【Q.アイドルはキレイ?】
私がアイドルを始めた頃の話しはだいたいそんな感じ。
ここから、お話は最初に戻ります。
あれから甘華ちゃんのおかげもあって少しずつライブ活動を重ねて、だいたい今は地下アイドルとして活動を始めて半年くらい。
今日も好きなアニメとかアイドルの曲のカバーとかしながら、一人でステージ立って歌って踊って。
オリジナルの楽曲制作とかグッズ制作に向けて少しずつお金を貯めるために、物販ではチェキを撮って。
う○ちのせいで、私はみんなの前で物販中にトイレに行く事になっちゃったけど、その後は何事もなかったかのように物販を再開して、オタクのみんなからも特に何も言われずに、物販も盛況のまま終われたし。
きっと、私があの時う○ちをしてしまったことは、誰にもバレていないと思う。
(とりあえず無事に終わってよかったぁ)
そんな風に、ホッと一息吐いていた時。
「ねえ、ひなちゃんさぁ」
「―――えっ、なに?」
楽屋って言えるほど広くないんだけど、ステージ裏の控室で自分の衣裳やメイク道具の片付けをしていたら、共演したアイドルグループの子から声をかけられた。
振り返ってみると、えーっと誰だっけ?
あ、そうだ。
『CRAEME JELLY』のミナコちゃんだ。
ダンスが売りの4人組グループで、背は一番小さくて小柄なんだけど、ダンスも一番上手で、顔もロリっぽい感じで可愛いからグループの中でも一番人気ある子だと思う。
私みたいに、一人で活動して、しかもまだ半年程度のアイドルとは華が違う。
「今日物販中、トイレ行ったでしょ?」
「あ、うん……」
やっぱ見られているよね。
うぅ、でも我慢できなかったんだもん。
全部あのう○ちのせいだよ……帰ったら絶対文句言わなきゃ。
私はどうやって言い訳しようか迷ったけど、結局苦笑い。
「えへへ、ちょっと我慢できなくなっちゃって――――」
そんな風に笑ってごまかそうとすると、ミナコちゃんは物凄い形相で、不機嫌そうに舌打ちしてきた。
「チッ――――ホント迷惑なんだけど」
「えっ……」
「もし私たちアイドルが『トイレで大便してた』って知られちゃったら、どうなるか分かってんの?」
「あ……う、うん……ごめんなさい」
そうだよね。
私がオタクの前でトイレに行ったりして、イメージが崩れるだけじゃなくて、それでもしも『アイドルのう○ちが桃色で喋る妖精』だなんて事がバレちゃったら、大変なことになっちゃうもんね。
「アイドルとしての自覚なさすぎ。ホント迷惑」
「ごめん、気を付けるね」
私はペコリと頭を下げたけれど、ミナコちゃんの機嫌は悪くなっていく一方だった。
「っていうか今日のライブもなに?踊りもクソ下手だし、歌もやばいよ」
「えっ……」
これまで共演者の人にここまで言われたことがなかったから、ちょっと唖然としちゃった。
けど、これたぶん、すごく怒られてるよね?
なにか怒らせるようなこと、しちゃった、かな……。
「あはは……ちょっと一箇所振りを間違えちゃって――――」
「才能ないし、アイドル辞めた方がいいんじゃない?」
「えっ……」
その言葉に、私は思わず絶句。
え、だって。
確かに、私より彼女の方がずっと人気はあると思うし、勢いもあるわけだけど。
私だって妖精さん(う○ちだけど)に選ばれたアイドルなんだよ?
いきなり才能ない、とかそんなこと言うのはひどくない?
仲間だと思っていたのに。
「え、えっと……」
「っていうか、なに? 今日の物販だってさぁ、私のオタク勝手に取らないでくんない?」
「えっ?」
「『ツッチー』そっちのチェキ列行ってたじゃん? あの人ウチらのオタクだから」
「え、でもそれは……」
確かにツッチー、『つちのこ』さんは私のチェキ券を買ってくれた人だけど、別に奪ったみたいな、個人的に何かそういうことしたわけじゃないし、昨日の別のライブにも来てくれていたDD(誰でも大好きっていう意味だよ)だし、むしろ対バンのイベントだったら、オタクが他のアイドルの物販にも来てくれることって普通にあると思うんだけど。
こんなに攻撃的に言われたの、初めてかも。
どうしよう、なんて言ったらいいのかな……。
そんな風に困っていた時。
「――――ちょっとミナコ、いい加減にしなよ」
止めに入ってくれたのは、同じグループの子だった。
えっと、名前なんだっけ?
黒髪眼鏡っこで、私が言えた立場じゃないけど、たぶんグループの中では一番地味だし、今日の物販も一人だけ後半暇そうにしていたから、あんまり人気はない子かも。
「は? なにユイナ」
あ、そうだ。
ユイナさんだ。
「ミナコ、言いすぎ」
「はっ、なに? 私に立てつく気?」
「恥ずかしくないの? マネージャーに言うよ?」
「チッ、はいはい。まっ、アンタもそうだけど、2人共才能ないんだから、さっさと卒業でも何でも考えた方が良いよ、私からのアドバイス」
吐き捨てるように言い残して、ミナコちゃんは自分のリュックとキャリーを持って、出て行っちゃった。
あーあ、なんかちょっと嫌な気分。
まぁ、物販中にトイレに行った私が悪いんだけど。
「朝比奈さん、ごめんね……あの子、今日機嫌が悪くて」
「いえ……」
ミナコちゃんに比べて、黒髪メガネっ娘の彼女は、いい人みたい。
私の表情を伺いながら、そんな風に謝ってくれた。
「えっと……それじゃ、私も帰りますね」
「あの」
と、私が荷物を持って帰ろうとすると、彼女が呼び止めてくる。
「失礼だけど、朝比奈さんって―――」
「はい?」
「『ウンコスキル』、使ってる?」
「―――――っ!?」
その言葉にドキリとした。
私のスキルは、なんというか、アイドル向きじゃないというか……ね。
「えーいやー、あはは……」
笑ってごまかすと、彼女の表情が少し陰りを見せる。
私を疑うような、不審がるような、そんな表情だった。
「――――もしかして、実はアイドルの資質ないとか」
「えっ―――――」
どうしてそんなこと聞くんだろう?
「それは……えっと、トイレの大便の話? それだったらもちろん、私も選ばれてるし、スキルも持ってるよ」
一応。
スキルに関しては、恥ずかしすぎるから絶対使わないけど。
「そっか、それならいいんだけど……」
私が答えると、ホッとしたように胸を撫で下ろした。
ちょっと怖かった表情も、緩んでる。
「どうしてですか?」
ここは、聞いておかないとね。
私もたぶんちょっと疑われていたみたいだし。
「実はね、最近この地下アイドル界に、『アイドルじゃない偽者アイドル』が混ざっているって噂で」
「偽物?」
「うん」
「それってつまり……」
「うん、まぁ、簡単に言えばウンコスキルを持たない、アイドルの資質のない女の子」
「普通のう○ちをする、女の子……」
思わずつぶやいちゃったけど、なんでわざわざそれ言ったんだろ、私。
普通のう○ちをする女の子、とか言う必要なかったよね、絶対。
「そんな子に私たちの秘密、バレるわけにはいかないから、勢いあるグループさん達の間で、結構話題になってて。朝比奈さんも気を付けてね」
「あ、はい」
うーん、アイドルじゃない、偽物のアイドルかぁ。
アイドルじゃないのにアイドル目指すなんて、変なの。
……あれ?
それって、変なのかな?
よくわかんないや。
それよりも、帰ってう○ちに文句言わなきゃ!
急いで帰ろうっと☆
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