婚約や結婚が不安だと主筋の伯爵令息に相談したら、「俺も」と同調したので偽装婚約することにしました
私はアンリ。ジャイミョーツ子爵の娘。もうすぐ15歳になる私は、自分の家のお庭で深く深くため息をついていた。
だって年頃になったら婚約させられちゃうもの。貴族の女は道具だわ。自らの意思に関係なく家と家の繋がりのために強制的に出来るだけ良い家に嫁がされる。
それも年頃の見合った人なんて限らない。禿げて太ったおじさんの後妻とか、妾を抱えた豪商の妻とか。華々しい結婚とか愛ある結婚なんてお話の中だけ。
実際は夢のない人生なのよね。私も早々に諦めちゃえばいいんだけど。
「何を悩んでいるの?」
そう聞いてきたのは主筋であるタンシンハ伯爵家の嫡男であるイガース。領地も近く、父がタンシンハ家の事業に参加しているので、親たちが集まると一緒についてくることが多いのだ。そのため幼い頃から遊んでもらうことが多かった。
歳は私より一つ上で15歳。今年16歳かぁ。だいたい、イガースが私の悩みの一つでもあるんだからね。
昔っからそのイケ顔見てるから、私の理想まで高くなっちゃって。せ、責任とって貰いたいくらいだわ!
「はぁ……」
「だからなんのため息だよ。心配だなぁ」
「誰にも言わない?」
「ああ、誰にも言わないよ。言ってみなよ。言えばスッキリすることもある」
「もうすぐ私も15歳。年頃になると親が見つけてきた婚約者と結婚させられるでしょ? それが嫌で嫌で」
「あ~、なるほどな。わかるよ」
「わかります? さすがイガース。長年遊んだ竹馬の友よ~!」
私は大げさに両手を広げて彼に抱きついてやった。うーん。役得。こんなイケメンと抱き合えるなんて。これももうすぐ出来なくなるのね~。つらい。
「俺だって、どこぞの知らない女の人と婚約させられるかわかったもんじゃない。高貴だけどオバサンとか、はたまた4歳とかな」
「ぐ。4歳はつらいわね」
「だろ? 前例がないわけじゃないしな」
たしかに今までの歴史の中で、イガースの言ったような婚約や結婚がなかったわけじゃないものね。高貴な家柄は自分の意思と関係ないからつらいわぁ。
私が頭を抱えていると、イガースが提案してきた。
「お、お、お、おーれなんてどうかな?」
「え?」
「……なんちゃってぇ」
「ん? ん?」
イガースは体育座りをして膝に自分の顔を埋めた。私はその横に座る。
「どういうこと?」
「だからぁ、親たちは事業で繋がりがあるだろ? その絆を確固たるものにするために、俺とアンリを婚約しませんかって提案するんだよ」
「あ、なるほど。私と……イ、イガースが?」
「か、か、勘違いすんなよ? お前が貴族のしきたりが嫌だというから、それならーってことで。いわば偽装だな。偽装婚約」
「偽装婚約? そ、その後はどうなるの?」
「そ、そりゃあ結婚するだろう? でもまぁこうしていつも遊んでいるしな。気心も知れた仲というか。まぁまぁ上手くいくんじゃないか?」
「え? えー? でもイガースはその……顔立ちもいいし、さすがに他に好きな人とか出来て浮気とかされたら嫌だなぁ」
「しません。絶対にしません!」
「ほ、本当~? うふふ」
「本当さ。だから。な?」
「えー。だって後継者とかどうするの?」
「そりゃ~勿論、結婚したら──出来るもんだろ?」
「な、なるほど……」
「どうする? いいよな?」
「ま、まぁね」
「じゃ、親がゲストハウスで話し合ってるから、そういいに行くか」
「そ、そうね」
イガースは立ち上がって私に手を伸ばし私の手を掴むと引っ張って立たせてくれた。
そして二人で父親のいるゲストハウスへ行き、この婚約は両家の絆を深めるとイガースは必死に大演説をしたのだけど、親たちはたがいに顔を見合わせて吹き出して笑っていた。失礼な。
そのうちに伯爵さまは笑いをこらえて私たちに聞いてきた。
「なるほどね。二人は家のために仕方なく婚約したいってことだな。両家の絆のために。はっはっは。二人がそういう志ならばなぁ。ジャイミョーツ卿?」
「ええ。こちらは差し上げるほうですから、そちらがよいなら構いません」
それに私たちは両手を挙げて喜んで抱き合ってしまった。だけどすぐに離れた。だってねぇ。偽装だから。
そ、そういうことで私たちは両家のために結ばれることになったのでした。
今は後継者も産んで、他の子も産んでお腹にもいて、イガースも義父に引っ付いて仕事を覚えて頼りになるので、まぁまぁ幸せです。
偽装、大成功!