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【それでも私は汚れない】


――――――次の日。


 ライブの日。

昨日は結局一日中、アカリちゃんへの悪い噂が炎上し続けて、誹謗中傷が加速に加速を重ねて、もう収拾がつかない状況になっちゃって。


 午前4時に、アカリちゃん本人の公式SNSが削除されちゃった。

第三者の私ですら、本当にひどい書き込みばかりで気が病みそうになったくらいだから、きっとアカリちゃん本人は、もっと辛かったと思う。


 結局、アカリちゃんに送っていたLINEのトークに既読が付いたのは、ライブが始まる直前、ライブの箱の開場時間が過ぎてからだった。


 アカリちゃんは、リハの時間には、当然来なくて。


 ライブ開始までもうあと30分しかない。

本当に来ないのかも。

そんなの嫌だよ。


 そう思っていた時だった―――――。


「……おはようございます」


 控室のドアが開いて、出演者たちの少しピリついた会話の騒がしさに消え入りそうになりながら、入ってきた声。

 ハッとなった私は、鏡で目元のチェックをしていたメイクも放り出して、慌ててドアの方を振り向く。


「―――――アカリちゃんっ!」


 なんとそこにはね、アカリちゃんが立っていたんだよ!


 慌てて駆け寄ろうと立ち上がったけど、それよりも先に『CRAEME JELLY』のミナコちゃんが甲高い声で笑い始めたから、遮られちゃった。


「―――――あーはっはっは! うけるっ! ヤリマンビッチのアカリちゃんじゃーんっ!」


 ミナコちゃんのその声を皮切りに、ピリついていた控室のアイドルさん達が一斉にドアの方へ注目する。


「……」


アカリちゃんは、疲れ切った顔で、ミナコちゃんをジッと見ていた。

それでもお構いなく。

すごく愉快そうに、ミナコちゃんはアカリちゃんに歩み寄っていく。


「ねぇ、昨日のやばくない!? あれマジっ!? っていうか今日もよく来られたね、私なら普通に無理だわ~☆」

「……」


 ひどい言い方だった。

前に私が注意を受けた時も、厳しい言い方する子だなって思っていたけど、今はアカリちゃんにもっとかけてあげるべき言葉があるはずだよね。


 開口一番にそんなことを言われたアカリちゃんは、泣きそうな顔で俯きながら、


「私は何にもしてないから……」


ボソリ。

消え入りそうな声で、昨夜の噂を否定した。

その呟きを聞いていたミナコちゃんは、大げさに目を見開いて、今度はアカリちゃんに心配そうな目を向ける。


「へぇ~そうなんだぁ。やっぱりガセなんだぁ……えぇ、それなのにあんな噂が立てられちゃって、かわいそう~……」


ミナコちゃんはそう言って、チラっと私の方を見た気がした。


(えっ、なに……?)


ミナコちゃんの、ニヤリとした口角。

睨みつけるような、鋭い眼。

ゾクッと、寒気がした。


「いったい誰が、アカリちゃんがヤリマンだとか、クズだとか偽物とかって噂流したんだろうね~☆ きゃはは、マジそいつ死ねよって感じ~」


 再びミナコのちゃんから突き付けられる視線。

私を、見ているよね、ミナコちゃん。

それって、つまり……私が噂を流した犯人ってこと?


ミナコちゃんに釣られるようにして、アカリちゃんもチラリと私の方を睨みつけてくる。


「アカリちゃん……」

「……」


まるでアイドルとはかけ離れた、虚ろな瞳。

輝きを感じられない、悲しみに溢れた、暗い瞳が、私の姿を映し出す。

 

やばい、やばいっ、やだ。

否定しなきゃ。

私は本当に、なんにもしていないのに。


「アカリちゃん……え、違うよ……私は、本当になにも言ってないし、あんな噂なんて……するわけない、でしょ?」

「―――――あーっはははっ! ひなちゃんどうしたのー? そんなに慌てて。ウチら別に何も言ってないんだけどぉ? えっ、っていうか、もしかして本当に犯人ひなちゃんだったりするの? 2人仲良さそうだもんねぇ、なんか他の子に隠してる事とか一番知ってそうだし~、えぇ、やば、マジで怖~い☆」


やめてよ……。

私が否定したのを棚に上げて、そんな風に言わないでよ。

本当に、本当に、私は何もしていないし、何も知らないのに……。


「……」

「アカリちゃん、本当に私は――――――」

「――――あ、そうだぁ」


私はなんとかアカリちゃんに近付こうとするけど、ミナコちゃんがギュッとアカリちゃんの腕を抱き寄せて遮られちゃう。


(ミナコちゃん……もしかして私やアカリちゃんをハメようとしてるの……?)


「ねぇアカリちゃん、昨日の騒動でオタクの皆も誤解しているかもしれないからさ、オープニングのトークで一緒に出てきて、話そうよ。今日ウチらの主催だから調整できると思うんだぁ☆」

「……いいの?」

「もちろんっ! ほら、そうしたらすぐ出番になるから、早く着替えて、着替えてっ☆」


暗い雰囲気のアカリちゃんを元気づけるようにして、背中を押すミナコちゃん。


(あれ……? 私の気のせい、かな……)


一瞬、ミナコちゃんのこと「最低っ」って思ったけど、アカリちゃんの為を思って言っただけで、悪気はなかったの、かな。

とりあえずアカリちゃんの噂が嘘だったって、ミナコちゃん達も含めてみんなで言えば、オタクのみんなも信じてくれるよね。


まだ、私に向けられるアカリちゃんの視線が冷たくて、悲しい気持ちになったけど、あとでちゃんと説明して信じてもらうしかないよね。

 そう思いながら、私は着替えに行ってしまったアカリちゃんの背中を見つめていた。


私も出番割と早いし、気持ちを切り替えなきゃ。




ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ ξ 




「本日は『CRAEME JELLY』主催ライブにお越し頂きありがとうございまーす☆」


開演予定時刻から、遅れること約5分。

メンバーの子がそんな風にトークを始めて、メンバーそれぞれの自己紹介が終わった後。


「今日は対バンでたくさんのアイドルさんにお越し頂いておりますので、楽しんで行ってください☆」


っていうメンバーさんの言葉に入り込む形で、ミナコちゃんが大きく手を挙げた。

メンバーの中で一番背の低いミナコちゃんは、大きく手を上げながらぴょんぴょんして可愛さアピール。

実際、やっぱりすごく可愛いなぁ。

あ、ちなみに私もちょっと心配だったから、客席の隅っこでコソコソと、ステージの様子を見ているよ。


「はいはーいっ☆ 今日の出演者さんにねっ、今めっちゃトレンドになってるアイドルさんいるじゃん? SNSのアカ消しちゃってたから心配してたけど、実はさっき来てくれたから、ちょっと呼んでみようよ☆」


 そのミナコちゃんの明るい口調に、会場を埋め尽くすオタク達が一斉にざわつき始める。

うん、まぁ、そうなるよね。


「おー!? マジでっ!? ほたるん来てんのっ!?」

「やばいだろっwww」

「アカリーっ! 俺は信じてるぞーっ!」


キャパは100くらいの小さな箱だけど、『CRAEME JELLY』さんは今すごく人気のグループだから、簡単に埋まっちゃって。

当日券も完売みたいだから、たぶん120人くらい入っているんじゃないかな。

超満員のギュウギュウ詰めだよ。

そしてそのほとんどが『CRAEME JELLY』さんのオタクだと思う。

一応、私の為に来てくれた人も何人かいるけど、その人たちも『CRAEME JELLY』も好きっていう人ばかりだし。


「というわけで、蛍乃アカリちゃーんっ☆」


ミナコちゃんに呼ばれて、アカリちゃんがマイクを持ってステージに登場。

やっぱり少し元気はなかったけど、それでも笑顔で登場してきたアカリちゃんは、やっぱりアイドルだ。


「なんか昨日はすごく大変だったねぇ~」


ミナコちゃんが、明るい口調で話を振る。

オタクの皆は、アカリちゃんの言葉を待っている様子で、静かにステージ上に注目してる。


 アカリちゃんは真剣な表情で、言葉を選んでいるみたい。

数秒間の沈黙の後、オタクの皆に向かってしゃべり始めた。


「昨日は、私に身に覚えのない噂がツイートされて、拡散されて、すごくショックでした……私のことを知らない人たちからも、めっちゃ誹謗中傷されて……怖くなってSNSのアカウントは消しちゃったけど……あんな噂は、いっさい知りません。完全に悪質なデマです。皆さんにはご心配をおかけしてごめんなさい……」


そんな風に謝りながら、アカリちゃんはオタクに向けて頭を下げた。


―――――パチパチパチッ!


 会場に湧き起こる拍手。

オタクの皆がアカリちゃんのことを信じてくれた証拠だった。


(とりあえず、よかったね……アカリちゃん……)


 まだ色々アカリちゃん自身、不安や心配事も多いと思うけど、とりあえず今日は大丈夫そう。

そんな風に、ホッと胸を撫でおろしていたのに――――――。


 ―――――その後の、ミナコちゃんの余計な一言が。


「―――はいは~い☆ みんな聞いて、聞いて」



――――――全てを突然、壊したの。


「噂は嘘だったみたいだけど~☆ ウチの運営とアカリちゃんが寝たみたいな噂あったじゃん? あれさぁ、実際、私ホテルに入っていくところ見ちゃったんだよねぇ~☆」

「―――――――えっ!?」


驚いたように、目を見開くアカリちゃん。

何が起こったのか分からない、っていう表情で、ステージ上で凍り付いていた。


「えー!!?」

「マジかよ……」

「え、なに、やっぱアカリはビッチだったってことかよ……」


―――――ざわざわ……!


 一度静まり返っていた会場が、一気にざわつき始める。


(えっ……なに、これ……?)


私も正直、ワケがわからなかったよ。

ミナコちゃん、突然何を言い出すの?

せっかく、今キレイに治まるはずだったのに。

なんでそんな勝手なこと……。


「え……違う、だって私は……」


戸惑いながら、慌てて否定しようとするアカリちゃん。

でも、そんなアカリちゃんに対して、ミナコちゃんの暴言はどんどん加速していった。


「っていうか、ウチの運営ってマジ気持ち悪いおっさんだからさ、よくアレいけたよね~☆ ほら、ウソついてないでちゃんと本当のこと言いなよ~☆」

「ち、違う、何言ってるの……!? そんなの私、知らないし……人違いだから」

「ねぇみんな聞いて~、この子ウチの運営を誘惑して、私たち『CRAEME JELLY』を潰そうとしてたんだよ~、私怖いからみんなに全部話すね☆」

「――――違う、そんなことしてないってば!」


 やっぱり、さっきのは気のせいじゃなかったんだ。

ミナコちゃんは、初めからアカリちゃんを貶める気で……。

でも、なんでそんなことするの?

本当に、アカリちゃんが『CRAEME JELLY』の運営さんとホテルに行ったりしたのかな?


(―――ううん、絶対そんなはずないっ!)


 アカリちゃんはアイドルだから、そんなこと、するわけないよ。

やっぱり、ミナコちゃんがデタラメ言ってるに決まってるよね。


「きゃはは、マジであの豚と寝たとか、引いちゃうなぁ……っていうかさぁ、今日ホントよく来られたよね」

「そ、そんな……」


 裏切られた、信じられない。

そんな混乱した様子で、何もできず、ステージ上で立ち尽くし、肩を震わせるアカリちゃん。


「――――っていうかさぁ、精子臭いから近づかないでwwww マジアイドルの皮被ったビッチがステージ立ってんじゃねぇよっ!―――――――ニセモノっ」

「―――――っ!?」


 その言葉に、目を見開いて絶望する、アカリちゃん。


「にせ、もの……?」


 ひどい。

ひどいよ、ミナコちゃん……。

なんで、そんなこと言うの?


 でも。

ミナコちゃんは止まらない。


「あっははははっ! 精子臭い人がアイドルなわけないじゃん! ウケるwww あ、そうだっ! みんなでさー、ヤリマンコールしよーっ☆」


そう言って、会場のオタク達を煽るように、ステージ上で手拍子を始めてる。

パンッ!パンッ!っていう手拍子が、どんどん増えていって、大きくなっていって。


「はい、せーのっ♪ ヤーリーマンッ! ヤーリーマンッ!――――――」


 ミナコちゃんの口から、そんな下品な言葉が飛んだ。

そのミナコちゃんの指揮に釣られるようにして。

まるでお祭り騒ぎのように笑いながら乗っかり始める、オタクのみんな。


「ヤーリーマンッ! ヤーリーマンッ!――――――」

「ヤーリーマンッ! ヤーリーマンッ!――――――」

「ヤーリーマンッ! ヤーリーマンッ!――――――」

「ヤーリーマンッ! ヤーリーマンッ!――――――」


 ひどい、ひどすぎる。

こんなの、アイドルのライブじゃない。

アイドルが、こんな汚いはずない。


「――――っ!? アカリちゃんっ!!」


 戸惑っていた私がふとアカリちゃんの様子を窺うと、アカリちゃんがその場に崩れ落ちるようにしてしゃがみ込んで、顔を覆って泣いていた。

 肩が震えてる。

 オタクたちの汚いコールのせいで聞こえないけど、アカリちゃんの悲痛な声できっと鳴いている。


(――――――止めなきゃっ!)


 私は居ても立っても居られなくなって、興奮するオタクの人たちを掻き分けながら、ステージの上――――――アカリちゃんの元へと慌てて駆け寄った。


「―――――アカリちゃんっ! 大丈夫っ!?」

「……みんなヒドい……最悪……アイドルなんて、もうイヤだ……」


 ほとんど泣きじゃくりながら、鼻を啜ってそんなことを言うアカリちゃん。


 そんなこと言わないでよ、アカリちゃん。

アカリちゃんは、私よりもアイドルに憧れて、誰よりもアイドルしてたんだよ。

偽物なんかじゃないんだよ。

それなのに……。


「ニーセッモノーッ! ニーセッモノーッ!――――――」

「ニーセッモノーッ! ニーセッモノーッ!―――――――」

「ニーセッモノーッ! ニーセッモノーッ!―――――――」

「ニーセッモノーッ! ニーセッモノーッ!―――――――」


 会場のほとんどのオタクは、ミナコちゃん推しの信者ばっかりだから。

ミナコちゃんの喜ぶままに、どんどんエスカレートしていっている。


(私が……私がなんとかしなきゃ……!)


 私は勢いよくステージの中央に立って、お腹の奥から声を、大声を張り上げた。


「みんな聞いてっ……聞いてよっ!」


 全力で声を張り上げてオタクのみんなに訴えかけるけど、ミナコちゃんのファンのオタク達で仕切られた会場には、下品なコールが響き渡り、私の声がかき消されちゃう。

届かない。

やめさせたいのに。

アカリちゃんを助けたいのに。


「お願いっ――――みんな聞いて――――――」


 必死に叫ぶ。

 けど、ミナコちゃんが煽って、ミナコちゃんのオタクたちが列になってそれに乗っかる。

会場が揺れるほどの、コール。

鳴り止まないコール。


(悔しい……声が届かない……!)


 本当に悔しくて、私まで泣きそうになっていたら。

その時突然、声を張り上げて力を入れていたお腹が、ドクンッて揺れたような気がしたんだ。


 気のせいかもしれないけど、その瞬間、う◯ちのあの言葉が頭の中にフラッシュバックしてきて――――――。



――――――【俺から言わせれば『ウンコ』も『言葉』も大して変わらねぇんだ】


「――――っ!?」


(言葉も、う◯ちも同じ……!?)


 なんでこの言葉が出てきたのかわからないし、その言葉からどうしてその存在を思い出したのかは分からないけど。

私はハッと閃いた。


(ウ〇コスキル……)


 そうして思い出す、私のアイドルとしての、能力―――――。


―――――――【お前のスキルは……悪臭だ】


 このままじゃアカリちゃんが立ち直れなくなっちゃう。

アイドルを辞めちゃう、諦めちゃう。

そんなのはダメだよ、絶対。


だから―――――これしかない……!



「――――――アカリちゃん……私にはこんなことしかできないけど……」

「……え?」


 私は一度、アカリちゃんの元に駆け寄って、耳元で喋りかけた。


「―――それでも、アカリちゃんの正体がバレたのは、私のせいじゃないって信じて欲しいし、本当に私は、アイドルのアカリちゃんを、応援しているから……だから、私――――――」


そうだよ。

私なんかどうなったっていいんだよ。


今は私が、アカリちゃんを助けなきゃ。

――――――やるよっ!私っ!


「―――――ウ〇コスキル、発動するね」

「……えっ……なに……?」


 アカリちゃんは泣きながら私に聞き返してきたけど、ごめんね。

説明している暇はないよ。



「―――――――『悪臭』っ!」



 私は全力で叫んだ。

コールが鳴りやまない、下品でうるさい会場で。

全力フルパワーの『ウ〇コスキル』だよ。



――――ピカーン!!!!!

とか光るわけではなくて―――――。



――――――ぽわわぁぁぁ~ん☆

って魔法っぽく効果音が鳴るわけでもなくて―――――。









―――――――ぷうぅ~~~~~~~~~~~っ!!!








 オタクのコールをも凌駕する、そんな圧倒的下品な、空気の抜ける音。


―――――えっ、ちょっと待って!?

こんなドストレートなオナラの音が出るなんて聞いてないよっ!?


「……?―――――うわー、くせぇぇっ!?」

「誰だよ、クッセぇっ! うえっ! 誰かいま、ウンコ漏らしたろっ!」


 とんでもない音と臭いに、一気に静まり返り、そして噎せ返る会場。

オタク達も、ミナコちゃんでさえも、みんな戸惑ったように鼻を摘まんで、犯人捜しをするように辺りをキョロキョロ見回している。


「オエエェッ!! なに食ったらこんなニオイすんだよwwwww」

「マジくっせぇぇぇっ!!! 誰だよウンコした奴wwwww」


 思っていた以上の効果すぎて、一番驚いてるのは私だよ!

一瞬そんな風に泣きたくなったけど、もう後には戻れないから、会場が静かになった今の内に、全部私が伝えなきゃ!


「―――――私だよっ! どうっ!? 私のこのニオイに比べたら、アカリちゃんなんて精子臭くもなんともないし、めっちゃ良い匂いなんだからっ!!」

「……っ! ひな、ちゃん……!?」


 みんなの視線が、私に集中した。

よかった、声が届いたよ――――。


 オタクの方を見据える私の後ろで、ミナコちゃんと他メンバーさんたちの焦ったような声が聞こえてくる。


「えっ、まさかあの子……漏らしたの?」

「いや、そんなはずはないわ。 選ばれたアイドルが、こんなに臭いはずは」

「だからあの子もやっぱり、アイドルとして選ばれていない普通の女の子だったんじゃない?」


―――――ざわざわざわ。

ステージ上も、ステージ下も、ものすごくざわついている。

 あまりの混乱っぷりに、会場の後ろの方で操作しているPAさんに至っては、BGMの音すらも止めちゃってるし。


 でも、私にとってはその方が好都合だよっ。


「皆さん、聞いてくださいっ!―――――――――」


 私は戸惑いながら注がれる会場の視線を気にも留めず、必死に声を張り上げた。


「えっ、本当にひなっちが漏らしたん?」

「マジかよーwwwクサすぎwwww」

「おいおい、待てよ、ひなっちが何か言ってるぞ」


 次第に治まっていく、ざわつき。

そしてようやく私の声が、ハッキリ届くくらいになってくれた。

 

 ちなみに会場は、クサい。

私の『悪臭』は想像を絶するほどクサい。

本当にめっちゃ死ぬほどクサい。

ドブみたいなう〇ちのニオイだった。



 アイドルを輝かせるための『ウ〇コスキル』とか言ってたけど、こんなのアイドルのイメージ崩れ過ぎて、なんの夢も希望もない、普通のただの『ウ〇コスキル』だよ。


「皆さんにお話ししたいことがあります――――――」


 でも、私は汚れない。

どんなに臭いって思われても構わない。

汚いって言われても大丈夫。


 どんな風に言われても。

 私はアイドルだから。


 私自身は汚い言葉を使わないし。

 クサいイジメなんて、絶対しないから。


「蛍乃アカリちゃんのことですけど、さっきまでの話――――――ぜーんぶデタラメですからっ」


 アカリちゃんの潔白を証明するため。

ただそれだけを考えて、必死に、無我夢中で、私は声を張り上げた。





お読みいただきありがとうございます( ◍>◡<◍)。✧♡


ウンコ、ウンコできた綺麗なアイドル物語も終盤!

いよいよ次回!最終回ですっ!(*'ω'*)



☆twitterもやっておりますので、よろしければフォローお願いします☆

→https://twitter.com/amanogawa_saki

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