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三題噺もどき2

起危

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくよんじゅうに。

 


 窓を開けると、少し冷えた風が入り込んできた。

「……」

 まだ、陽が昇りきらないようなこの時間。

 とは言え、起きて行動している人は大勢とは言わずとも居るだろうし。自分自身もそのうちの1人ではあるので、だから何だと言う感じだ。

 早起きは三文の得とは言うけど、そうでもないだろう……お思うことの方が多い。

「……」

 ならばなぜそんな得でもないことをと言われると。

 まぁ、単純にこの時間に目が覚めて、動くのが習慣になっているからとしか言いようがなくて。

 前日に何時に寝てもこの時間に目が覚めてしまうのだ。

 いつからだったかはもう忘れてしまったが……。

「……」

 そうは言っても目が冴えた後、どうするかは日による。

 こうやって、大人しく起きて動くこともあれば、もう少し寝てみようかと試みることもある。残念ながら、成功したことはないが。

 目が冴えてしまっている以上、眠るのには適していないんだろう。

 大抵、4,5分目を閉じて、飽きて、体を起こしてしまう。

「……」

 今日もそうやって、二度寝でもしてみようかと一瞬思ったものの。無駄だなとすぐに諦めたので、大人しく今に至っている。

 身体を起こして、ベッドから立ち上がって。

 さぁ―と思いつつ、窓を開けたりしている。

「……」

 思っていたより外は明るい。

 最近は天気が悪かったのか、少し暗かった気がする。今日も不安定だと聞いていたから、いかがなものかと思ったが。

 どうやら予想は外れたようだ。

「……」

 昼間の熱が嘘の用は涼し気な風を感じていると、ようやく秋になったのだなぁと少し実感する。

 これが1日中続けばいいが、そういうわけでもないので、何とも……。

 自然というものは、都合のいいようにはいかない。―そもそも、この発想そのものが間違ってはいるだろうけど。

「……」

 さて、と。

 今日もいつも通り動くとしよう。

 このまま、ここにぼうっと立っているのもいいかもしれないが……腹の虫が鳴き始めた。

 起きてすぐこれとは……食い意地が張っているんだろうか。

 そんなつもりはないんだが……むしろ小食気味で心配されるぐらいなのに。

 まぁ、良い事だと受け取っておこう。

 何か食べるものはあったかな……。

「――っと」

 ならばキッチンに向かおうと、体をくるりと回したところ。

 ガッ!!

 と、勢いよくぶつかった。

 窓際に机を置いているのだが、それの角に思いきり。

 朝で、寝起きで冴えているとはいえ、感覚はどうやら鈍いらしく。小さなつぶやきしか漏れなかった。

 痛いには、痛い。

 朝でなければ、うずくまっていたかもしれない。

 ―現に足は立ち止まっていたりする。

「――」

 いや、それはどちらかというと。

 机にぶつかった拍子に、落ちてきたモノに起因するのだが。

 もしかしたら、漏れるはずだった悲鳴もコレが落ちてきたことに対する恐怖で掻き消えたのかもしれない。

「――っぶな……」

 それは、昨夜何に使ったか忘れたが、机の上に置いてあった。

 鋏だ。

 持ちてまでシルバーで加工され、おしゃれな細工がされているやつである。

 値段は、他のこういうおしゃれな奴に比べたら安めだったと思う。

 どこかの雑貨屋で、昔一目惚れして買ったもの―だったはずだ。

 あのあたりの頃の記憶が少々おぼろで……。

「……」

 たいした勢いでもなかったと思うが……その鋏は刃先を下にして床に立っている。

 柔らかなフローリングの上に、すらりと立つその様に美しささえ覚える。

 ―実際はあと数歩間違っていれば、足の甲あたりに刺さっていたかもしれないと言う、危険な現状なのに。

「……」

 膝までは曲げず、腰を折り曲げた状態で、その鋏に手を伸ばす。

 コトン―と、軽く触れただけで倒れた。

 思っていたより深々と刺さっていたわけでもないようだ。

 なら足の甲にまで刺さることはなかったかもしれない。せいぜい軽い傷ぐらいだろう。

「……」

 おちた鋏を手に取り、机の上に置きなおす。

 何で落ちたんだ―――あぁ、そういう事か。

「……」

 昨夜読んだままに置いてあった文庫本が、今にも落ちそうな位置にまで来ていた。

 大方、机にぶつかった際に文庫本までも動いて、その先にあった鋏が押される形で落ちたんだろう。

 ……どんな勢いでぶつかったんだ。

 どうりで未だにズキズキしているわけだ。

 痛みへの反応は鈍くても、しっかりと痛みが残るのは何なのだろうな。

「……」

 ま、特に何も問題がなかったということで。

 ―いやまぁ、床には傷がついたんだが。

 賃貸なのに……これ直すのにいくらかかるんだろう。自然回復とかしないのかなこういうの。割と柔らかい素材のはずなので、戻ってくれそうなものだけど。たまにあるよな……机の跡が気づけばなくなっているの。

「……」

 ん。

 それよりもさっさと腹に何か入れよう。

 腹の虫が危険を回避したと自覚した途端、悲鳴を上げだした。

 さっさと水分だけでも摂取しよう。

「……」

 あぁ、そういえば。

 数日前に誰かが置いていったマドレーヌとかいうおしゃれなおやつがあったはずだ。

 そろそろ期限が怪しいかもしれないので、確認してそれも食べるとしよう。






 お題:鋏・マドレーヌ・文庫本

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