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やってきた領民たち


「アースシールド! 拡大!」


 土魔法でアースシールドを発動して、拡大スキルで巨大化する。


 隣に立っているアースシールドにぴったりと寄り添っているのを見て満足する。


 防壁を築く以上、大きさが違っていたりズレていたら気持ちが悪いからな。


 ぴったしと並んでくれると、作り手としても満足だし見栄えがいいな。


「さて、あと五個ほど作ったら今日は切り上げるか」


 そう呟いて、次の防壁作りに取り掛かろうとするとメアの声がした。


「ノクト様! ラエルさんがやってきました!」


 ラエルがついにやってきた。


 それは俺の頼んだ通り人材を連れてきてくれた可能性がある。


「わかった。すぐに行く!」


 防壁を作っている場合ではないと判断した俺は、メアと共にラエルのやってきた中心地へと急いで向かう。


 中心地にやってくると以前と同じ馬車が停まっており、ラエルとピコがいた。


 人材は馬車の中で待機しているのだろうか? 


 馬車の方を気にしつつも俺はラエルに近付いていく。


「ラエル、待たせて悪かった。少し防壁を作っていてな」


「……前にきた時よりもかなり増えていますね」


「新しい人が来るかもしれないからな。安心して暮らしてもらうためにも領地の安全性を高めるのは当然だよ」


「領地の全てを囲えるようになれば、そこらの街とは比にならない堅牢さを誇りそうです」


 ラエルが遠くに並ぶ防壁を見て苦笑いしていた。


 俺の目指すのはまさしくそれだからな。


 この領地を覆うように防壁を築いて、そこに私兵を駐屯させたいものだ。


 まあ、その段階になるまでまだまだ時間がかかるだろうが。


「ところで宝石の方はどうだった?」


「無事に売ることができました。ノクト様には先に金貨六十枚をお渡ししておきます」


「き、金貨六十枚!?」


 ラエルの口から出た途轍もない金額を耳にしてメアが驚愕の声を上げた。


 無理もない。それだけの大金があれば、家族四人いたとしても十年は暮らせる金額だ。


 このような大金を万年金欠のビッグスモール領の人間に渡せば仰天してしまう。


「ど、どうぞ」


「……か、確認させて頂きます」


 ピコがずっしりとお金の入った皮袋をメアに手渡した。


 渡す側、渡される側の両方が緊張しているのがよくわかる。


 俺たち三人が見守る中、メアは丁寧に枚数を数えていく。


「六十枚あります」


 いつもの凛とした声ではなく、戦慄したような声だった。


「俺たちへの還元だけで、これだけあるってことはかなり稼げたようだね?」


「ええ、拡大した宝石の価値は予想通りかなりのものでした。特に貴族や商人などの上流階級の人間によく売れます」


 ニヤリと笑みを浮かべながら上機嫌に言うラエル。


 俺たちにこれだけ支払えるってことは金貨百枚以上の値がついたのだろうな。


 ラエルの所持していた元の宝石の価値は精々が金貨二枚程度。


 それが五十倍以上になると本当にウハウハだな。こんなにボロい商売はない。


「つきましては、次の商売のためにノクト様に拡大してほしい宝石があるのですが」


 ラエルがそう言って懐から取り出したのは、上質なエメラルドのような宝石。


 次は質の高いものを拡大して、さらなる稀少価値の高い宝石を売りつけるつもりらしい。


 金貨二枚の宝石でこの売上なのだ。さらに上質な宝石を巨大化してしまえば、さらなる値段がつくことは容易に想像がついた。


「わかった。やってあげるよ。でも、それは後だね。俺が頼んでおいた人材はどうなったんだい?」


 商売の話も大事であるが、連れてきた人材がいるのならば先にそちらを進めたい。


「数人連れてくることができました。ピコ、連れてきてくれ」


「わかりました」


 ピコは返事をすると、馬車の荷台の方に回って誰かに声をかけた。


 すると、荷台の方から人が降りてくる。


 それは頭に耳を生やした狼獣人の男性と女性と少女。


 不安そうにしながらもしっかりと身を寄せ合っていることや、似たような尻尾の毛並みから家族なのだろう。


 それとどこか不貞腐れた感じのドワーフが二人。


 新たにやってきてくれた人材に俺とメアは顔を明るくするが、徐々に顔をしかめてしまう。


 特に獣人の家族の身体がかなりやせ細っており、健康状態がかなり悪そうだ。


 こういう雰囲気の人間を王都で見たことがある。


「……まさか奴隷を連れてきたのか?」


「いえ、違います。彼らは村で迫害を受けていたようです」


「そ、そうか。疑って悪かった」


「いえ、無理もありません」


 耳や尻尾を生やした獣人は、魔物や獣を想起させることもあって一部の地域では亜人と呼ばれ、蔑まれることもある。


 彼らは運悪くそのような地域で生活をしてしまい、辛い生活を送ってきたのだろう。


 俺が視線を向けるだけで、獣人の少女が怯えて父親の背中に隠れてしまった。


「ビッグスモール領の噂は広まっており、誘致には難航して人間を連れてくることができませんでした。獣人でも大丈夫でしょうか?」


「ああ、そこは問題ない。獣人だろうが人間だろうがうちの領地にきてくれるのなら大歓迎だ」


 俺がそう言うと、獣人たちがポカンと目を丸くしていた。


 獣人を受け入れると言ってくれたのがそんなに珍しいのだろうか? 


 別に俺に亜人を差別するようなことはない。


 大森林が近くにある過酷なビッグスモール領では獣人の領民も多くいた。


 幼い頃から彼らと過ごしているので偏見も特にない。


 というか、今は少しでも人材が欲しくてたまらないのだ。獣人だからエルフだから、ドワーフだからと嫌がる余裕はないのだ。


 少しでも間口を広くして多くの優秀な人材を集める必要がある。わざわざ人間だけにして、選択肢を狭める必要はないだろう。


「まずは自己紹介をしようか。俺はノクト=ビッグスモール。この領地を治める領主。そして、隣にいるのがメイドのメアだ」


「メアといいます」


 俺が名乗り、紹介するとメアが丁寧に頭を下げた。


「次は皆の名前を教えてくれるかい?」


「ガルムです」


「オリビアです」


「ク、ククルア」


 俺が尋ねると獣人の男性、女性、少女が順番に名乗ってくれた。


 そして、次にドワーフ二人に視線を向ける。


「ローグじゃ」


「ギレムじゃ」


 ドワーフの男性二人は胡乱な態度を隠さないまま名乗った。


 あれやこれや保証をしてくれる俺を胡散臭く感じているのかもしれない。


 まあ、これはこれで素直に感情を露わにするということがわかって、こちらもやりやすいものだ。


「ありがとう。これから皆に住んでもらう家に案内するから付いてきてくれ」


 俺がそう言って歩き出すと、獣人やドワーフたちが付いてくる。


「ここにある民家を好きに選んでくれ。生憎、他の所にある民家まで管理が行き届いていないからここにあるもので我慢してほしい。大体どれも造りは同じだ」


 俺がそう説明すると、男性獣人であるガルムがおそるおそる尋ねてくる。


「……ほ、本当に家を貰えるのですか?」


「うん? ラエルは条件を説明していなかったのか?」


「いえ、きちんとしましたよ」


 ラエルの毅然とした態度や獣人たちの様子を見るに、説明不足ということでもないようだ。


「家だけでなく食料も三か月は保証するし、すぐに耕せる畑だって与えるさ」


「獣人にまで適用してくれるとは思ってもみませんでした」


 女性獣人であるオリビアが呆然としたように言う。


 どうやら以前住んでいた領地でよほど酷い扱いをされていたようだな。


 ラエルが説明した条件が守られるとは獣人たちは思っていなかったみたいだ。


 これは最初にきっぱりと言っておく必要がある。


「獣人だろうと人間だろうと条件に差をつけることはない。知っているかもしれないが、俺は領民に逃げられてしまって、お前たちしか領民がいないんだ。領地を立て直すためにも人手がいる。そのために手厚い保護をして、力になってもらおうと思っているんだ」


 意味の分からない善意は時に人を不安にさせる。


 だったら、腹を割ってこちらの思惑を理解させた方がわかりやすいだろう。


 俺がハッキリと打算を述べると、ガルムたちはようやく納得がいったような表情をした。


「随分とハッキリ言うんじゃの? 貴族というのは見栄やプライドを張る生き物じゃと認識しておったが」


「領民ほぼ全員に逃げられた領主に見栄やプライドなんてないよ」


「フン、お前さんは他の貴族とは違うようじゃの」


 鼻息を漏らすローグとギレムであるが、その表情は少しだけ柔らかくなっていた。


 まだ完全に警戒を解いてはいないみたいだが、少しだけ認めてもらえた気がする。


「それじゃあ、改めて家を選んでくれ」


 俺の言葉を聞いて、ガルムたちやローグは家を見定めるために動き出した。







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[気になる点] 他の領地では獣人達の差別が珍しくないなら元領民が逃げ出すのは早すぎますよね。 他の土地だと問答無用で奴隷と変わらない扱いをされるぐらいなら、今まで住んでいた土地を新領主と守る選択肢を取…
[一言] 領主や法にちゃんと従う事も要求せんと・・・ 義務果たしてこその権利なわけやし・・・
[気になる点] 宝石のデカイのなんか売ったらどこで仕入れたか付け狙われるっしょ…
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