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燃ゆる世で生きる者  作者: こんばんさん
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燃ゆる世界で生きる者

「僕はママが大好きだ!!胸を張っていえるよ!!」

そんな都会の喧騒の一つに過ぎない言葉を俺はただ聞きながらただひたすら歩いていた。

 無邪気にはしゃぐ少年の横を通り抜け、大通りとは一本離れた裏道に俺は向かっていた。カビの匂いがこびりついたあの酒場をめざし、ただ歩いていた。

 この日は魔王討伐記念祭、「紋章祭」という祭りが開かれていた。よく知らないが1000年前世界を恐怖に陥れた魔王を勇者の紋章が生まれつき痣として刻まれた勇者が討伐した日らしい。

 こんなにめでたい日はすごく仕事がしやすい。俺らみたいな人種にとっては格好の餌食だ。周りを気にするそぶりもないようなバカしかいない。歩きながらそんなことを考えていた。

 ネズミが走り回る汚い路地裏を抜けると目当ての場所があった。汚い路地に似合わない綺麗な緑色に光る魔石で囲われた看板には大きく「ラピス」と書いてあった。こんな胡散臭い場所まず誰も近づくはずもない。


 入り口のドアを開け、カウンターに座ると、艶があり、光の加減で白くすらも見える美しい黒髪が目に飛び込んできた。

「やっとこの日が来たね!!」

 彼女はそう俺に話しかけた。聴き慣れた声だがそれでも何度でも聴きたくなる声で。

「そうだな。やけに元気そうじゃないか。お前も祭りの空気に飲まれたか?」

「まあね!そういう君はいつも通りすぎて少し気持ち悪いくらいだ。」

「普通の奴らとは違って特にめでたいとかも思わないからな。」

 嘘ではない。俺は生まれてからずっとこの国が憎たらしかった。こんな国を救った勇者を讃える祭りなんか本当に好きなんかじゃなかった。

「君は祭りは見て回らないのかい?この国のお偉いさん方が凱旋するからって街は張り切りモードになってるよ。」 

 艶やかな髪が揺れる。母とは違う美しい髪だった。今思えば母は髪を解かす櫛すら持っていたか怪しいものだった。

「ああ、見て回るつもりはないな。俺にはやることがあるからな。」

「フフフ、、、君はやっぱりいつも通りだね!じゃあ私はそろそろ行くよ。祭りを見て回りたいからね。」

 彼女は席を立つとこちらに手を振りながらドアに向かっていた。

「あ、そうだ」

思い出したかのようにこちらを振り返る。

「夜になったらまたここで会おうよ!奢るしさ!」

 言い終えた彼女はこちらの返事も待たず外へ出て行ってしまった。


 一通り酒を飲み体も熱くなってきたところで俺は店を後にした。

 店を出るともうすでに夕方になっていた。夕方とは言え五日間かけて行われる祭りの初日だ。まだまだ人通りは多い。

 すれ違う人のカバンやポケットから金目のものを盗んでいった。普段なら警戒して近寄り辛いものだが今日は話は違う。皆、大通りの真ん中で行われてるパレードに夢中だった。

 そこには大臣やその護衛が凱旋を行なっている最中だった。皆自分の権力を王に示すため必死なんだろう。それはそれは見事な物だった。色とりどりの服を着た踊り子。大きな馬。風魔法の力を使い飛び散る紙吹雪。ぶくぶく太った大臣。なんとも面白い物だと思った。

 道ゆく人々からスリを働きながらパレードとは逆方向に俺は歩いて行く。段々と護衛や馬の数が増えていくことに気づきふとパレードの方に目をやるとそこにはつり目が特徴的な白髪ですらっとした手足が目立つ国王「ヘルガー」が凱旋していた。

 俺はそいつを見た瞬間に憎い記憶が蘇る。燃える家。逃げ惑う人々。必死になって逃がそうとしてくれた母。全てがなくなっていくあの光景を思い出していた。そう。俺は移民だった。

 

移民だった俺は、生きるためならなんでもした。なんせ10歳の子供だった。できることはなんでもした。物乞いから始まり盗み、詐欺とやることを増やしていった。生きるためなら何でもするつもりだった。人を殺す以外なら。

 そんな俺が初めて人の命を奪ったのは15歳の頃だった。彼女を虐待していた彼女の父を俺は刺した。意外とあっさり殺せた。手には真っ赤な血がついていたが不思議と恐怖はなかった。彼女を守れた。それだけが唯一の救いとなっていたからだろう。


 ふと気がつくと俺はあの店に来ていた。無意識だった。蘇った記憶に駆られないようにこの店に戻ってきていたのだろうか。そういえば今日の夜ここに彼女が来ると言っていたことを思い出したが酔いが回ったのか強烈な眠気に襲われていた。瞼の裏が痺れるような強烈な眠気に。

 

 気がつくと店は閉めたようだ。マスターのカモックが気を遣って寝かせていてくれたのだろう。

「どうせツケだろう。まあいいよ。またきな。」

カモックがそう言って俺を帰そうとした。

「今日彼女はここに来なかったのか?」

俺は無意識に彼女のことが気になりカモックに質問した。

「ああ、昼間に君がきた時以外なら彼女がきてないよ。」

嫌な予感がした。

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