エピローグ 豊かな領地を目指して
更新が遅れて申し訳ありません。リアルの仕事や他作品の書籍作業、更新などをやっておりました。
こちらも更新を進めて参ります。
ふと目を覚ますと、外ではなく屋敷の寝室だった。
どうやらベッドに横になっているらしい。
あれ? オークキングと戦って、最後に魔法を放ってどうなったんだろう?
天井から視線を動かすと、スッとベルデナがこちらを覗き込んできた。
ベルデナは心配そうな表情を浮かべていたが、すぐに喜びの表情に変わった。
「ノクトが目を覚ました!」
身体を起こして声をかけようとすると、ベルデナに勢いよく抱き着かれた。
受け止めようとしたが想像以上の力に、俺の身体は再びベッドに埋もれてしまう。
「ノクトが倒れてすごく心配した! 死んじゃったかと思った!」
いつになく心配そう声に驚いた。
それだけベルデナが俺のことを心配してくれていたのだろう。
「心配かけてごめん」
「……うん、私の方こそごめん。私がオークキングを倒せるくらいの強さがあったら、ノクトに無理をさせなかったのに」
涙を流しながらベルデナが謝ってくる。
もしかして、俺が無理して倒れてからベルデナはずっとそんなことを考えていたのだろうか。
「そんなことはないよ。ベルデナはすごく活躍してくれたじゃないか。オークをたくさん倒したし、オークキングとだって殴り合っていた。正直、ベルデナがいなかったら防衛ができていなかったと思うよ」
あんな風に大胆に防衛戦ができたのはベルデナがいたお陰だ。ベルデナがいなければ、そもそもオークたちと渡り合うことは無理で、領地を捨てて逃げていたことだろう。
「本当? 私、ここにいていいの?」
今回のことで自信を喪失したのか、ベルデナが不安そうにこちらを見上げてくる。
ベルデナが力不足を嘆くことは全くない。彼女は十分過ぎるほどに戦力になってくれたのだから。むしろ、力不足だったのは俺の方だ。
「勿論だよ。ベルデナさえよければずっと」
「ありがとう」
ベルデナの頭を撫でながら言うと、彼女は首に回していた腕にギュッと力を入れた。
感動的なシーンだし、ベルデナを労ってやりたいのだが巨人族のパワーは健在で首や背中の方がミシミシと悲鳴を上げている。
「……ご、ごめん、ベルデナ。ちょっと力が強くて苦しい」
「あっ、ごめん」
俺が呻くように言うと、ベルデナはすぐに力を緩めて離れてくれた。
ふう、今度は肉体的な意味で倒れてしまうところだった。
「ノクト様……」
安堵の息をついていると、寝室の入り口で呆然とした様子でこちらを眺めるメアがいた。
「やあ、メア。さっき目が覚めたよ」
気怠い中、上体を起こして元気なことをアピールすると、メアは何かを堪えるような表情をし、こちらに抱き着いてきた。
「無茶はしないでくださいと言ったじゃないですか」
「ごめん、また無茶をしちゃって」
「本当ですよ。私が注意しているのに何度も何度も!」
畑の時だけじゃなく、戦いでも無茶をしてしまった。メアに無理はしないように何度も言われていたのに。
メアは何かを吐き出すように胸元で愚痴を言っている。でも、涙ながらだし、抱き着いていて声がくぐもっているのでほとんど何を言っているかはわからなかった。
でも、怒られていることは確かだろう。
俺はメアをあやすように何度も頭を撫でて、頷き、時に謝る。
今は心配させてしまったメアの心労を吐き出してやった方がいい。
「あはは、ノクトってば怒られてばっかりだね!」
「まったくだよ」
しばらく頭を撫でてやると、落ち着いたのかメアはスッと離れた。
地味に鳴きながら抱き着いたことが恥ずかしかったのか、頬と耳が赤くなっている。
それをからかいたかったが、また怒られそうなのでやめておいた。
今はそれよりも状況を知りたい。
「俺はどのくらい寝てた?」
「二日間です」
スキルと魔力を限界まで使った反動だろうか。まさか二日間も眠っているとは思わなかった。
それだけ今回の戦いは身体に負荷がかかっていたということだろう。
「あれから逃げたオークたちは?」
「グレッグさんやリュゼさんをはじめとした狩人や怪我のなかった若者たちが中心に追撃をしました。すべてを倒せたわけではないですが、統率個体であるオークキングが倒されたので脅威にはならないと思います」
そうか。またすぐに襲い掛かるようなことを警戒したが、そんな様子はなく大森林に逃げたようだ。
オークキングと一緒にあれだけの数を動員しても落とせなかったのだ。逃げたオークたちがビッグスモール領にちょっかいをかけてくることはないだろう。
たとえ、かけてきたとしてもオークキングさえいなければ、容易に返り討ちにできるだろう。
「……それで領民たちの様子は?」
あのような脅威があったのだ。
この領地が危険だと思って逃げてしまった領民がいるのではないだろうか。
以前の領民に逃げられてしまったからか、そんな不安が心の中でよぎる。
「戦いの後片付けをして、いつも通りに生活していますよ」
「そうか」
優しい笑みを浮かべながらそう説明してくれるメア。俺の心の内の不安を見抜かれていたようで少し恥ずかしい。
「ちょっと領地の様子を見に行こうかな」
メアから大体の状況を聞いたが、やはりこの目でちゃんと見てみたい。
俺がベッドから出ようとすると、叱責の声が重なった。
「ダメです!」
「ダメ!」
「いや、別に見に行くだけだから身体の負担になるわけじゃ……」
「大人しくしていてください」
「ノクトは倒れて、目を覚ましたばっかでしょ!」
「……はい」
なおも食い下がるが、メアとベルデナの有無を言わせない迫力に俺は大人しくベッドで寝転がるのであった。
◆
目を覚ましてから二日後。すっかりと体調が回復した俺は領地に向かった。
メアとベルデナから領地や領民の様子は逐一聞いていたが、やはり自分の目で見ないとどうも落ち着かない。
どこかソワソワとした気持ちで領地にやってくると、いつも通りに領民がおり、それぞれの仕事や生活を営んでいた。
「あっ、ノクト様! もう出歩いて大丈夫なんですか?」
畑の傍を通ると、ガルムが駆け寄ってくる。
俺の身を案じてくれているようだが、ガルムの身体にはところどころ包帯が巻かれており、そちらの方がよっぽど心配だ。
「ああ、休んだお陰でね。ガルムこそ、少し怪我をしているようだけど大丈夫なのかい?」
「ええ、オレのは掠り傷みたいなものなので」
「あなたってば強がって。私の薬を塗るまでは水が染みると言っていたんですけどね」
「ねー」
そんなことを言っていると、オリビアとククルアがやってきてなじった。
ガルムは恥ずかしそうに視線を逸らしている。
万全に動けるようになったのも妻の薬のお陰なので、言い返すこともできないのだろうな。
「おっ、賑やかだと思ったらノクト様がいるじゃないですか」
「……やっと来てくれた。これでお肉を大きくしてもらえる」
ガルム一家のやりとりを微笑ましく聞いていると、狩猟帰りのグレッグとリュゼもやってきた。
俺の姿を見て、肉がたくさん食べられると喜ぶリュゼはブレないな。エルフなのに肉が大好きで本当に変わり者だ。
「おっ、ノクト様だ!」
「もう体調は大丈夫なんですか?」
「なんじゃ出歩けるのならさっさと言わんか!」
人が集まったからだろうか、人がさらなる人を呼んでたくさんの領民が集まってきた。
皆、俺が倒れたことを心配していて気さくに声をかけてくれる。
それがとても嬉しくて、領民の声をひとつずつ丁寧に返していく。
それにしても四日ほど前にオークキングの襲撃があったとは思えない平和っぷりだ。
あれだけの事があったのに皆、何事もなかったかのように暮らしている。
このままなあなあで過ごすことは幸せだろう。
でも、俺は厳しい環境であると知りながら領民たちを誘致した。
今回は何とか抑えられたが、依然として残る領地の危険さを誤魔化したくはない。
「皆、ちょっと話を聞いてもらっていいかな?」
唐突な俺の言葉に皆は驚いていたが、真面目な話だとわかったのか静かに頷いてくれた。
「皆の協力もあってオークキングの襲撃を何とか乗り切ることができた。でも、ビッグスモール領は大森林と隣接している領地だ。これから何度も同じようなことがあるかもしれない」
その事を不安に思っている領民もいたのか、顔を俯かせる領民もいた。
今のところ手厚い保証と、十分な食料があるので生きていけているが少しでも安全なところで生きたいのが人間の心だ。
「でも、危機を乗り越えることのできた皆となら、誰もが幸せに暮らせる領地を作れるんじゃないかと思う。今は至らないところも多いけど、これからも皆の力を貸してほしい!」
ぺこりと頭を下げて言うと、グレッグが優し気な声で言った。
「……顔を上げてくださいよノクト様。領主とあろうものがそんな風に頭を下げちゃダメですよ」
顔を上げると、領民の皆がこちらを見ていた。
「オレはこの領地を離れるつもりなんてありません。ここは獣人であるオレたちでも差別を受けることなく暮らせます。ここでの生活は幸せです」
そう言ってオリビアとククルアを優しく抱き寄せるガルム。
「まったくですね。自分たちこそまだまだノクト様のスキルに頼りっぱなしで頼りないかもしれないですが、今後も頼ってください」
「魔物は皆で力を合わせてやっつけましょう!」
グレッグを中心とした若い領民と狩人たち。
「ここはまだまだ足りないものばかりじゃ。ワシらがおらんとどうしようもないじゃろ?それにここまで手を入れた領地を放り出すなんたぁドワーフじゃねえ」
「おうよ! それに領主様は酒を生み出す神じゃからな! 多少の危険があろうと気にせんわい!」
「……危ないのはどこの領地も同じ」
ローグ、ギレムが笑いながら、リュゼが感情のこもっていない平坦な声で言う。
皆の温かい言葉に感動して泣きそうになっているとベルデナが肩を叩いてくる。
「もう、ノクトは心配し過ぎだよ。こんないい場所、誰も出ていったりしないって」
「そうかな?」
「領地だけではなくノクト様に惹かれているのですから」
メアの言葉に同意するように領民たちが頷いてくれる。
「……ありがとう」
まだまだ至らぬところは多いけど、領民たちはここを気に入ってくれているようだ。
父さんや兄さんが目指していた幸せな領地にはまだまだ遠いけど、皆がいれば無理じゃない。いや、皆がいればできる。
俺たちで今度もっとビッグスモール領を豊で、誰もが幸せに暮らせる領地にするんだ。
「よし、今日は作業を終えたら戦勝会だ!」
威勢のいい声で宣言すると、領民たちは喜びの声を上げた。
これで一章は終わりです。
『二章に期待!』
『続きが気になる!』
『更新頑張れ!』
と思われた方は、下のポイント評価から評価をお願いします!
今後も更新を続けるためのモチベーションになりますので!
次のお話も近日に更新いたします。




