聖女を求めてしまっていた。
唯一、奔放聖女がなにをしても落ちなかった勇者が、今、目の前にいる勇者だった。
最初は少しもなびかない勇者を落とそうと、あれこれ作戦を立てたり仕掛けたりを楽しんでいた聖女だったが、さすがにまったく反応がないと飽きてしまった。
いつものように泉に落ちて世界を渡るつもりだったのだが、少し遅かったようだ。
「聖女、あきらめて?」
「いやよ! アンタ相手じゃモチベーション上がらないんだもん!」
ぷんすこ怒る聖女はすこぶる可愛いが、勇者はまったくのいつも通りだ。
「さっさと世界を救おう?」
「だからっ……んぅ」
じっくりと時間をかけて聖女の唇を堪能した勇者は、もう一度言った。
「一緒に世界を救おう?」
「し、仕方ないわね」
頬を染めた聖女と手を繋いで勇者は帰って行った。
「えぇえ……。丸くおさまって良かったけども。世界が終わらなくて良かったけども! えぇえええ!」
残された泉の精は心の叫びと共にかき消えた。