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拡大スキルの発見


「お帰りなさいませ、ノクト様」


「ああ、今戻ったよ」


 墓参りを終えて屋敷に戻るなり、メアが出迎えてくれた。


 家族や家臣がいなくなってしまった今、この屋敷に住むのも俺とメアだけだ。


 もし、メアがいなければ帰ってきても誰も出迎えてくれないのだろうな。


「どうかしましたか?」


「いや、メアが残ってくれて本当に良かったなって思って」


「そ、そうですか! そう言ってもらえて私も嬉しいです」


 心から思ったことを伝えると、メアは顔を真っ赤にしながらも喜んでくれた。


 俺の言葉がよほど照れ臭かったのか、メアは動揺しながらも話題の転換を図った。


「あ、あの、これからどうしますか?」


「そうだな。まずは使える水や食料の確保だな。屋敷にある備蓄の確認はできているかい?」


「あまり心許ないというのが現状です。水は井戸が無事なので問題ありませんが、備蓄の食料は私たちで節約しても二週間ほどしかもたないと思います」


「ん? 食料庫には領民を一か月賄える程度の食料があったと思うけど?」


 父は魔物の襲撃や、飢饉に備えて、しばらくは領民を賄える程度の食料を保存していた。


 それなのに俺とメアの二人で二週間しかもたないというのは、どういうことか。


「魔物との交戦で使ってしまったのと、家臣がここを離れる際に……」


「ああ、そういうことか」


 言いにくそうにするメアの言葉を聞いて、俺は理解した。


 どうやら残っていた食料のほとんどは家臣が領民などに配って逃げてしまったようだ。


「も、申し訳ございません!」


「いいよ、気にしないで。仕方ないことだから」


 ここから隣の領地まで徒歩だとかなりの時間がかかる。家や畑をつぶされた領民に食料はなく、備蓄している保存食に手を出してしまうのも仕方がない。


「……ですが」


「この先こういう事はたくさんあると思う。何も悪くないメアが謝っていたらキリがないよ。今を悲嘆するよりも、先のことを考えよう」


「……はい」


 俺がそう言うが、メアはどこか納得できなそうに頷いた。


 この辺りは理屈じゃなく感情が大部分を占める。今すぐに切り替えることは難しいだろうな。


「水が問題ないんだったら食料だね。メアは畑の確認を頼むよ」


「わかりました」


 魔物に荒らされたとはいえ、無事な作物や野菜、苗などがあるはずだ。


 放置していると食べられなくなったりしてしまうので、まずはそれの回収と確認だ。


「ノクト様はどうされます?」


 返事をしたメアがどこか不安そうに尋ねてくる。


 この領地には二人しかいないし、いつ魔物がやってくるかわからない。


 現状で離ればなれになるのは危険だな。とはいっても、二人で何ができるのだという疑問はあるが、精神的な問題で傍にいた方がいい。


「俺も外に出てスキルの確認をしてみるよ。これが使えるかどうかで、この先も大きく変わりそうだから」


「わかりました。では、行きましょう」


 俺が傍にいるとわかると、メアは安心したように笑った。




 ◆




 屋敷を出た俺とメアは、村人たちが生活している村にやってきた。


 大森林に近い側の民家のほとんどは破損し、巨大な岩などで押しつぶされていた。


 村人が耕していたであろう小麦や野菜、踏みつぶされたりと無残だ。


「……思っていたよりも酷いな。領地を襲った魔物はなんだったんだい?」


「オークの大群だそうです。私は避難していたので話でしか聞いていませんが、かなりの数の上に、上位種がいたのだとか……」


 上位種がいたとなると、オークよりもさらに上位種であるハイオーク、オークジェネラルなどの可能性があるな。


「敵はどのように退いて?」


「ウィスハルト様が上位種に重傷を負わせて撤退したそうです」


 オークの大群を相手に突破口を切り開いて、上位種と切り結ぶ兄上の姿が容易に想像できた。


 そうだよな。いつも兄上は率先して危険な障害に立ち向かっていっていた。そして、そんな兄を父が苦労して援護していたものだ。


 オークの大群を撃退するとはさすがだな。我が兄ながら誇らしい。


「となると、遠くない間に再びここを攻めてくる可能性もあるね」


「ですが、私たちしかいない場所に攻め込んでくるでしょうか?」


「その可能性もあるけど、物事は最悪を想定して動いておく方がいいから」


「……そうですね。今のは私の都合のいい希望でした」


 誰だって悲しいことがあれば、都合のいい希望を見出してしまう。外れスキルを獲得しても、父さんと兄さんがいれば何とかなると思っていた俺のように。


「では、私は使えそうな畑や食料がないか探してきます」


「ああ、俺はこの辺りにいるから、なにかあったら呼ぶし、メアもすぐに俺を呼んでくれ」


 俺がそう言うと、メアは嬉しそうに笑って畑の確認に向かった。


「さて、俺は自分のスキルの確認だな」


 俺が授かったスキルは【拡大&縮小】。


 神殿騎士によると、物を大きくしたり小さくすることのできるスキルではないかと言っていた。


 拡大と縮小と言われると、俺も同様のことを思い浮かべるな。


 前世にパソコンでテキスト作成する際に、よくグラフや画像などを拡大したり、縮小したりと少しでも見えやすいように四苦八苦しながら微調整を繰り返していた。


 俺のスキルも同様のものだと考えてもいいのだろう。


 まずは何か物を大きくできるか試してみたい。


 なにか適当な物がないかと探していると、足元に鍬が落ちていた。


 村人が畑を耕すために使う道具だ。俺の物ではないが、今はその所有者もいなくなってしまったわけだし、スキルの実験台にしてもいいだろう。


「えっと、拡大」


 鍬を持ちながら唱えてみると、手の中に収まっていた鍬がみるみる大きくなった。


 一メートルほどの長さが二メートルくらいになり、横幅もかなり増えている。


「おっと!」


 それに伴い重さも増して、片手で持てた鍬を慌ててもう片方の手で支える。


「うわー、本当に大きくなったんだな」


 鍬を大きくできたのは凄いが、これではまともに振ることができない。


 でも、このスキルであれば縮小することもできるはず。


「縮小」


 元の鍬の長さをイメージしながら唱えると、鍬は元のサイズに戻った。


 なんだか面白いな。


 しかし、このスキルは拡大すると全体的に大きくなってしまうのはいただけない。部分的に拡大することはできないのか?


「拡大」


 鍬の長さだけを拡大するようにイメージしながら使用してみると、イメージ通り長さだけが拡大された。


 俺の手元には二メートルの長さを誇る鍬がある。


 重心がかなり先の方にあるために、かなりアンバランスであるが結果的に部分的に拡大をすることができた。


 その影響で横幅が細くなったりするような影響は特にない。


 アンバランスな状態で鍬を振ってみると、一応問題なく土を掘ることができた。


 かなり使いづらいし、検証も足りないけど拡大されたことによって道具が劣化するようなことはないようだ。


 重さが増えたということは、拡大されるに伴って質量も増えたということ。


「……つまり、このスキルで食材を拡大すれば、より節約することができるんじゃないか?」


 そうだとしたら、このスキルはかなり役に立つ! 天啓のように閃いた俺は、畑を確認しているメアの下に駆け寄るのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] ここの描写はオークは手傷を負わされると必ず復讐しようとするとかいれると良いかも。 普通の動物は痛い思いをすると寄り付かなくなるので。 魔物も大群でやってきたという設定は、食料がなくなったから…
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