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ep.13 存在証明

「元の虫はウスバカゲロウ。こいつが怪異蟲(バグバグ)の頂点に立ち、全ての怪異蟲(バグバグ)を先導している‥‥‥と上層部(うえ)の連中は考えている」


 "上層部(うえ)の連中は"という他人行儀な言い方に周次は疑問を抱いたが、玄造はすぐにその答えを口にした。


「俺はそうは思っていない。この虫女にそんな力があると思えんのだ」


「どうしてそう考えるんですか」


 これは周次の興味本意から出た質問だった。ウスバカゲロウの怪異蟲(バグバグ)だという女の素性にはそれほど関心がないが、何故だか玄造の考え方に少しの興味を抱いた。


「俺は強者に対して強く戦意を持つ体質をしている」


 周次は「どんな体質だよ」とツッコみたい思いをグッと堪えて、玄造の考えを聞こうとした。


「だが虫女に対しては一切それを感じないのだ。それどころか、こいつを見てると寧ろ戦意が削がれる。つまり俺にとって重要な存在ではないということだ」


 玄造の考え方は酷く利己的だった。


「‥‥‥そうですか」


 自分で訊いておいて、既に周次はどうでも良く思っていた。どうしてこんなことを質問したのだろうかと若干の後悔を抱くほどに後味が悪い。


「僕の能力が知りたいなら、いつでも見せてあげられるよ。周次と再会させてくれたお礼として」


 女は檻の向こうで誘うように語りかけた。しかし玄造はこれに全く動じず、寧ろ制する姿勢だった。


「蟹江周次の入隊は認めるが、これは高校卒業後の就職先という手筈になっている。兎にも角にも、話を進めるのは蟹江周次が高校を卒業してからだ」


 周次の職場体験はこれで終わった。





 ――何故もっと反発しなかったのだろう?


 帰路の途中で、周次はふと考えた。


 突然知らない人間から声をかけられ、謎の組織への入隊を強制させられるという奇天烈。あまつさえ自分が苦手な"虫"を相手取っている。そこに属している人間も大概おかしい。


 政府云々と脅されようが、大人しく応じる義理などないはずなのに。こんなことに取り合わず、もっと自分の人生を謳歌するべきなのに。


 気がつけばあれよあれよと話が進んでしまった。何故抵抗しなかったのだろう――否、抵抗はしていた。だが、それ以上反発はしなかった。


 自分が進路について思い悩んでいる時期、蟷螂の怪異蟲(バグバグ)と遭遇し、襲われた。周次はそこで生きることへの執着に気づけた。とにかく生きたいと。


 じゃあ、必死に守りたいはずのその人生で、自分は何をしたいのか? 何を求めるのか?


 これが分からなかった。そこまで考えて人生を送っていなかった。


祖父の勧めで中学受験をした周次には、高校までこれといって気の合う友人ができなかった。誰かと何かを切磋琢磨するようなこともなく、中学受験も言われるままに受けただけで、一生懸命に何かに取り組んだ経験がない。


 自分が生きている意味とは――?


 この瞬間、周次は自分の思いを明確に理解した。



 *  *  *  *  *



 それから約半年後。周次は高校を卒業した。そして――


 殺蟲隊駆除班km支部事務所の前。半年前は物寂しい様子だった一本の木が、今は満開に桜を咲かせて煌びやかになっていた。


「半年ぶりだね、蟹江周次くん」


 花吹雪とまではいかない花びら混じりの風を受ける周次を、小鳥遊真央が出迎えた。


「‥‥‥世話になります」


 改まった言い方をするのが何だかむず痒くて、周次は目を背けながらぼそっと言った。真央はそんな周次の決意を汲み取っており、しかし直接伝えないように言葉を選んだ。


「良い面構えになったね。でもそーいう真面目な挨拶は中に入ってからね。皆んな待ってるよ」


 ――何故、殺蟲隊の入隊を拒まなかったのか?


 真央に促され、周次は事務所に入る。


 デスクが並ぶそこには駆除班のメンバーである鈴風セツナ、隠岐充、五十嵐佑真、冬野瑠花が居た。そして最奥で勢い良く立ち上がる班長(ボス)


 ――自分の生きる理由を探していた。


「よく来たな、蟹江周次!」


 月島玄造の堂々たる声が事務所中に響き渡った。


 ――たとえそれが希望的観測にすぎないとしても。


「お前を殺蟲隊駆除班km支部の新メンバーとして歓迎する!!」


 ――周次が殺蟲隊に入隊した一番の理由。





 自分の存在証明となるような居場所を、求めていた。

第1章 完

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