表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

PARANOIA in WONDERLAND

アリス・ダイアリー

作者: Y

 それは潔癖症ではないと言ったその人は、眠そうな顔をした赤茶色の髪の女の人だった。


「私の手は汚いと思うかね? 触られたくないと思うかね?」

「思わないわ。別に触ってほしいとは思わないけど」

「面白い回答だ。じゃあなぜ君は何度も手を洗いなおしている? 私は一度しか洗ってないぞ?」

「…………」


 誰もわかってくれない。何回手を洗ってもヌルヌルがとれない気がするなんて、誰も信じてくれないの。きっとそれはただの妄想だから……証明することもできない。話せばきっと、()()()()()()()()()()されてしまうわ。


「洗っても洗ってもなにか付着している気がする。丁寧に洗っても、洗い終えてしまうと()()()()()()()()()不安になる」

「…………」

「これだけ洗ったらさすがに綺麗になっただろうと思っても、また疑わしくなる。ああそうだ、洗う前の手で触れたところに対しても、おまえは疑いの目を向けるのだろう?」


 うん、だから私はまた手を洗うの。


「不安に負けてまた手を洗うと、何故かぬめりを感じる気がする。そのうちわけがわからなくなり、無理やり洗うのをやめ日常に戻る。そしてその手で顔を触ってしまうと、とたんに怖くなり今度は顔まで洗いだす。しかもそれは、()()()ではない」

「そう! あれ、どうして知ってるの?」

「私は科学者なのでね。不安には少しばかり詳しい」


 賢いってこと?


「私はね、不安のない世界を作りたいのだよ。だから不安を減らす研究をしている」

「減らすことと作ることは違うと思うわ」

「私のことをおかしいと思うかね?」

「あんまり思わない」


 この人の心は、私の手みたいに汚れに取り憑かれているのかもしれない。


「ねぇ科学者さん。私はどうしたらいいの? 私ね、どれが妄想でどれが現実なのかわからないの」

「そうだな。苦しいかもしれないが、洗い直しは二回までと決めると良い。心配するな、お前の洗い方なら二回も洗えば間違いなく汚れも、石鹸も落ちている。ああ、そうだ。最後洗うときは水洗いにしたら良い。その前にはハンドルも洗っておけ。完璧だろう?」

「ハンドルってなに?」


 そんなの、聞いたこともない。


「その水道のひねるところだ」

「これは()()()()じゃないの?」

「蛇口は水が出るところだ」

「なんでじゃぐちって言うの?」

「さぁな。今度調べておいてやろう」


 科学者っていっても、なんでも知ってるわけではないのね。


「洗っても落ちてない気がするのは妄想なの?」

「ああ、妄想だ。私が保証してやる」

「妄想ってなに?」

「現実みたいなものだ。それに取り憑かれている人にとってはな」


 この人は私を理解してくれる。そんな気がした。


「ねぇ私はアリス。あなたは?」

「ラヴクライン・ステインス」

「赤の女王ね」

「いや、違う。ただの科学者だ」


 まぁ、そうよね。私だって不思議の国から来たわけじゃないもの。でもちょっと、同じ物語に落とし込みたかったの。あなたのこと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ