パズルのピースはいつ埋まるのか
四年ほど前に、初めてちゃんとした小説を書いてみようと思った。完全にフィクションにしようと思ったので、自分にはあまり縁のない恋愛小説にしようと考え、小説のお題をランダムで作成してくれるサイトで三つのお題をとった。
だが考えているうちに、お題として出された三つの制約が邪魔に感じるようになってしまった。もう好き勝手に書きたいものを書こう。そう考えなおして、大学受験に失敗した男の子が、穴のあいてしまった日常を埋めるために街で一番高い建物の展望ロビーへ通い、そこで自分と同じように街を眺める同い年くらいの女の子に出会うというざっくばらんとしたあらすじを考えた。会話もなく、お互い静かに街を眺めている。そんな話を書きたかった。
できれば一言の会話もないまま物語の幕を閉じたいと思ったが、登場人物たちが会話をしなければ物語が出来てこないという大きな矛盾があり、これをどう解決すればいいのかわからなかった。ビルの中が舞台なので、そこに病院がテナントで入っている設定にしようとか、定時制高校を入れようとか、会話させずともすれ違うなかで相手のことを見つける方法を考えたが、上手くいかなかった。
問題は女の子のモデルだった。入院患者や定時制の生徒など、漠然とした社会的に孤立した人物像は浮かぶものの、設定を細かく決めていこうとすると、せっかくの空白を嘘で塗りつぶすような感覚に陥ってしまい、途端に頭の中に霞んでいた小説の蜃気楼が消えてしまう。
小説のピースを埋める材料がまだ自分のなかにないのかもしれない。何度もそう思った。でもどこを探せばいいのか分からない。待っていればむこうからやってくるのか。それとも永遠に自分に姿を現さないままなのだろうか。
これが書ければ、殻を破れるような気がする。免許皆伝の称号をもらえる気がする。そう思いながらも、結局何も形にならないまま四年も過ぎてしまった。
最近は本を読むこともなく、ぼおっとパソコンをしていることが多い。四月から環境も大きく変わる。小説に成り切れなかった残骸が頭の隅にあるものの、時間の流れに押し流されていく。




