【A.アイドルはウンコする】
「ハァ、ハァ……すみませぇ~ん、トイレありますか?」
ピンチ、ピンチ、大ピンチ!
魔法少女だっていきなりこんなピンチになることないよ。
絶体絶命。
ステージ裏に駆け込むと、対バンしていた他のアイドルグループのマネージャーさん(?)っぽい女性スタッフさんがいたので、私は迷わず聞いてみた。
「トイレは、楽屋出たところですよ」
「えー、お客さんと一緒っ!?」
最悪っ!
地下アイドルの箱―――会場のことだよ―――ではよくあることだけど、トイレが男女、出演者とお客さん全部共通のパターンだった。
「うぅ……どうしよ……」
近くのコンビニに駆け込む?
でも、もう限界だよ……。
たぶん、コンビニまで行く途中で力尽きて漏らしちゃう。
それは、絶対ダメッ。
アイドル的にもダメだけど、そもそも人間として終わっちゃう。
(恥ずかしいけど……)
正直、トイレに駆け込むところをオタクに見られるのとか、死ぬほど恥ずかしいし、その後に入られたりしたらホント最悪だけど。
――――もう、ガマン無理。
私はとうとう覚悟を決めて――――覚悟を決めたっていうか、もう諦めたって感じだよね、うん。
そんな感じで、お腹を押さえながら仕方なく、私を待って並んでくれてるヲタクの列の後ろをダッシュで横切りながら、男女共用のトイレに駆け込んだ。
――――バタンッ!
――――「なんだ、ひなっちトイレかよーww」
――――――「めっちゃ焦ってたから、何かと思ったわw」
――――――――「っていうか、アレじゃね、女の子の日じゃね?」
ドアを閉める瞬間、そんな風にコソコソ聞こえてきたけど、無視無視。
聞こえなかったフリしてドアの鍵をガチャリとかける。
「うぅ……! 痛い、痛いぃっ……っ!」
急げっ、急げっ。
ほとんど前傾姿勢で身体を丸めながら、私は慌ててスカートの中へと手を入れた。
見せパンを脱いで、中に履いているショーツも下ろす。
そしてようやく便座に腰を掛けた瞬間――――。
「んっ……出る……っ!」
力む必要が無いくらい、一気に押し寄せてくる排泄感。
せめて音が出ないで欲しいと願いながら、慌てて音姫起動。
――――ジャアアァァ~~~~♪
そんな音と、会場内に響くBGMに掻き消されながら、
―――――プッ、プウゥ……ッ
一度、空気の抜ける音が恥ずかしく先行した後、私は思い切りお尻の穴に力を入れた。
「んっ……んんぅっ!」
――――――ポンッ!
まるでワインボトルの栓を開けた時のような音。
たぶん大丈夫、ドアの向こうには聞こえていないと思う。
「……はぁぁ~」
出た。
身体から重い鎖が解かれたような解放感。
幸せってこういうことを言うのかもしれないね。
さてと、これで分かったでしょ?
――――アイドルはう○ちをしない?
そんなのはウソ。
だって私、今だってライブ会場のトイレでシテしまったんだもの。
そう。
アイドルだって、女の子で。
女の子だって、人間だもの。
普通に、う◯ちくらいはする。
でもね、さっき言っていた『ひみつ』って、実はそのことだけじゃないんだ。
う○ちするのは、普通の生理現象だから、当たり前といえば当たり前でしょ。
でも、私はアイドルだから。
少しだけ、普通の人とは違うところがあって。
それが『アイドルたちの暗黙のルール』で。
絶対、誰にも言っちゃいけない、秘密。
っていうか、そもそもこんなの人に言えるはずがないよ。
ガッカリされるとか、幻滅されるとか、そんなレベルじゃないもの。
だって私のう◯ちは―――――。
私たち『アイドル』のう○ちは――――――。
「――――ぶはっ! てめぇ、ひなっ! ウンコは便器でするなって何回言ったら分かるんだよ! このクソアイドルがぁっ!」
お尻の下、排泄を終えたばかりの便器から、突然響いて聞こえてくる怒鳴り声。
私はトイレットペーパーをくるくると取り出し、軽くお尻を拭うと、立ち上がった。
「ゴボゴボッ! おいてめぇっ! 聞いてんのか、早く助けろ! ガバッ、溺れちまうだろうがよっ!」
お尻で塞いでいた声は、立ち上がって便座が開いたことで、よりいっそう大きくなっている。
はぁ…。
ため息出た。
私は自分のお尻を拭いたペーパーを持ったまま、汚いものに触る時みたいに、指先だけで自分が今出したばかりの排泄物の、先っぽを摘んだ。
「そうだ、早く引き上げろ! ったく、俺を流す気かってんだ!」
「うぅ……汚いよぉ」
「うるせぇ! てめぇが便器なんかで出すからだろうが!」
「違うよぉ、それもそうなんだけど……」
そもそも自分の身体から出た排泄物、という時点で汚いから、どっちにしても汚いの。
そう。
もう気づいたかもしれないけど、私のう◯ちは、少しだけ普通の人と違うんです。
えっ、何がどう違うのって?
うーんとね、それは――――。
「――ったく、次は布団の上でしろよな!」
「うえぇ……絶対やだよぉ!」
私のう◯ちはね―――――。
「なんだとっ!? まるで俺が汚ねぇみたいな反応しやがって、このクソがっ!」
「だって汚いじゃん……糞はそっちだよぉ」
私のう◯ちは。
「うるせぇ! どっちにしろ、てめぇで出したクソだろぉがっ!」
――――――とってもお喋りな、無味無臭の桃色う◯ちなのですっ☆
「声が大きいよっ! ここ会場のトイレなんだから、そんな大声出さないでよっ、もう……」
うぅ、恥ずかしい。
オタクの皆に、こんなところ見られたら恥ずかしくて死んじゃう。
それに、アイドルが「う◯ちする」ことも、「う◯ちが実はピンク色で、しかも喋る」なんてことも、絶対絶対ぜーったい秘密だから、バレたら大変なことになっちゃう。
アイドルはね、もしもこの「う◯ち事情」がバレたら、終わりなんだって。
だから、「アイドルはう◯ちをしない」っていうのが皆の共通の認識で、アイドル達の『暗黙のルール』。
今みたいに会場のトイレでう◯ちをしちゃうなんて、アイドルがイベント中に最もしてはいけないことNO.1に等しいくらいかも。
「っていうか、イベント中は出て来ないでっていっつも言ってるじゃん……!」
「うるせぇ! てめぇがダンスの振りを間違えやがるから、指摘してやろうと思ったんだろうが!」
「それは全部終わってからにしてよぉ……」
何それ、そんなことで出てくるなんて、本当に迷惑な、う○ちだよ。
「ステージ中に急に便意が来た時はどうしようかと思ったんだから! ほんとやめてよぉっ」
あっ、っていうか、暢気にう○ちの先っぽを持って話してる場合じゃなかった。
今はまだ物販の途中で、オタクの皆を待たせているんだもん。
「とにかく私、まだ物販の途中だから、一回流すね!」
「あっ、おいてめぇ! まだ話は終わってねぇぞ! 聞いてんのかっ、クソッ、クソッ!」
指先で暴れ回るピンクのう◯ちを、私はパッとトイレットペーパーごと手を離して落とす。
「―――このクソアイドルがぁぁっ!」
―――――ポチャンッ
「がばっ、ゴボボッ……てめぇ、振りミスった件、このまま水に流せると思うなっ、ゴボッ、よ…ゴボゴボボオォォ……!」
「分かってるよぉ、また今度ちゃんと話し聞くから、じゃあね!」
そのまま私は、急いでトイレのレバーを「大」の方へと捻った。
「クソぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
――――――ジャアアァァァァァア……
怒りの断末魔をあげながら、私のう◯ちは排水管の奥へと流されて行っちゃった。
たぶん、このまま水に溶けてさよなら、だと思うんだけど。
「―――よしっと♪」
お腹も無事スッキリ。
私は入念に石鹸で手を洗って、持っていたタオルで手を拭いて、目の前の鏡で少しだけ前髪を整えると、笑顔でトイレを後にした。
急がなきゃ、みんなが待ってるから☆
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