ひっぱり上手のミヨちゃん
「あの野郎、今に見てろよ」
喫煙室でひとり愚痴ってるとちょうど佐藤がはいってきた。嫌な奴に聞かれちまったぜ。
「そんなこと言ってるとミヨちゃんに引っ張られるぞ」
ああん?なにいってんだこの野郎。
「すまんすまん、俺の地元の言い伝えでな。昔の話なんだが、過疎った村を改革しようとした男がいてな」
なんだこいつ?いきなり語り始めたな。つまらん話だが、こいつと話すよりはましか。テキトーに相槌うってればいいだろ。
「まあ、保守的な村だったから、反対する住民も沢山いたんだ。だけど実際には改革は進んでてな。それを止めるために反対派は強硬手段にでたんだ」
「へー」
「それで反対派が誤ってその男を殺しちまってさ。で村のやつらは隠蔽したんだ。だけど死んだ男にはミヨちゃんっていう娘がいたんだがバレちまったんだ」
「ミヨちゃんは犯人たちの袖をひっぱって、かくれんぼしましょって誘ったらしいんだよ。まあ当然断るよな。でも誘われた奴は全員死んじまってな、ミヨちゃんもいつのまにかいなくなってしまったんだ」
「救えねえな」
「かくれる、といえばお隠れあそばす、っていうだろ?死の隠語でさ。だから残ったやつらは、反対派はミヨちゃんに殺されたんだって思ったんだよ」
「結局村の改革は進んで男の言う通りに発展してな。それで村にはミヨちゃんの言い伝えが残ったんだ。人のあしを引っ張る奴はミヨちゃんに引っ張られるぞってな」
「だからお前も人のことばっかり考えてないで、しっかりしろよってことだ」
チッ、この野郎三カ月しか違わないのに先輩風吹かせやがって。中途採用のくせによ。いつかこいつの顧客も奪ってやるぜ。
男が帰宅中、残業のせいでぼんやりしながら横断歩道を渡っていると信号は既に赤くなっていた。横から光が近づいてくるが、腰が抜けているのか逃げれそうにない。
これが走馬灯ってやつか。ホントにゆっくりだ。ああいい事なんてなかったな、因果応報ってことか。佐藤のいう通りだったな。もし生き残れたら心を入れ替えよう。あーいろんな奴に謝んなきゃ、許してくれっかな。親父の墓参りでもするかな、ハハッ。
そんなことを考えていたら、俺の意識は突然戻された。誰かがひっぱって助けてくれたんだ。安堵して振り返ると少女が笑っていた。
「ねえ、かくれんぼしましょ?」