10
ミラノは玄関を出た庭先で、八千流と共に座っていた。
すでに気持ちは落ち着いているようで、響の姿を見て彼女はすぐに立ち上がった。
響たちは火輪と八千流に礼を言ってから屋敷を後にした。
山道を二人は並んで歩いた。
「話は終わったの?」
「うん、待たせてごめん」
「勝手に待っていただけよ。私もゆっくり考えたかったし」
「八千流さんとは何を話してたの?」
「ただの雑談よ。あなたは?」
「ただの雑談……って言うわけにはいかないだろうね」
「そうね。でも、私に話す必要はないわ」
「そう」
「いや、やっぱり話してほしい。でも、ちゃんと自分で整理が出来るまで待つわ」
一応、彼女なりに気を遣ってくれているのだろう。
「ありがとう」
「八千流さんに聞かれたわ。どうして黒猫なんだろうって?」
「黒猫?」
「お姉ちゃんの姿よ」
「ああ……そういえば」
まるで意識しなかった。ミラノに憑いた白猫を知っていたため、それはむしろ自然なもののように思えていた。
「それがわかれば……お姉ちゃんの傷がわかるかもしれないって」
「……傷。何か覚えてることが」
「憶えていたら悩まないわ」
「そうだね。ごめん」
響は気になっていた。以前、妖かしとなった女性も響と会ったような気がすると言っていた。そして、マリノも同じだった。なぜ、皆、同じような反応をするのだろう。
思い出さなければいけないのは、自分なのかもしれない。
「ねえ、私って似てると思わない?」
ミラノは響の横顔を見つめながら言った。
「ボクたちが? そうかな、ボクはーー」
「似てるのよ」
決めつけるようにミラノが響の言葉を遮る。こういう時のミラノには言い返さないほうがいいことを響は知っていた。
「そう……かもね」
「じゃあ、これからも一緒にいましょう」
「え? 一緒にって?」
「似てるんだから、一緒にいたほうが良いでしょ」
少しキツめのいつものミラノの口調だが、その眼差しは真剣だった。
「そうだね。ボクのほうからも頼むよ。一緒にいてほしい。でも、その前にボクはまずボクという人間を見つけなければいけない。それを待っていてほしい」
自然にそんな言葉が口から出た。
響の言葉を聞き、ミラノは少し驚いた顔をした。そして、柔らかな笑顔を見せて小さく頷いた。
なぜだか、彼女の姉についての謎が全てわかった時、自分の過去も明らかになるような気がした。その時、彼女の笑顔が消えないでほしいと響は願った。
了




