「薬剤士」という職業
「薬剤師?」
「違う、薬剤士だ」
お玉をよそってお粥を食べ進めながら2人は会話を続ける。
ダイコクとスセリも、お椀を持って匙を使いお粥をたべている。はたから見れば奇妙すぎる2匹である
「えーと、薬剤師って薬局にいるあの薬剤師ではないのですか?」
「もう廃れちまった職業だ。薬剤師はフィオナの言っている通りの職業だが、薬剤士は違う。
自分で薬草を採り、自分で薬になる魔物を狩り、さらに獲得した素材で自分で薬を作る職業だ」
「それって全部自分でこなして薬を作る大変な職業じゃないですか!?」
「ああ、そしてそんな大変な職業にお前は助けられたんだ。感謝しろ」
「本当に本当にありがとうございます」
「おう」
「フィオナ殿、自分の分のおかわりをよそって欲しいであります」
「あ、私の分のおかわりもお願いね」
蹄に食器をくっつけ、もふもふの掌に食器をくっつけお粥を食べている2匹が言う。
「あの、それってどうなってるんですか?」
食器を保持している2匹にフィオナが問いかける。
「これは魔力を使って食器をくっつけているであります」
「微量だけど食事の度に魔力が減るのよねえ、困っちゃうわ」
(成る程、そういう事だったのですね)
2匹分のお粥をよそってフィオナは思う。
ちなみに2匹がお粥をよそおうとすると鍋にダイブする事になるので、いつの間にかフィオナが2匹のお粥をよそう係になっていた。
「あれ?でも薬を作るだけなら冒険者ギルドに頼めばよいのでは?」
この世界には田畑を荒らす害獣の他にダイコクやスセリの様な魔物がいる。
魔物は危険な猛獣の様なものが多くそれを退治したり、
秘境に生える薬効のある貴重な草花を採取する職業がある。それが冒険者である。
文字通り命がけの冒険野郎共だ。女性の冒険者も勿論いるが。
その冒険者の集まった組織が冒険者ギルドだ。
「だから、廃れちまったんだよ。冒険者に依頼を出して取ってきて貰うのが楽だからな」
「ではなぜ、薬剤士等という職業を続けているのですか?」
「会ったばかりのお前に教えてやる義理はない」
「そ、そうですよね。すみません」
フィオナはシュンと落ち込む。
(私って助けてもらったばかりなのに無神経な事を聞いて)
「ヒロシは相変わらず口が悪いであります」
「そうね、もうちょっと優しくしてもいいんじゃない?」
「ダイコク、スセリ・・・・もう皆腹いっぱいになったからそろそろ寝るぞ」
もうすでに鍋の中身は無くなっていた。
「あの!!私一晩中見張るので、皆さん眠ってください」
ここは左右に森のある街道である。定期的に冒険者や騎士団が魔物を間引いているが、それでも安全とは言いづらい。
なので、旅をする者は護衛を複数人雇って、番を任せたり、冒険者は仲間達で交代しながら寝ずの番をするのがこの世界の常識だ。
フィオナは助けてもらったお礼がしたくて発言した。
「行き倒れていた奴にそんな事はさせられない。僕達の安全が確保されると思うのか?」
「うっ」
フィオナは言い返せない。体力の消耗したこの状態では寝ずの番など無理だろう。
「なので、魔物避け香を使う」
「それって滅茶苦茶高価で手に入らない物じゃないですか!?」
魔物避け香。魔物が嫌がる薬草や動物の糞等を混ぜて、乾燥させ渦巻き状に加工した物だ。
これがあれば寝ずの番から解放されると冒険者や運送業に大人気でとても入手困難な品だ。
ちなみに転売する輩がいるので滅茶苦茶高価で、通常価格は良心的である。
「僕は薬剤士だ。魔物避け香くらいなら自分で作れる。
それに夜に寝ないのは僕の主義に反する」
「は、はあ」
フィオナは薬剤士という職業、それに魔物避け香に驚いて曖昧な返事を返す
「それじゃ今夜一晩分の魔物避け香を焚くぞ」
猪のお香入れに入れて魔物避け香にヒロシが火を着ける
「フィオナはそこの寝袋で寝ろ。僕はテントの中で寝る」
「えっ!!私は外で寝るんですか!?」
「寝袋は暖かかっただろ?」
「わ、私もテントで寝たいです。雨が降ってきたら困るので」
「大丈夫、今日は降らない」
「何を根拠にその様なことを!?」
「根拠はない」
「えぇぇぇぇぇぇ・・・・」
「ヒロシは女の子と一緒に寝るのは初めてなので照れているのであります」
「もう、そういう所はヒロシは可愛いわよねえ」
「ダイコク、スセリ余計な事は言うな。分かった雨が降ってきたら入っても良いぞ」
「ありがとうございます!!」
「ヒロシが冷たいので自分はフィオナ殿と寝るであります」
「私もよ、フィオナちゃんが寂しくない様にね」
「お前らそれでも僕の契約獣か」
「寝る場所まで契約していないであります」
「そうそう」
「ダイコクちゃんとスセリちゃん、ありがとうございます!!」
2人と2匹の夜は安全に更けていった。




