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領民たちの家


 新しくやってきた領民たちが家を選んでいる様子を眺めていると、ガルムがこちらを見ているのに気付いた。


 聞きたいことがあるけど、領主である俺に話しかけていかわからないというような感じだ。


 これは俺から声をかけてやった方がいいだろうな。


「ガルムたちは家を決めたのか?」


「はい、その前にお尋ねしたいのですが、オレたちは農民として仕事をすればいいのでしょうか?」


 ローグとギレムは職人として誘いをかけているが、ガルムたちに特別に何かをしてくれとは言っていないし、そのように誘ってもいない。


 農作業以外に他の仕事をやらされるのであれば、それを考慮したいのだろう。


「基本的にガルムたちには農業をやってもらおうと思っている。勿論、ローグやギレムたちのように何か手に職があったり、やりたい仕事があればできるだけ尊重しようと思っているよ」


「そ、そうですか……」


 俺がそう述べるとガルムは安心したように息を吐いた。


「ああ、もしかして大森林の魔物を狩るような仕事を命じられると思っていたかな?」


「あっ、ええと、その……申し訳ありません」


 少し意地悪な言い方だっただろうか、ガルムが耳と尻尾をしおらせながら俯く。


「確かに獣人である君たちは、俺たちに比べて身体能力も高くて魔物に対抗できるかもしれないが、行きたくない者を無理に行かせるつもりはないよ。冒険者などの戦闘が得意なものを募って防衛なんかを任せるつもりだ」


 戦いたくない者を無理矢理戦わせてもいい結果にはならない。


 うちに住んでくれる以上、ガルムも俺の領民なんだ。そんな酷いことはしない。


「ありがとうございます、ノクト様。オレ、こんなナリしているんですけど、あまり戦闘は得意じゃなかったので。それにククルアのためにも傍にいてやりたいので」


 ガルムの視線の先には、畑を眺めているククルアとそれを見守っているオリビアがいる。


 ガルムは血の気が多い獣人にしては性格もかなり穏やかだ。


 戦闘の適性があっても、性格的に適性がないんだろう。


「あっ、でも俺は簡単な狩りもできますし力仕事もできます。それに妻のオリビアは料理と編み物が得意です。なにか仕事があれば、遠慮なく使ってください」


「わかった。その時は遠慮なく頼らせてもらうよ」


「では、家族に報告して家を決めてきます」


 ガルムはぺこりと頭を下げると、軽やかな動きでオリビアとククルアの方に向かう。


 俺と話したことを告げると、オリビアやククルアが嬉しそうに笑った。


「ノクト様、家が決まりました!」


 そして、二、三言会話をすると、ガルムは戻ってきて明るい声を上げた。


 俺よりも年上なのに失礼であるが、犬みたいだなと思ってしまった。


 まあ、見たところ狼系の獣人なので大間違いと言うほどでもないだろうけど。


 なんてことを思いながらガルムに付いていくと、少し離れた位置にある民家に案内された。


 多くの民家は固まっているが、この家は川があるせいかポツンと離れるように立っている。


「ここでいいのか?」


「はい、川などの自然が近くにある方が落ち着くんです」


 確かめるように尋ねると、ガルムはそう答えた。


 それも理由の一部ではあるが、他の領民との生活の摩擦を恐れているようにも感じられた。


 ガルムやオリビアはまだしも、ククルアは人間たちに慣れていないだろうし、少し離れた場所で慣らすのがいいと考えたのかもしれない。


 まあ、そこは俺が無暗に口を出すこともないだろう。


「……わかった。好きにするといいよ。畑も近くにあるものを使っていいけど、そっちに関してはメアの方が詳しいから後で相談してくれ」


「「ありがとうございます」」


 畑に関してはメアの方が詳しいからな。現在の状況も含めて彼女に相談してもらった方が早いだろう。


「他に質問はあるかい?」


「あの、食料の保証というのは具体的にどのようにして頂けるのでしょう?」


 オリビアにそう尋ねられて、俺は食料保証を具体的に伝えていないことに気が付いた。


 それならば俺とメアのスキルを見せるのが早いな。


 とはいえ、ガルムたちの後にまたギレムたちに見せていたら二度手間だ。


 彼らを呼び寄せることにしよう。ちょうど試したいこともあるし。


「ローグ、ギレム! こっちに来てくれ!」


「あの、ノクト様? ここから呼んでも聞こえないのでは?」


 傍にいるメアがそう言うが、遠くで民家を眺めていたローグとギレムは身体をビクンと跳ねさせて、こちらにやってきた。


「なんじゃい今のはっ!?」


「ワシらの耳元でお前さんの大きな呼ぶ声が聞こえたぞ!?」


 余程驚いたのだろう、ローグとギレムが食ってかかるような勢いで言う。


「……もしかして、声を拡大したのですか?」


「そういうこと」


 俺のスキルのことを知っているメアは、俺が何をしたかわかったようだ。


 そう、俺は自ら放った声を途中で拡大してやって、ローグたち声を届けたのである。


 もっとも、彼等には耳元で大声が聞こえるように感じたようだ。これは俺の調整ミスだな。


「おい、どういうことなんじゃ?」


「それも含めて、これから説明するよ」


 俺はローグをスルーして、メアと共に畑の傍に移動する。


「これから皆に約束していた食料保証をどうするかを見せる」


 俺がそう言うと、ローグやギレムは「あー、そんなのもあったな」と呑気に呟いていた。


 彼らはちゃんとラエルから条件を聞いて、やって来たのだろうか? 


 ちょっと心配になりながら俺は畑にあるニンジンを引っこ抜いた。


「ここに普通のニンジンがあるよね? でも、俺のスキルを使えば……拡大」


「「ッ!?」」


 拡大スキルによって通常のものよりも遥かに大きくなったニンジンを見て、メア以外の全員が目を丸くした。


「なんじゃいそれは!?」


「ただのニンジンが馬鹿みたいに大きくなりおったぞ!」


 面白いくらいの反応をしてくれるローグとギレムを放置して、俺は説明をする。


「俺のスキルはあらゆる物を大きくすることができる。つまり、少しの食材でも俺の力があれば、何日かけても食べきれない量にできるわけだ」


「……そんなふざけたスキルがあるものなのか?」


「まあ、スキルは神より授かりし超常の力ですから」


 その衝撃は、まともに会話をしていなかったギレムとオリビアが思わず会話をするほどだったようだ。


 まあ、俺も最初に気付いた時は随分と驚いたけど、スキルとはそういうものだ。


 俺たちが理解できる範疇をとっくに超えている。


「じゃが、いくら食材を大きくできようとも、肝心の食材がなければ意味がないんじゃないか?」


「確かに。この辺りの畑では、とても三ヵ月分の食料を保証できるようには……」


 ローグの指摘を聞いて、ガルムが不安そうに周囲を見渡す。


「それに関しては俺とメアのスキルで解決できる。少し付いてきてくれ」


 俺がそう言うと、ローグたちは首を傾げながらも大人しく付いてくる。


 そうやって俺たちがやってきたのは、まだ新芽が出たばかりの新しく開墾した畑。


「メア、頼む」


「わかりました」


 メアが屈み込んで【細胞活性】を発動。それと同時に俺はメアのスキルを【拡大】。


 淡い光はすぐさま強くなり、新芽を包み込む。


 すると、新芽は即座に葉を生い茂らせ、土から見事な橙色の身を露出させた。


 それは先程の畑で見たニンジンである。


「新芽だったものが一瞬で成長してニンジンにっ!」


 植物が一瞬にして成長する光景はインパクトが強かったのか、オリビアだけでなく皆があんぐりとしていた。


「不思議!」


 その中で、ククルアの無邪気な声が微かに響いた。


「……ノクト様とメアさんのスキルがあれば、畑を開墾して収穫まで飢えることなく生活できる」


 そんな中、ガルムがどこか感激したように呟く。


「そういうことだ。領民たちの食料はしばらくこれで保証する。しかし、俺とメアのスキルだけを頼りに生活するのではダメだ。いずれは、このスキルなしでも豊かに生活していけるようにしなければいけない。それが正しい姿だからだ」


 俺とメアのスキルの合わせ技は確かに強力だ。


 しかし、たった二人のスキルで領民を賄うというのは正しいやり方ではない。


 もし、俺やメアの身になにかあれば、あるいは今後生活していく上で病気などで倒れれば間違いなく破綻する。


 あくまでこれは立て直しのための一時凌ぎに過ぎないのだ。


「わかりました。オレたち精一杯頑張ります!」


「……まあ、家を貰って、食料まで保証してくれるんじゃ。ここまでしてもらって、力にならんわけにもいかんからのぉ」


 ガルムやローグの決意をきっかけに、皆の心が一つに纏まった気がした。


「ありがとう! それじゃあ、改めてこれからよろしく頼むよ!」




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[一言] >自ら放った声を途中で拡大 音速は時速1200キロくらいだから100メートルほど離れた相手に声が届くまでに人間の反射速度で「途中で拡大」は無理だろうから そう、俺はローグたちのそばに、声…
[気になる点] なんでゲームで定番のスライムってしってるん? 転生物なら知識がいまいちだし?
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