気がつき始める主人公たち
前回は「生存するための存在だったやりがい」が、「やりがいを求めるために生存するようになった人々」の話、想像力による「群」の拡大、その結果「王道とは群に奉仕するやりがい搾取である」という一例として「ドラゴンクエスト」のお話させていただきました。
「ドラゴンクエスト」の場合、「人間社会という群の為に竜王を倒す」という物語の目的は早々に提示されます。
もちろんドラゴンクエストが発売された当時は、ゲームの容量などの問題で長く、複雑な物語は作りにくいといった事情はあったでしょうが、その後のシリーズも冒険開始時の旅立ちの理由はさておき、最終的には「世界(人間の社会)を救う」というテーマに収束していきます(全作品をプレイしてないので、たぶん、がつきます)。
これはドラゴンクエストと双璧とも言える「ファイナルファンタジー」でも基本的には同じです。
途中様々なドラマはありますが主人公の役割は「世界の救済」です。
もちろん滅ぼうとする世界を救済するのは、とても大事なことです。むしろ最優先事項とも言えます。
世界が滅べば、自分も滅ぶからです。
ただ主人公達はその過程において大抵がなし崩し的に巻き込まれます。
世界の救済自体は自衛でもあるため、巻き込まれれば否とは言えませんが……
これはもっとシンプルに言ってしまえば、「世界を滅ぼそうとする悪に、正義として戦う」です。
もちろん、そうじゃない物語も多数あります。あくまでも王道とは、という観点です。
これは童話「桃太郎」などでも取り扱われるほど、普遍的なテーマでもあります。
ちなみに王道とは、本来の意味では「簡単な方法」「ひねりのない楽な道」という意味です。
この王道ですが、「小説家になろう」においてはあまり人気のないジャンルとも言えます。
これは王道とは繰り返しになりますが世界を救う、つまり「群全体への奉仕」が義務化してしまうからではないかと思います。
現代に例えれば「国」や「会社」への「やりがいだけの見返りのない奉仕」です。
過去、日本では年功序列や年金が機能し、猛烈に働けばその後、国や会社といった「群」から見返りがありました(またはそう見えました)。
しかし現在ではこれらのネガティブな側面「過労死」や「公務員や政治家の汚職」「年金の崩壊」などの情報が増えました。
これによって全体への奉仕は個人の幸福につながらず、むしろ個人から搾取して経営者や役人(つまり国家)の私腹を肥やしたり、生存を脅かす存在とみなすように感じる側面が出てきました。
王道を現在風にアレンジしてあらすじを書いてみましょう。
崩壊が始まる社会保障。それを救うためにひとりの男が立ち上がる。
彼は莫大な財産を得て、破綻しそうな日本の財政を支えていく!
彼への見返りは、人々の笑顔だ!
……ちょっと読みたいかも? とはいえ共感はあまりできそうにないかも。
また物語の構造は複雑化し、以前であれば「悪」と定義されていた存在が、実は彼らなりの「正義」を元に行動しているといった具合です。
例え話ばかりなってしまいますが、「ドラゴンクエスト」の竜王が、実は人々の悪意を糧にして邪神が復活しそうになっている、それを阻止しようと動いていたのだ! とか、これは私のひねりのない思いつきですがそういった今まで悪人とされてきた側の事情です。
そして王道にもう一つあるのが、「成長要素」です。
成長には、肉体的なものや精神的なもの、「気づき」のような感覚の獲得と多数存在します。
これらは先祖代々の遺伝的な形質以外は基本的に「努力」や「研鑽」が必須となります。
しかし、ここにも人間独自の要素があります。
身分、財産などの環境の継承です。
つまりなろう小説において「女神に貰ったチートスキルで努力なしで無双!」というのは、本質的には「金持ちの家に生まれて親の財産でリア充になりたい!」 とか、「貰った遺産で廃課金だヒャッハー」というのと本質的にはあまり変わりません。
となると、転生ものでニートが死んでチートで無双は、前世の繰り返し、とも言えるかも知れませんね(あくまでチートで無双だけであれば、です)。
さて、このエッセイでテーマとしている「やりがい搾取」ですが、実際これを元に短編(形式は連載ですが)を執筆致しました。
騙されてSクラス冒険者になった田舎者、めちゃくちゃ適性があった ~農閑期の英雄~
という作品です。
すでに完結しており、おかげさまで4月10日 07時時点でハイファン日間の61位と、底辺作者の私の作品としては健闘しているといっていいと思います。
もしお時間あれば、ご一読いただければと思います。
実はこの作品は、ある有名作品の影響を受けています。
その作品とは「魔法少女まどか☆マギカ(以下まどマギ)」です。
とは言えまどマギに関してはTV版をざっと見た、程度しか知らないにわかなので、間違っているかも知れません。
ファンの方から見れば、「おまえごときが語るな!」と言われかねませんが、そこはご容赦を。
まどマギにおけるインキュベータは、願いを対価に少女たちに奉仕を求めますが、実は奉仕以上の搾取をする、主人公は最終的にその搾取構造を破壊する、という流れですね。
ただしインキュベータも搾取は利己的ではなく「宇宙を維持する」という大義はあります。
簡単に言えば、「宇宙がたいへんだから、不幸になるのは我慢してね」などという、ふざけた話をぶっ壊す! 宇宙の事なんか知るか! 仲間の方が大事なんだ! ということです。
そう、物語の主人公たちも、やりがい搾取に気がつき始めているのです。