【先輩アイドルもウンコする】
それから、こっそりトイレから逃げ出そうとしたんだけど、私が絶叫したせいで隣に入っていた子も慌てて出てきたから、ちょうど鉢合わせる形になってしまったのです――――。
「ねぇ―――」
「は、はひっ!? な、なに、かな……?」
やばい。
絶対さっきのこと突っ込まれるよぉ……。
『あなた、大便しながら絶叫するタイプ?』
『まさか、トイレでオ〇ニーしてたり……』
やだやだっ、そんなこと訊かれたらどうしよう。
目の前で私を不審そうに見ている子は、めっちゃ清楚で美しい子だった。
その純粋で、清純で、キラキラした目が、ついさっきまで自分のう○ちを抱きしめていた私に突き刺さる。
っていうか、私のブレザーについてないよね、う〇ち。
軽く見た感じ、大丈夫そうだけど。
そして一通り私をジーッと観察したあと、ついにその子が口を開いた。
「―――あなた、今ウンコしてたでしょ?」
はい、終わったー。
完全に今日から私は「絶叫しながらう○ちするタイプ」としてのキャラ確定だよ。
これまで地味めで当たり障りない学校生活を送ってきたのに。
こんなにストレートに訊かれたら、もうおしまいだよね。
―――――っていうか、女の子なんだから伏字使おうよ、伏字!
もうなんか、大切なものを失ったような感覚というか、諦めというか。
そんな感じで、私はもう隠すこともせずに小さく頷くしかなかった。
「はい……う〇ち、してました……」
ボソリ。
正直に、事実を伝える。
すると、目の前の子は一瞬、首を傾げて「うんち?」って目を丸くしたけど(だから伏字使おうよ!)、確認するように、今度は質問を変えて私に訊ねてきた。
「――――ひょっとしてあなたも、アイドルなの?」
「えっ」
え、なになに、この展開。
――‐―――――――@@@@@――‐―――――――
「それにしても知らなかったわ。まさかウチの学校に、他にもアイドルがいたなんて」
すごく偶然なんだけどね。
たまたま私がう〇ちと喋っている所を訊いた彼女――――別のクラスの三年生 聖澤甘華ちゃんは、中学生の頃から地下アイドルをやっている子だったんだ。
だから、あの桃色う〇ちの事も知っていて、私の絶叫とう○ちの声を聞いて、気付いたんだって。
それで今は放課後。
甘華ちゃんに誘われて、サイゼに来ています。
「アイドル……っていうか、昨日から、なんだけど」
「へぇ、そうなんだ」
甘華ちゃんは名前のわりに、アイスコーヒーをブラックで飲んでる。
甘党じゃないのかよっ!
ってツッコミを入れてみたんだけど、さっき普通にスルーされちゃった。
あぁ、私のバカバカ。
気を取り直して、色々気になっていることを訊かなきゃ。
「あの……聖澤さんもアイドルってことは、やっぱりトイレは――――」
「――――しーっ!」
でも、私がそのことを訊ねようとすると、甘華ちゃんは口元で指を立ててきた。
私は訳が分からないまま言葉を濁して、首を傾げる。
「朝比奈あさひさん、あなたもアイドルとして選ばれた以上、トイレの話は絶対タブーよ」
「タブー?」
えっ、そうなの!?
私がハト豆(ハトが豆鉄砲くらったよう)な顔してたら、甘華ちゃんは色々察してくれたみたいで、「はぁ」とため息を吐いた。
「なるほど。あなたのウンコは何も教えてくれなかったのね……」
いや甘華ちゃんアイドルでしょ!?
そんなサラッと伏字もナシに「ウ〇コ」って言っちゃってるじゃん!
サイゼだよ、ココ。
「えへへ、教えてくれないっていうか……昨日からその、怒ってばっかりで怖くて……」
「へぇ~、私のは上品なお姉さまなのだけど、なるほどそこは人によって違うのね」
「上品なお姉さま……」
えっ、待って待って。
なに、あの怒鳴り散らかす面倒くさい(無臭だけど)う〇ちって、私だけなの?
超ハズレくじじゃん、それ。
え、っていうか甘華ちゃんの上品なお姉さまってなに!?
これ、う〇ちの話だよね!?
「まっ、その話はここでは止めておきましょう。いい? 私たちアイドルには絶対に誰にも話してはいけない暗黙のルールがあるの」
「暗黙のルール……」
「朝比奈さんは、アイドルがトイレで大便をするイメージある?」
そんな風に、ようやく「ウ〇コ」とかじゃなくて「大便」っていうマイルドな表現になってホッとする。
あ、でもぶっちゃけ「大便」も大声で言える表現じゃないよね。
「ううん。ない、かな。アイドルはトイレに行かないっていうか、そういう神聖なイメージみたいなのあるよね」
まっ、そんなはずないじゃんww
とは思っていたし、みんなも流石に本気で信じてはいないと思うけど。
あれ、そういえばこの話、う〇ちともしたような気がしないでもないや。
甘華ちゃんはキョロキョロと周りの人が聞いていないことを確認すると、
「耳貸して」
って顔を寄せてきた。
私も片方の耳を近づけて、ちょうどテーブルの真ん中あたりで、甘華ちゃんがボソボソって教えてくれる。
「私たちアイドルはみんな、『桃色のウンコ』をするっていうことを、誰にも知られてはいけないの」
「知られちゃ、いけない?」
「そう。それが暗黙のルールよ。だから、アイドルはみんな人前ではトイレに行かないの」
アイドルたちの、暗黙のルール。
絶対に守らなきゃいけない、『ひみつ』。
そんな感じなんだって。
だから今日の私の、学校でのトイレは本当に危険なことで、アイドルのイベント会場や人の多い場所でも、絶対にう〇ちはしないようにしなきゃいけないんだ、って甘華ちゃんに釘を刺されちゃった。
それから甘華ちゃんは『アイドル』のことについて、色々教えてくれた。
アイドルのグループにも色々なジャンルの人がいること。
グループに入らず、ソロで活動する人も数多く存在すること。
アイドルはみんなとりあえず、チェキやグッズを作ってそれを物販で販売して、活動費を稼ぐこと、とか。
とりあえずソロで、好きなアニソンとかボカロ曲をカバーしていきたいって伝えたら、今度イベントの対バンに呼んでくれたり、イベンターさんって呼ばれるライブのアテンドをしている人を紹介してくれることになって、先輩アイドルである甘華ちゃんには感謝感謝だね。
――‐―――――――@@@@@――‐―――――――
「――――今日は色々教えてくれてありがと」
「ううん。アイドルって突然始まるし、最初は戸惑うことも多いと思うし、誰かに相談しづらいことだと思うから……」
そんな生理みたいな!
いや、まぁ、男子には絶対言わない、みたいな暗黙のルール的な感じで言えば、似てるのかもしれないけど。
「また、何かあればいつでも相談して」
「うん、ありがと!」
「ふふっ、お互いアイドルとして、輝きましょ♪」
「うんっ」
実際にアイドル活動をしている甘華ちゃんに言われると、私もアイドルなんだって実感湧いてくるよね。
サイゼを出て、別れ際。
そんな風に思っていたら、甘華ちゃんが少しだけ真剣な面持ちで、私を見ていた。
何か言いたそうだったから、目を合わせながら首を傾げる私。
「ん、なに?」
「最後に興味があるのだけど……」
「なになに?」
きっとアレかな。
どんな衣装にするのかって?
えへへ、実はもう決めているのです。
セーラー服にフリルを付けて、可愛くパニエでふわっとさせてスカートにして――――。
「――――あなたの『ウンコスキル』は、なに?」
「はえっ?」
あれ、全然違った。
え。ちょっと待って。
『ウ〇コスキル』って、なに?
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