初めての解体その2
フィオナは血まみれになった使い捨て手袋を外した。
ヒロシはリュックサックから取り出した薬液で満たされた瓶にゴブリンの肝臓を入れていく。
「よし、これで保存は大丈夫だな」
「それは良かったです・・・」
フィオナは青い顔をしながらヒロシに向かって呟いた。
はっきり言ってグロすぎる経験だった。ハムやウインナーがこの様な感じで作られているのは知っていたが、実際にやってみると気持ち悪さが半端なかった。
これが家畜ならまだ良かったかもしれない。しかし解体したのは魔物のゴブリンである。初解体としてはレベルが高すぎた。
(しばらくお肉が食べられそうにありません)
フィオナはそんな事を考えていた。
「フィオナ、大丈夫か?その顔だと無理だったみたいだな。すまなかった」
「いえ、やると言ったのは自分ですし。これからもヒロシの旅はこの様な感じなのでしょう?なら、慣れなきゃいけないと思ったんです」
「フィオナ殿、確かにヒロシの旅はこんな感じであります」
「でも、無理せずに断っても良かったのよ。魔物を倒してくれるだけでも大丈夫なんだから」
いつの間にかダイコクとスセリが2人の側に来ていた。
「そもそも、女の子にいきなり魔物の解体を頼むなんて非常識であります」
「経験者ならまだしも、どう見たって魔物の解体なんてしてそうにないじゃないの」
ヒロシを契約獣たちがたしなめる。
「それは・・・フィオナ、本当にすまなかった」
「いえ、謝らないで下さい。私はヒロシに助けてもらった恩を返したいと思っただけですから・・・・」
フィオナの顔は依然として青い。
「後の処理は僕とダイコクでやるから休んでいてくれ」
「ありがとうございます・・・・」
フィオナは近くの木に背を預けた。
「大丈夫?ヒロシは薬の事になるといつもあんな感じになるから困るのよね」
スセリがヒロシの性格を説明する。
「そうなんですか?」
「そうなのよ。薬剤士の家に生まれたからってもう少し周りに配慮すべきだわ。まあ、生まれた環境が環境だけに仕方がない所があるんだけどね」
魔物の死体はそのままにしておくと、それを食べに他の魔物が来る。
なので死体はギルドで解体する為に持って運ぶか、燃やして埋めるのが推奨されている。
ただ埋めただけだと他の魔物が掘り返して食べる場合があるからである。
掘り返して食事中の魔物の側を通りかかるとなると、それだけで魔物に襲われる可能性が高くなる。
フィオナとスセリが話している間に、ヒロシはリュックサックからスコップを取り出して穴を掘りだした。
ある程度の深さになるとゴブリンの死体を穴に入れていく。
解体に使った2人分の使い捨て手袋も穴に入れた。
「ダイコク、いつも通りに頼む」
「分かったであります」
ダイコクが息を吸い込む。ダイコクは息を吐くのではなく火をゴブリンの死体に向かって吐きだした。
ごおごおと火が続けて吐き出される。ゴブリンの死体に火が着きどんどん燃えていく。
なんとも言えない異臭が周りに立ち込める。
フィオナはとうとう吐きだしてしまった。
「フィオナちゃん!!大丈夫!?ヒロシ、水と吐き気止めを早くフィオナちゃんに!!」
「分かった!!ダイコクここはまかせたぞ!!」
「お任せであります」
ヒロシはリュックサックから大きめの水筒と吐き気止めを取り出す。
「ほら、まずはこれで口をゆすげ」
「ありがとうございます・・・・」
フィオナは水筒の蓋に注がれた水を受け取り、口を何度かゆすぐ。
「ほら、これを2錠飲むんだ。よく効く吐き気止めだ」
「はい」
フィオナは瓶に入った白い錠剤を飲む。するとたちどころに吐き気がおさまってきた。
「あの、これってもしかして」
「ああ、僕が作った薬だ」
フィオナは素直に薬剤士という職業、そしてヒロシに感心していた。
こんなにもよく効く薬を作れる薬剤士という職業は何で廃れてしまったのか?
フィオナは相変わらず青い顔でそんな事を考えていた。




