土魔法を拡大
おかげ様で異世界転移ランキング5位です。ありがとうございます。
「……どうしたものかなぁ」
目の前ではオークに粉砕された防壁の破片や、分解された木製の柵が無残に転がっており、遠くでは大森林が見えている。
そんな光景を見て、俺は頭を抱えていた。
拡大スキルを使用すれば、少ない材料で十分な量の食料が手に入る。
食料の生産についてはメアが【細胞活性】を発動し、俺が拡大をしてやって効果を増大すれば大量生産をすることができる。
という感じで、領地の食料問題は現時点では快調といっていい。
食料が安定すると次に取り掛かるのは住処になるのだが、こちらに関しては現状二人しかいない上に、共に被害のなかった屋敷なので問題はない。
仮に必要になるとしても領民が増える時なので、後回しでいいだろう。
となると、次に動くべきは領内の安全だ。
大森林からやってきたオークのせいで領内の防壁や柵は破壊されている。
今や大森林側の防壁は何もない。
つまり、また魔物が攻めてこられると一直線で領内に侵入されてしまうということになる。
そんな恐ろしい状態で領民が暮らせるはずもないので早急に対策をしなければいけない問題だ。俺とメアの命にもかかわる。
勿論、領内すべてを王都にあるような立派な城壁が囲うことは金銭的、人材的、時間的といったあらゆる面で不可能だ。
というか、大森林側だけであっても不可能。ビッグスモール領は広さだけでいえば中々のものなので、そのすべてに防壁を築くとなると莫大な時間とお金がかかる。
しかし、命に係わる以上放置することはできない。そんな状態であった。
たとえ、焼け石に水であっても防壁や柵の一つでもあれば戦いが楽になるし、逃げる時の時間稼ぎになるかもしれない。
自分一人ならば自己責任で命をあきらめる覚悟するという選択もあるが、たった一人残ってくれた心優しいメアもいるからな。
彼女までそのような危険に晒したくはない。なんとかできないものだろうか?
俺は職人じゃないから物作りなんてできないし、時間をかけて小さな柵を立てることが精一杯だな。
たとえ、稚拙であっても柵を拡大で巨大化すれば、立派な防壁になるのではないだろうか。
いや、スキルで拡大したとはいえ所詮は木材。オークの膂力をもってすれば、たやすく破壊されてしまう。
硬い素材を利用した頑丈な防壁であることが望ましい。
「防壁を作り出して拡大スキルで巨大化して、分厚くしてやれば……」
そのようなアイディアを閃いたものの、そもそもの防壁を作ることが俺とメアにはできない。
「となると他の方法といえば、魔法か……」
この世界にはスキルの他に魔法という力がある。
火、水、風、土、光、闇といった属性があり、俺たちはそれぞれ適性があるものを使える。
しかし、それは才能や魔力といったものが伴って初めて使えるものだ。
俺には才能や魔力も平凡なもので火属性と土属性の適性があるが、精々が火球を飛ばしたりちょっとした土壁を作れる程度。
そんな小規模な魔法しか使えない俺なのだが、魔法に拡大を施してみればどうだろうか?
たとえ、しょぼい土壁しか作れなかったとしても、拡大で補強してやれば強力な魔法のような事象が起こせるのではないだろうか。
土魔法で小さな壁を生成しまくって、それを拡大し続ける。
そうすれば大きさ、強度が十分な防壁を作ることができるはずだ。
それを量産して並べてしまえば、時間はかかるものの王都のような城壁を築くことができるのではないだろうか。
現状での効果を考えると無理ではない気がする。
「アースシールド!」
俺は淡い期待を抱きながら、土魔法を発動。
すると、かつての防壁があった地面が隆起して四角い土壁が生成された。
とはいっても、俺の魔力や才能では長大なものを作ることもできないし、拡大を使う以上大きなものにする必要はない。
自分の膝下程度までの壁ともいえない大きさだ。
しかし、これに拡大スキルをかける以上はこれで十分だ。
「拡大」
アースシールドめがけて拡大を発動。
すると、アースシールドがぐんぐんと大きさを増して二十メートル程度になった。
「おお、これはすごい!」
見上げるほどの高さになったアースシールドを見て感嘆の声を漏らす。
これならオークがやってきても軽々と乗り越えることはできないだろう。
しかし、高さはあるものの、このままでは耐久性に難がありそうだ。
今度は幅を増やすために追加で拡大を使用すると、高さはそのままで幅が広まった。
そうして、出来上がったのはまるで凄腕の魔法使いが作りあげた土壁だ。
たった一面しかない防壁であるが、その大きさと分厚さは王都にある城壁に引けをとらないと思う。
「ただ、やっぱり大規模になると疲労感がくるな」
防壁を一面作ってから身体が異様に怠い。恐らくスキルを使用したことによる疲労だと思われる。
スキルによっては使用者に大きく負担がかかるものもあるという。俺のスキルもそれに含まれるようだ。
しかし、スキルも習熟するほどに効果が上がったり、疲れにくくなったりすると聞く。
俺の【拡大&縮小】も習熟すれば、もっと拡大できたり、疲れにくくなるはずだ。
最小魔力でアースシールドを生成し、拡大していくので俺の少ない魔力でも十分な数が作れる。
「どんどんアースシールドを作って拡大スキルを使っていかないとな」
唯一残ってくれたメアが少しでも安全に暮らせるためだ。俺が頑張らないとな。
◆
「アースシールド! 拡大!」
アースシールドを生成して、拡大スキルで巨大化していく。
少ない魔力消費であっという間に防壁を生産していく俺であるが、さすがに量産していけば魔力は減って、スキルによる疲労も重なる。
大森林側の領地に防壁を作りまくっていた俺にも限界が訪れはじめていた。
魔力不足とスキルによる疲労で身体がとてつもなく重いし、眠い。
もう切り上げて続きは明日からにしたいが、大森林にいる魔物はこちらの都合なんて考慮してくれない。
いつ攻め込んでくるかわからないのだ。その時に後悔するよりも、今のうちに手を打っておきたい。
「はぁ、はぁ……アースシールドっ!」
残り少ない魔力からさらに搾り取って土壁を作る。
もはや、最初に作ったものよりも、半分以下の大きさ。小さなコブのようにしか見えない。
別にそれでもいい。後は拡大スキルで巨大化してやればいいのだから。
「か、かくだ――」
拡大を使用しようとしたが疲労により、身体がフラついてしまった。
あっ、地面に倒れてしまう。
「ノクト様!」
傾いていく視界を見て、そう思っていたが誰かが身体を支えてくれた。
朦朧としながら視線を上げると、そこにはメアの顔があった。どうやらメアが駆けつけて、咄嗟に受け止めてくれたらしい。
「……メア? どうしてここに?」
「あんな高い防壁が建っていればノクト様の仕業だとすぐにわかります。そんなことよりも、どうして倒れるまで無茶しているんですか!」
「大森林の魔物に備えるためだよ。今のままじゃあまりに危険だ。領主である以上、俺には家臣であり、領民であるメアを守る義務があるから」
「だとしても、ノクト様が倒れるまでするのは間違っています。もし、ノクト様が命を落とされでもしたら私は……」
怒りを露わにしていたメアであるが、次第に表情は崩れて泣き顔へと変わっていく。
メアを泣かせてしまったという事実に俺は愕然としてしまう。
メアを不安させまいと行動していたつもりだが、却ってメアを不安にさせてしまったようだ。
「ごめん、メア。もう無理はしないから」
「そうしてください」
メアがホッとしたように笑うのを見て、俺は意識を暗闇に落とした。
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次のお話も頑張って書きます。