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食料を拡大


「ノクト様、どうかしましたか?」


「すまない、メア。試したいことがあるんだ。無事な作物か野菜はないか?」


「それならば、こちらに少しあります」


 そういってメアの差し出した籠には、村人が育てていたであろうトマトがあった。


 魔物の襲撃で被害を受けた畑であるが、このように無事なものもあるようだ。


「少しスキルを試してみたいから借りるよ」


「はい、どうぞ」


 赤々としたトマトをメアから受け取る。


 現状ではトマト一つでさえ貴重な食料だ。無駄にはできない。


 だが、もしも俺の考えていたことが可能であれば、食料問題が大きく改善される可能性がある。


 メアが不思議そうにこちらを眺める中、俺は手に持ったトマトに拡大スキルを使用する。


 すると、手の平サイズに収まっていたトマトが、みるみる大きくなった。


 やがて手に収まりきらなくなり、両腕で抱えきれない大きさと重さになるとトマトの拡大が止まった。


「す、すごい! トマトがこんなに大きく!」


 普段知っているものと全く違うサイズ感にメアが目を丸くした。


「こ、これがノクト様のスキルなんですか?」


「ああ。【拡大&縮小】というスキルで物を大きくしたり、小さくすることのできるスキルみたいだ」


「ノクト様のスキルがあれば、少ない食材でも十分に生活ができる?」


「かもしれない。そのために、まずは食べられるか検証してみよう」


 さすがにこのサイズのトマトに噛り付くのは厳しいので、メアに屋敷から包丁を取ってきてもらう。


「すいません、屋敷にはまな板はなく、小さめのナイフしかありませんでした」


「いや、ナイフでも大丈夫だよ。俺のスキルで拡大すればいいだけだから。少し民家を借りようか」


 申し訳なさそうに言うメアにそう言って、比較的損害の少ない民家の台所を借りることにする。


「ノクト様、トマトなら私が運びます!」


 トマトを運ぶ俺を見て、メアが手伝おうとするが、巨大化したトマトは質量もかなり増しており、女性であるメアに任せるのは厳しい重さだ。


「いや、結構重いから大丈夫だよ。メアは先に入って、まな板がないか確認してみて」


「わかりました」


 メアが先に民家に入っていく中、俺は重くなったトマトをゆっくりと運んでいく。


 トマトって抱えるほどの大きさになるとかなり重いんだな。手の平サイズでも割とずっしりした重さがあったし、大きくなれば重くなるのも納得だな。


 一応、昔から剣の稽古をして鍛えていたが、それでもかなり身体に響く。


 調子に乗って外で拡大するんじゃなくて、民家の中で拡大すればよかった。


 あまり苦労して運ぶとメアに心配されてしまうので、平気な風を装って民家に運び込む。


「ノクト様、まな板が残っていましたのでお借りしましょう!」


「そうだな」


 他人の物を使うのは気が引けるが、いなくなって所有権を破棄したものだ。領主である俺が再利用しても罰は当たらない。


 まな板を水でしっかり洗ってもらって、テーブルの上に載せる。


 そして、まな板を拡大。大きなトマトを載せても大丈夫なくらいに拡大すると、ほぼテーブルと同じ大きさになってしまった。


 もはやまな板ではない気がするが、食材の大きさが大きさなので良しとしよう。


 その上になんとかトマトを載せて一息つくと、メアからナイフを受け取る。


 食材を切るような包丁ではなく、封を切ったり、植物を切ったりするのに使う万能小型ナイフ。


 巨大になったトマトを切るには心許ない代物であるが、俺が拡大してやれば問題ない。


「拡大」


 刃渡りが五十センチ程度になるようにイメージすると、ナイフはその通りに拡大された。


「もはや、ちょっとした剣だね」


「……ですね」


 小型ナイフとは思えないほどに拡大されたものを見て、俺とメアは呆然としてしまう。


 とにかく、これなら問題ない。


 大きくなったナイフを慎重に動かして、トマトを切る。


 少し外側の皮が硬めだったが、ナイフの重さを利用するとあっさりと切断された。


 巨大なトマトが真っ二つになり、中から果汁や果肉をさらけ出す。


 さすがに半分にしてもまだまだ大きいし、刻むわけにもいかないので、一口分になりそうな外側を切る。


「それじゃあ、食べてみようか」


「はい」


 さすがに拡大されたからといって毒になったりはしないはず。


 とはいえ、これが食べられるかどうかでこの先の生活が大きく変わる。


 俺とメアは期待と緊張を抱きながら、トマトを口に入れた。


「……普通にトマトだよね?」


「はい、特に味が薄くなったりなどの悪い変化もありません」


 ということは、俺のスキルで拡大した食材でも普通に食べられる! ガッツポーズを取りそうになったが、そう決めつけるにはまだ早い。


 それでも期待感が募って、どうしても言葉に興奮は隠せない。


「メア! 他の野菜や作物を探そう! 同じように拡大しても問題なく食べられるか確認したい!」


「わかりました! 探してきます!」


 ひとまず危ないのでナイフを縮小してから、俺とメアは外に繰り出して食材を集める。


 小麦、きゅうり、大根、レタス、ニンジン、オレの実、ネギ、いんげん、玉ねぎといった無事な食材を見つけて、拡大して味見をしてみると、どれも問題なく食べることができた。


「いける! 拡大した食材でも問題なく食べることができる!」


「これならば少ない食料でも豊かに生活できますね! ノクト様のスキルは素晴らしいです!」


 驚愕の事実に俺たちは歓喜に震えた。


 これまで絶望を味わってきただけに、明確な希望の光が見えるとすごく嬉しい。


 少ない食料をやりくりしながらする生活を覚悟していたが、これなら人並みの生活を送ることができそうだ。


 何せ、その気になれば一個の食材で何人も賄うことができるのだからな。


 食料に多少の余裕はできたのは確かだけど、拡大された食材でも腐ることには変わらない。


 だけど、今は食料事情の改善が見込めたことを喜ぶべきだろう。


 物を大きくしたり、小さくしたりするだけの外れスキルだと思っていたが、使い方を考えれば万能なスキルに化けるかもしれないな。




ありがとうございます。おかげ様で今朝のジャンル別ランキング8位、総合50位でした。

ランキング入りできて嬉しいです!


続きも頑張って書きます!

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[良い点] 文章力は及第 [気になる点] 第4部分までしか読まなかったが村人が逃げた後にもかかわらず(村人が住んでいる)?の表現はおかしい 縮小出来るのに何故大きいままのトマトを苦労して運ぶのか訳がわ…
[気になる点] 転生者で貴族なのに馬鹿すぎる [一言] 文章しっかりしてて面白い
[一言] コレだと増殖になりませんかね? 拡大しても細胞数は変化しない筈なので、細胞一つが大きくなっただけなら仮に食品から摂取できるカロリーが増えたとしても、味のほうは味蕾が感知する細胞数が減ってしま…
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