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待ち時間には本が1番

冒険者ギルドの自動ドアを通ると様々な受付が並んでいた。ヒロシ一行の目の前だけではなく、左右の端から端まで受付が並んでいる。

天井には番号が表示されたモニターが何十台も取り付けられており、番号を呼ばれた冒険者が各々受付に向かって行く。


「なんだか役所みたいだな」

「おお〜これが冒険者ギルドなのですね」

「登録受付はどこでありましょうか?」

「討伐受付に護衛受付、素材買い取り受付に受付だらけね」


冒険者ギルドは役所のシステムを元にしている。そちらの方が前例もあるし、真似をしやすかったというのもある。

冒険者達はよほどの緊急事態でもない限り、それぞれの受付の番号札を取って、番号札に書かれた番号が放送で呼ばれるのを待つ。

天井に取り付けられたモニターに表示される番号を確認しながら、本を読んだりスマホを操作したりして待つのである。


「それで登録受付はどこなんだ?」

「ヒロシ、目の前にありますよ」

「おお、受付の数に圧倒されて気づかなかったぜ」

「早速、札を取って待つであります」

「私達は何番になるのかしらね」


ヒロシ一行の取った札には「113」と書かれていた。登録受付のモニターには90番台の番号が並んでいた。

冒険者ギルド内に設置されている何十脚ものソファーには、重装鎧の戦士やローブを纏った魔術師、軽装備の斥候等が座っている。


登録受付前のソファーには、明らかに新人と分かる冒険者予定者達が視線を右往左往させている。

これから下手したら死ぬかもしれない職業に就くのである。それは当然といえた。

「僕達はそこそこ待つ事になりそうだな」

「そうですね。本があれば良かったのですが」

「ヒロシ、漫画があったと思うのであります」

「少女漫画と同人誌もあったわよね」

ヒロシ一行はガチガチに緊張している冒険者予定者の中では明らかに浮いていた。

それ以前に喋る魔物2匹がいる時点で物凄く周りから浮いている。


ヒロシは山登り用のリュックサックから本を数冊取り出す。

ヒロシ一行は周りの視線も気にせずに漫画を読み始めた。

ヒロシは伝奇物の漫画、フィオナは魔法少女物の漫画。

ダイコクは日常物の漫画、スセリは戦艦をモチーフにした少女達が活躍する同人誌を読んでいる。

こいつらは本当に冒険者予定者か?そんな思いが冒険者達はおろか、冒険者ギルド職員にも広がっていく。


「あの、冒険者予定者の方達ですよね?」

「あ、はい」

ヒロシが漫画から視線を上げると1人の女性と目があった。

茶髪のポニーテールに細いフレームの眼鏡の女性がヒロシを覗きこんでいた。

冒険者ギルドの制服を着ている事から冒険者ギルド職員なのは間違いない。

笑顔をヒロシ一行に向けているが目が笑っていない。どうやらヒロシ達を冷やかしと思っている様だ。


「僕達は冒険者予定者ですよ」

「でしたら、その様な態度は冒険者予定者としてはいかがな物かと思いますが」

この女性職員、目付きが鋭い美人なので余計に笑顔が怖い。

「漫画はまずかったですかね?」

「いえ、そういう問題ではなく。貴方達はまだ冒険者ですらありません。そういった方々がその様な態度をとっていると、いらぬトラブルになりかねません」


ヒロシ達は周りの視線を今さらながら確認した。好奇の視線を向ける者、苛立ちの視線を向ける者、冷淡な視線を向ける者。

好意的な視線を向ける者は少なかった。

(う〜ん。姉ちゃんは漫画を読んでも大丈夫な場所って言っていたんだけどな)

「分かりました。すみません。皆、本をしまうから僕に渡してくれ」

ヒロシは女性職員に頭を下げ、漫画と同人誌を1人と2匹から受け取りリュックサックにしまう。

「いえ、こちらとしてもトラブルを未然に防げて良かったです」

女性職員は今度こそ本物の笑顔をヒロシ達に向けるのであった。

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