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無題Ⅵ

作者: ベナ

 このスラムの城は出来た当初から少しずつ建て増しと増改築が繰り返されて、今ではどこに繋がるのか知れない複雑な通路や階段がいたるところにひしめいている。無法地帯ゆえに建築法を無視したやっつけの建物が互いを支え合うようにして建っていて、その混沌ぶりと劣悪環境は想像を絶する。


 ところで自分はこの高層都市から少し離れた“聖域”に暮らしている。同じ無法地帯というくくりの中にありながら、少し特殊な保護の効いた地域だ。そこは城に比べればとても清潔で、安定した電力や断水しない水道といった暮らし良い環境が整っている。大概のひとはこの地域に住んでいることを聞くと羨ましがったが、自分はなぜか退廃した城の空気に憧れた。非人間的な環境にありながら強かに生きている人たちの黒々として輝く瞳に魅せられた。


 城に踏み込めばいつも力強い連帯感のようなものがあった。まるで子供も大人も全員でかくれんぼを愉しんでいるような、暗雲に轟く雷鳴をみんなで軒先からおっかなびっくり窺っているような、素朴な一体感のようなものが。城に出向けばそんな空気がいつもそこかしこに感じられて胸がときめいた。今ならなんとなく分かる。多分自分はそこに居場所を求めていたのだと。同じく軒先から空を窺って、誰かと身を寄せ合っていたかったのだ。つまり寂しかったのだ。




                       ※





両親について声高に愛している、とは言わない。むしろ冷めたものがある。微かな憎しみさえある。けれども憎み切れるほどのものではない。中途半端で、だから時々Tが羨ましくなった。もちろんそれがどれだけTにとって失礼で、残酷な感情であるかを承知していたが。


 分かっていた。自分は何もできない愚か者だと。答えも出せず、どこにも行けない、一等愚かで力無い存在だと。



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