どうやって小説を書けばいいのか
キャラクターの作り方がわからない。
よく“キャラクターシート”を使う方法を見かける。生年月日や性別、身長や体重など、主人公の外見から特徴、物の好き嫌い、普段の行動パターンまで徹底的に書き込んで人物像を作り上げておけば、いざ物語を書く段階になった時に人物がブレず、迷いなく書けるという。
自分の場合、いつも見切り発車で始めてしまうので、この方法は見習うべきかと一度挑戦してみたことがあるが、白紙の状態から人間を作り上げるということが自分には難しいようで、すぐに諦めてしまった。
他の本を読んでみると、主人公は自分をモデルにしてしまった方が書きやすいとか、他の登場人物にしてもやはり現実の友人知人なりをモデルにした方がやりやすいという意見もあり、今はそちらの方向で進めようと思っている。ただ自分の場合、現実の知り合いというのは、家族を除けばほぼ皆無に等しい。そうなってくると、例えばヒロインのモデルなどは学生時代の記憶から引っ張ってくるしかないのだが、幼稚園から高校に至るまで、卒業アルバムというものは一切処分してしまっている。
一度幼稚園の頃の女の子を小説のモデルにしようと思い、中学以来交流のなかった同級生の家へ卒園アルバムを借りに行ったことがある。なかなか恥ずかしかったが、彼はすぐにそれを貸してくれた。
その女の子は、名前がひらがな二文字しかなかった。名字がないのだ。おそらく日本人ではない。そして地元の小学校にも進学しなかった。国に帰ったのか、あるいは別の特殊な学校に進んだか。
自分の小説の中では、彼女を在日朝鮮人という設定にした。調べてみると、市内に朝鮮学校があったので、流石にまずいと思いながらも、なかを見学させてもらえないかと電話をかけてみると、快く了承されてしまった。心細いので母にも同行してもらい、建物の中を見て回った。ハングル文字がある以外、とりわけ普通の学校と変わりはなかったが、ある空き教室で北の指導者の絵(指導者親子が真ん中に座っており、その周りを笑顔の子どもたちが囲んでいる)を発見した時は、ああ、やっぱり……という気持ちになった。ただ、管理者である高齢の方は感じの良い方であったし、すでに学校自体、廃校寸前(全校生徒が二名しかおらず、しかも休校中)ということだったので、お互いあまり警戒心を抱くことなく、寛容なムードのなか見学させてもらった次第であった。
いちおう○○という女の子はいましたか? と訊いてみたが、記憶のかぎりでは思い当たらないという様子だった。やはり国に帰ったのかもしれない。しかし、せっかく在日問題について図書館で調べたり、こうして学校見学もしたので、この際この設定はそのまま生かそうと思い、小説を書いてみた。
が、やはりキャラクターの輪郭というものがはっきりとせず、小説自体も在日問題というデリケートな題材をガサツに扱ってしまい、結果はおじゃんとなってしまった。
やはり自分の課題は、キャラクター設定と物語展開。それができない限り先に進めない。そう思った。
新人賞に応募しようと考えている。だが、いまはその時ではない。まず、習作を書こう。そう思い、今なろうで開催している夏のホラー企画に挑戦しようと思った。と言っても、ホラー小説なんて読んだことがない。
なのでアイデア重視の作戦は捨てて、別の方法を考えてみた。学校で噂がたっている少女がいる。あまりいい噂ではないようだ。体に傷や刺青があるとか、よそから来た曰くの知れない転校生とか。他にも、地元の旧家の娘で、非常に権力を持っている。または山奥にあるおどろおどろしい洋館に住んでいる、等々。とにかく適当に上げてみて、それに合わせた魅力的な(多少漫画的になるのかもしれないが)人物像を書けば、ホラー小説としてもキャラクター小説としても何とかなるのでは??
主人公も、今回はある程度キャラクター化したい。主人公の視点で、彼女を追っていく形になる。凡庸な人物ではなく、少し癖のある人間の方がいい。例えば、盗撮の趣味があるとか。それで、ミステリアスな少女を追っているうちにトラブルに巻き込まれ……。という形に持っていければいいのではないか。
そんなことを考えていると、ホラーよりも盗撮をテーマにした方が面白いのではないかという気がした。そして、少女のキャラクターも、やはりリアルに近いものの方が良いのではないか、という気がしてきた。
ミステリアスな少女、と言っても、やはり想像が偏ってしまうのだ。すでにアニメや漫画に登場しているヒロインの顔しか浮かばない。それなら、いっそ同級生をモデルにしたリアル志向にした方が面白くなりそうだ。
というわけで、今度は失われた中学の卒アルを入手する必要に迫られた。母校に電話をかけてみたが、同窓会などで使うならばまだしも、“小説を書く”という私的な目的では貸すことはできないらしい。個人情報だから、何かしら悪用されかねない。学校側としても管理義務があるのかもしれない。
言い分はわかるけど、もやもやとしてしまう。犯罪利用の可能性は、自分に限ったことではなく、卒業生全員に当てはまるのではないか。こちらは免許証や保険証だって見せても構わない。純粋な創作目的で貸してもらいたいだけだ。犯罪者予備軍のように思われるのは心外だ。
こうなってくると、もう同級生に借りに行くしか方法がなくなる。しかし具合の悪いことに、中学時代唯一仲のよかった友達には、諸事情によりLINEをブロックされている。謝罪の手紙も出したが、返信は来なかった。
いざとなったら幼稚園の卒園アルバムを借りた同級生の家に行くつもりだが、何となくバツの悪さがある。十年以上交流がなかった家に行って、小説に使うから卒業アルバムを貸してくれと言うのは、やはりどこか不自然な気がする。少なくとも、普通だったらしないだろう。
だから、自分は半年ぶりに、LINEをブロックされた友達がバイトしているコンビニに行ってみることにした。
正直、不安で仕方がなかった。自転車を漕ぎながら、頭の中で何度もシュミレーションをする。「久しぶり」「今日、何時頃バイト終わる?」「お金出すから、メシ食いに行こうぜ!(自分は普段、“メシ”なんて言葉は絶対に使わないが、照れ隠しに使ってみようかと思った)」
そして、自転車を停め、いざお店のなかへ入っていくと、たしかにレジには友達が立っていたが、その隣には若い女の子がいて、何やら楽しそうに話しかけていた。
こそこそと店の隅に隠れ、しばらく何の興味もない商品を眺めながら期を窺っていたが、友達の話し声はやみそうな気配がない。そうしているうちに、なんだかお互いの気持ちに隔たりがあるように感じて、結局友達のところへは顔を出さず、別の出口からこっそり抜け出してそのまま帰ってしまった。
卒業アルバムは、やはり例の同級生に貸してもらうほかなさそうだ。手ぶらというのも気が引けるので、今度は何かお菓子を持っていこうと思う。
荒木飛呂彦「荒木飛呂彦の漫画術」
森沢明夫「プロだけが知っている小説の書き方」
渡辺淳一「創作の現場から」
阿刀田高「アイデアを捜せ」
四冊だけですが、物語の書き方についての本を読んでみました。
数年前までは自分はすごいものをかける、と燃えていましたが、最近は自信もなくなってきました。