ぴよその4 こはく
ちょっと長くなりました。
暖かい場所を求めて。
ぼくは歩いている。
もう左の羽の感覚がない。怪我が悪化したみたいだ。
ぼくはぷらぷらと左の羽をぶら下げながら、なんとか歩いている。
紫色が刺された箇所からさっきよりも広がっているのが分かる。
ぼくは今暖かい風が吹いてくる方に向かって、歩いている。
この先に暖かい場所があると信じて。
ぼくは倒れた。
あれからしばらく歩いてきた。風はちょっとずつあったかくなってきていた。それはこの先に暖かい場所があることを示していた。
でも、暖かい場所につく前にぼくは倒れた。
ここまでか。
視界がぼやける。
ぼくの意識は、闇の上で危なっかしくぷかぷかと浮かんでいる。あと少し、バランスを崩せば、とぷんと底のない闇に沈む。
そして、二度と浮かび上がって来ない。
二度と。
目の前が真っ暗になった。
闇の中はどんな感じなんだろうか。
闇の中は何も無いのだろうか。
闇の中は…………………
とぷん
まだです
闇の外から、光が手を伸ばす。
その手は小さな黄色いふわふわを光の中にすくい上げた。
まだ、死ぬときではありません、小さな命よ
ざばり
ぼくは目を覚ました。
痛っつ……………
左の羽が痛い。
少し感覚が戻ったようだ。
ぼくは身体を起こし、きょろきょろと周りを見た。
場所は変わっていない。少し、眠っていたようだ。
寝ている間に誰かに何か言われたような…………?
気のせいかなあ。
ぼくはまた歩き始めた。
暖かい場所は確実に近づいてきている。
歩く、歩く、歩く。
身体が軽くなったみたいだ。
ぼくはまわりを見渡すと、洞窟の中に少しずつ緑と光が増えているのを見つけた。
洞窟の中が明るくなってくる。
時々足元に草が生えている。
ぼくは歩き続けた。
洞窟の終わりが見えてきた。
歩く旅にしゃくしゃくと音が立つ。
ぼくは歩き続けた。
そして、とうとうたどり着いた。
暖かい場所に。
洞窟の中の光と緑の根元は、幾重もの緑の檻に包まれていた。
きらきらと金色に輝いているそれは、緑の檻の中に、ゆっくりと鎮座していた。
いや、あれは檻じゃない。家だ。
あのきらきらが有るべき場所なのだ。
ぼくは、少しその金色のきらきらに見とれていた。
すると、不思議な声がぼくの頭の中に響いた。
『小さき命よ』
「ぴょえっ!?」
低い声とも高い声とも表しがたい声だ。
なんというか、文字を読んだときのような感覚だ。
誰の声でもない声。その声を続ける。
『あなたはこのままでは死にます』
そうですか。
『先ほどあなたに怪我を負わせた黄色いしましま、蜂が毒を持っていたからです』
ああ、毒のせいだったんだ。
怪我のせいじゃ無かったのね。
『また、あなたから流れた赤い液体。あれは血と言い、あれも流しすぎれば死にます。ですが、傷が小さかったようで、そちらは問題有りません』
へー。
ところでこの声誰よ。
なんなのさっきから。
『私はあなたの目の前にある金色のきらきらです』
返事が返ってきた。
え、君?
『はい。あなたの思考を読みとっているのです』
わーおすごいね。
よくわからないけど。
ていうかぼく死んじゃうんだけどどうすればいいの?
助けてくれるの?
『いいえ。あなたは既に手遅れです。ある程度の怪我なら治すことが出来るのですが、あなたは身体が小さく、毒も流し込まれているので、厳密に言えば既に死んでいます』
え、じゃあなんでぼく生きてるの。
『私が生かしているのです。ですが、これも長くは持ちません』
じゃあぼく死ぬのか。
『はい。死にます』
……………
『ですが、助かる方法はあります』
助かる方法?
『転生です』
てんせい?
『はい。私があなたの肉体と魂を一度取り込み、再構築させるのです。そうすれば、文字通り生き返る事が出来ます』
ふむふむ。
何言ってるかわからないけど。
『簡潔に言えば、私の近くで眠れば傷が全回復すると言うことです。一度死にますが』
へー。
じゃあ、お願いしようかな。
このままだと死ぬし。
『では、私の元に来てください』
ほいほい。
ぼくはくちばしと羽を使い蔦を掻き分け、金色のきらきらの元に辿り着いた。
で、これからどうするの?
『このまま、寝れば大丈夫です。少し時間はかかりますが、あなたの身体を再構築させます』
なるほどなるほど。
ぼくは、こてんと横になった。
じゃあ、金色のきらきらさん。おやすみなさーい。
『はい。おやすみなさい』
……………ねえ、寝る前に一つ聞いて良い?
『なんでしょう』
なんで、ぼくを助けてくれるの?
『それは………私の気が向いたから、とでも言っておきましょう』
なんか含みがある言い方だなあ。
『まあ、その内分かりますよ』
その内かあ。
まあいいや。
おやすみなさーい。金色のきらきらさん。
『おやすみなさい。小さき命よ。それと、私の名前は、コハクです』
コハクか。
おやすみ、コハク。
ぼくは目を瞑った。
闇の中は、ぬるま湯みたいだった。
ぼくが求めた暖かい場所、というのはここだろうか。
いや、ここには何もない。
ぼくが求める暖かい場所は……………
『転生を開始します』
ここで大きな節目です。